変態弓士は認めざるを得ない。



「信じられません……。まさかこんな事になっていようとは……」


 周りの現状を見てテロアが驚愕している。


「どう? ここが私達の、魔物フレンズ王国だよっ☆」


 とりあえず私は、ちゃんとこの目で見てみない事には信じる事が出来なかったので魔物の国があるというのなら連れていけとメアに言った。


 そしたらそれを聞いていた王様が、現状をきちんと把握したいからと言う理由でディレクシア代表調査員として騎士団から一人、民間から一人を選出し一緒に連れていってくれなんて言い出した。


 民間人を連れて行くなんて危険だし反対だと王に告げたのだが、民間人に危険が及ぶような環境ならば安全とは言えない。そこは私と、騎士団員が守ればいいと押し切られてしまった。


 騎士団からの人員についてはテロアがその場で立候補し、王の了承を得た。

 それと、万が一の場合何かがあってもいいようにとの事でテロアが民間人枠を一人選出した。


 自分の妹を。


「ナーリア様、凄いです。こんなにたくさんの魔物見た事ありません!」


 ステラがぎゅっと私の腕に自らの腕を絡ませて胸を押し当ててくる。


 この子の本性を見てしまった後だから、こういう演出なのはちゃんと分っている。


 分かっているのだが、分かっていたからと言って何も思わないかと言えば全然全くそんな事はないのだ。


「ステラ……相変わらず貴女は可愛いですね」


「マジで!? ……ほ、本当ですか? すっごく嬉しいです♪」


「……我が妹ながらご迷惑をおかけしていて申し訳ありません……」


 テロアがなんだか申し訳なさそうに私に頭を下げた。


「余計な事言ってんじゃねぇよクソ兄貴が」


 ぼそっと、私の傍らにいるちっちゃかわいい腹黒女子がそんな事を呟いた。


 こういう所もすごくいい。


「ちょっとー? 君たち視察に来たんでしょ? もっとちゃんと魔物フレンズ王国の事見てよね!」


 メアが、ほっぺたをぷっくりと膨らませて怒っている。


 姫と同じ顔で。


 可愛いなぁクソが。


 やっぱり簡単にメアの事を許す気にはなれないけれど、あの魔王メアリーとここにいるメアは完全に別人だと自分に言い聞かせる事でなんとか耐えている。


 本来なら今すぐにでも弓矢を眉間にぶち込みたい所だ。


「ナーリア様、ここにいる魔物達は本当に安全なんでしょうか……? なんだか皆クワ持って畑耕してますけど……」


 そうなのだ。

 広大な敷地に見渡す限りの畑。耕している真っ最中の物もあれば、豊かに作物が実っている物もある。

 昨日今日で突然作り出したものでは無い事がそれで分かった。


「じゃあいろいろ案内していくからね♪」


 メアの後をついて魔物フレンズ王国を見て回る。


 驚くべき事に、畑を耕している中に人間まで混ざっていた。


「あの、メアリー……さん」


「メアでいいってば」


 うー。呼び辛いなぁ。


「ではメア。あそこにいるのは人間ですか? あの人たちはどうやって連れてきたんです?」


「連れて来たとか人聞き悪くない? 私達がお願いして農作の事とかいろいろ教えてくれてるんだよ♪ 今人間は王国に四人居るよ」


 既に四人も魔物との共同生活をしているという事ですか……。

 少なくともここにいる魔物は人に危害を加えるような事はなさそう。


「おう、魔王さんよ。話はうまくまとまったのか?」


「あ、お馬さん♪ 勿論バッチグーよ! 今王都からの視察の人来てるから失礼のないようにね?」


「俺の名前はホーシアだって何回言っても覚えねぇんだこの魔王さんは。ここにいる魔物達より魔王さんが失礼な事しないか心配だけどよ……まぁ悪い奴じゃないから宜しく頼むよ」


 そう言って、声をかけてきたホーシアという馬っぽい魔物がメアと少しやりとりしてから私達に向かって頭を下げた。


 なんだか調子が狂うなぁ。

 でも実際私は、ライゴスとかの例もあるので、敵対する理由さえなければ意外と魔物ともうまくやっていけるのかもしれないなと感じ始めていた。


 そして、私は見覚えのある人物を見つけてしまった。


 あれは……名前は忘れてしまったけれど、姫の知り合いのお爺さんだ。


 それに、隣には私達がそのお爺さんに預けた馬も居る。


「……これは、認めざるを得ないかもしれませんね」


「確かに……これだけちゃんと国を運営しているとは驚きましたが私も同意見です」


 私のつぶやきに返事をするようにテロアが周りの様子を伺いながら頭をポリポリと掻く。


「はろーメアっち☆ 後ろの人達はお客さん?」


「帰ったのならまず私に報告をしていただきませんと!」


「ろぴねぇただいま♪ あ、ぺんぺんもただいま。一応ちゃんと同盟の話は成功だから安心していいよー♪」


 ろぴねぇと呼ばれた一つ目の魔物はメアをぎゅっと抱きしめて頭を撫でている。

 まるでよく出来た子供を褒めているみたいに。


 脇にいる小さなペンギンはぴょんぴょん跳ねながらお小言を言い続けてはメアに「はいはい」と適当にあしらわれていた。


 しっかしあの魔王、めちゃくちゃ人気者だなぁ……。



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