妹的に戸惑う感情。
「……も、申し訳ないですわ……」
「ほんとだよ。あれだけ大口叩いておいて情けない」
出発して三十分もしないうちに巫女はぶっ倒れて動かなくなったので私が仕方なく背負って運んであげてる。
「でも……どうして私を置いて行かなかったんですの?」
「別に。ただの気まぐれだよ」
私は結果を求めてるわけじゃない。
やれるかやれないかじゃなくて、やろうとするかどうかの方が重要だと思ってるし、この子は私の実力をちゃんと理解した上で死ぬ気で付いていくと大口を叩いた。
絶対についてこれない癖に、それが分かっていて、遅れたら置いて行けと、死ぬ覚悟で私を追おうとしていた。
その時の気持ちってきっと私がおにいちゃんを探しに出かけた時の感情に似ているような気がする。
絶対無理だって、私なんかが一人探しに出たって出来る事はたかが知れてる。
だから私はさらわれて売り飛ばされた。
諦めてそこで一生働き続けるんだと思ってしまった。
そこが私の限界なんだって、勝手にそう決めつけた。
だけど、師匠が私を連れ出してくれて、戦い方を教えてくれた。
あの腐れ師匠には感謝してる。
あの人はあの人で本当にどうしようも無い人だったけれど、私はもう弱いままの自分じゃなかったから、師匠のところから逃げ出せたし、おにいちゃんと再会だってできた。
だから、今だってまだおにいちゃんの事は諦めてないし、もう一度会えると思ってる。
この子は何を考えて私に付いていくなんて決めたのか分からないけれど、そこに自分の命をかけるだけの覚悟があった事は確かだ。
だったら、私はちゃんとこの子を認めてあげたい。
ただそれだけ。
「名前は?」
「……へ?」
「名前だよ。まだ聞いてなかった」
「あの、最初にお姉様が襲来した時に名乗っているのですが……」
襲来って人聞き悪いなぁ。
「ごめん、興味なかった」
背中で巫女の子がガックリと項垂れたのが分かった。
首筋に頭がこつんと落ちてくるのを感じる。
「だから、ちゃんと覚えるから。ほら、名前」
「私の名前は……シリル。シリル・ムネリアですわ」
……尻る胸りあ……。
「よし覚えたよ。宜しくね尻……えっと、シリル」
「……! はい♪ 宜しくお願いいたしますわ」
少しだけ振り向いて背中にある顔を少しだけ視界に入れると、満面の笑みでとっても嬉しそう。
ごめんね。尻とか胸とかで覚えてて。
でもそんな名前してるのが悪い。
「足手まといになってしまい申し訳ありませんわ」
「別にいい。どうせ今は私一人なんだから。でもこのままついてくる気なら覚悟した方がいい。私の知り合い……仲間達はみんなとんでもない人達だから、ここで置いて行かれた方がマシだったって思う日が来るかもだよ」
ちょっと大げさかもしれないけど、あの人達……おにいちゃん達と一緒に旅するっていうのはそういう事だ。
私だっておにいちゃんと旅初めて少ししか一緒に居られなかったけど、それなのにいきなり五万の魔王軍と戦う事になっちゃったり、魔王本人と戦う事になったり、神様まで出てきちゃったり……。
「そんなに、なんですの? ……でも、そこにショコラ様がいて下さるのなら私は大丈夫ですの」
「うーん。困ったな」
「やはり、ご迷惑ですよね……?」
「うーん」
私はシリアを背負って少しペースを落とし気味に目的地へ向けて走り続ける。
その間いろいろ考えてたりもしたんだけど、やっぱりどうにも困ってしまった。
「性癖の話をしよう」
「えっ、どどどどういう事ですの!?」
そうだ。あれこれ悩むのは私らしくない。
「私はさ、シリルみたいに一直線に好意を向けられるの苦手なんだよ。どっちかっていうと嫌がる子に無理矢理襲い掛かるのが好き」
「はぁ……素敵な趣味ですわね」
こういうとこなんだよなぁ。
「それを聞いてシリルはなんとも思わないの? 苦手だって言ってるんだけど」
「えっと……私は別にショコラ様を独り占めしたいとか、自分だけを愛してほしいなんておこがましい事は考えてませんわ。私はただ、ショコラ様と一緒に居たいのです。……まだ何も知らないのに何を、とお思いでしょうか?」
「……まぁね」
「でも、ショコラ様にこの身体を蹂躙された時、私は生まれ変わりました。あの集落で永遠の時に縛られた生き方から解き放って頂きました。だから私は少しでもショコラ様に恩返しがしたいんですわ。もっと貴女を知りたいんですの。理由は、それでは足りませんか?」
うーん。
シャリィみたいにムラっと来たり我慢できなくなるようなタイプじゃないんだけどさ。
むしろこれ大事にしたくなるっていうか……。
うーん。自分の気持ちがよく分からない。
こんな事は初めてだった。
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