妹的に据え膳は食べる。


 黒髪、前髪ぱっつんのロングヘアー。

 何重にもなってる肩口が広く開いた着物。いや、巫女服か。

 太目で短い眉。大きな瞳。小振りで綺麗なピンク色の唇。


 うーん……。


「お姉様どうされたんですの?」


 今は日も暮れてきたので野営の準備をしていた。

 シリルは思ったよりもかなり器用なようで、近くを流れる小川から魚を数匹取ってくると、手早くナイフで捌いて串に刺していく。


 どこにそんな串を持っていたのかと思ったら、髪に刺さってたかんざしが無くなっていたのでそれを流用したのだろう。


 へぇ、生きる力は結構あるんだ?


「いや、実際問題ここで私の人生の大まかな道筋を決めてしまっていいものか悩んでてね」


「どういう事ですの? 私にはよくわかりませんが……ショコラ様は難しい事を考えずに楽しく生きる方がショコラ様らしい気が……す、すいません。まだ出会ったばかりなのに知ったような事を……」


 正直言って私は驚いている。

 確かに、私があれこれ考える必要も、これからの生き方を決めてしまう必要は全くないのだ。


 私は今まで通り好き勝手生きて行こう。

 その隣にシリルが勝手についてくるっていうだけの事だよね?


 その場合大事なのは私の人生においてこの子が邪魔になるかどうか。


 じーっとシリルを見つめ、観察してみる。


 彼女はせっせと串に刺した魚を、私が用意した焚火の周りにサクっと刺していた。


 そしてしばし無言の時間が流れた。


 シリルはしゃがんで、頬を包むように両手を当てぼーっと魚が焼かれていくところを眺めていた。


 なんていうか、まぁ、可愛い。


「ショコラ様、お魚焼けましたわ」


 そう言って彼女は私に焼き魚を手渡してきた。


 二人で食事をしながらいろいろな話をしてみたんだけれど、いろいろ難しくて理解しきれないような話を沢山聞いた。


 彼女が言うには、彼女ら至宝の護り手は三つの至宝を守る為に神に作られた存在で、自分の生きる意味はそれしか無かったからひたすら宝を守り生きてきたらしい。

 昔は地底深くで宝物庫の番人のような存在だったらしいが、神の時代が終わった時に地上に出る事を決めた。


 どうしてシャリィやキャナル達の集落を襲ったのかと言えば、勝った方が自由になって、至宝の管理を負けた方に押し付ける為、だそうだ。


 その点今はその二つとも私が持ってるから争う必要もなくなって安心してるってさ。


「そういえば今至宝は三つって言わなかった?」


「はいですの。三つの至宝があり、大昔は私達はただ一個体の宝の番人でした。そして、神達はその中の一つ、ニーサの勾玉を必要として持っていきました。だから私は残り二つの宝を守っていたのです」


 ……そして、いつしか神の時代が終わり、番人は地上へ出る事を選んで、心を持つ存在故の寂しさからか自らを切り崩し分裂する事で数を増やした。


 やがて、元は一つの存在だとしても意見の対立などがありそれぞれ一つ至宝を守る事にして集落を別に作り上げる。


 そして現在に至る、と。


 なるほどなー。


「結局その勾玉は行方不明なの?」


「そうですね。神が持って行ったっきり所在はわかりませんの」


「なるほどね。じゃあ誰が持ってるかは……」


「分かりませんわ。まだ存在しているのか、それとも神と共に滅んだのか……」


「ちなみにだけどさ、神様ってまだ一人生きてるからね?」


 私がそう告げると、シリルは驚くというよりも恐怖に引きつった表情を浮かべた。


「な、なななんですって……? ショコラ様は、その、その神と面識があるんですの?」


「まぁ、少しはね。でもそいつは私の敵。いつか殺す」


「神を、殺す……?」


 シリルは顔を真っ青にしてこちらを見つめている。


「言ったでしょ。置いていかれた方がマシだって思う事になるって。私と一緒に来るっていうのはそういう事だから。もし嫌なら……」


「確かに、私の認識が甘かったみたいですの。まさか神を敵に回しているとは……。素敵です。それでこそ私が一生付き従うべき相手!」


 ……あれ?


 シリルは興奮のあまり立ち上がって、何故だか服をいそいそと脱ぎ始めた。


「何してるの?」


「これから向かう場所も、その為の第一歩という事なんですわね!? 私、何があってもショコラ様についていきますの! このシリル・ムネリア……心も身体もすべて捧げる所存ですの!」


 そう言いながらシリルは私に向かって飛び上がり、空中で服を完全に脱ぎ捨てて飛び掛かってきた。


 私はその手を掴み、彼女の落下してくる勢いをぐるんと振り回す事で相殺し、逆にこちらが抱き留める形でその身を受け止めた。


「私に襲い掛かるなんて百年早いよ。 グイグイくるのは苦手だって言った筈だけど……まぁ、せっかくだし、据え膳なんとかって言うし、美味しく頂いてあげる」


「……はいですの♪」

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