ぼっち姫、完全敗北と最低な希望。
手を離されためりにゃんは、魔法が使えない小さな姿に戻り、俺達が空中を走り回っていた魔法の効果も消え、落下していく。
その顔は、信じられないという表情と、もしかしたら俺に対する軽蔑も混じっていたのかもしれない。
きっとめりにゃんはここで手を離されたくは無かっただろう。
それだけの覚悟はしていた筈だ。
だけど、それでも俺はめりにゃんだけでもここから、少しでも遠ざけたかった。
アシュリーに声をかけた事で、こちらの様子には気付いた筈だからめりにゃんは大丈夫だろう。
受け止めてもらえる筈だ。
そして、出来る事なら早急にこの場から逃げてくれ。
まだそんな事を考えられる余裕がある事に驚くが、俺の身体は既に完全にメアに取り込まれていた。
目の前まで迫っていたメアの胸部から下腹部までの皮膚が、まるで本のページをめくるようにめくれ上がり、大きな口のようになったその空間に、俺は飲み込まれた。
不思議な事に意識ははっきりしている。
まったく身動きはとれないし体の感覚も無いが、意識だけは……。
そして、メアが見ている物が、その目を通して俺にも伝わってくる。
そして、彼女の思考、記憶までもが。
どす黒い嫉妬に塗れた感情。
この世の全てを恨んでいる。
俺はメアと同化する事で、彼女の過ごしてきた環境、今までの経緯、ロザリアとの関係、そしてアルプトラウム……。
それらを一瞬で理解した。
頭にその記憶や情報が瞬時に流れ込んでくる感覚。
今俺に頭なんて物があるのか分からないが、例えるならそんな感じだった。
同じ物になった事で、メアを理解した。
それと同時に、メアの燃えるような殺意、恨み、絶望、嫉妬、反逆心。
それらも理解した。
メアの感情は俺の感情になった。
俺はすべてを恨む。
この世の全てを。
人を、魔物を、そして惨めな自分を。
そこから這い上がったからには全てを手に入れなくてはならない。
全てを跪かせなければこの胸の炎が消える事は無い。
それは孤独な闘い。
メアは、俺は、私は、
ひとりぼっちだった。
神であるアルプトラウムは味方でも理解者でも無い。
あくまでも自分を利用している立場であり、何を考えているのか分からない。
自分に不利益をもたらさない限り放っておいて問題無いし、敵でも味方でも無い第三者であり、この世の生き物の理からは外れた何かだ。
私の名前はメアリー・ルーナ。
悪夢となりて
全ての影となりて
その全てを食らいつくす。
そしていつか、裏が表になるのだ。
『主、主!』
……何かやかましい声が頭に響く。
鬱陶しい。忌々しい。
『主! しっかりしてください!』
「お前は……」
『我は主のアーティファクト、メディファスです! この女の意識に飲み込まれてはいけません!』
「……メディ、ファス……」
俺は、いったい何を……?
『正気に戻られましたか? 主はあの女のおそろしいまでの執念に取り込まれてしまいそうになっていたのです』
そうか、俺はメアの経歴を知って……あの女の記憶が頭に流れ込んできて自分がまるでメアであるかのような錯覚をしていた。
「悪い。助かった」
『いえ、お安い御用です。相棒、ですから』
よく言うぜ。と、悪態をついてやりたい所だが今回は本当にメディファスに助けられてばかりだ。
なんとかこの状況を打開できる方法はないだろうか?
相変わらず身体の感覚は一切無い。
『今あの女は主をゆっくりと自分の中に取り込もうとしている、例えるなら消化している最中なのです。早く抜け出さないとやがて本当に一つになってしまいます』
だからそれをどうにかする方法をだな……。
メアの目を通じて見える映像に、恐ろしい光景が映し出された。
地面に膝をつきがっくりと項垂れためりにゃんを守るように障壁を展開するアシュリー。
身体からぶすぶすと煙をあげ地面に伏せるライゴス。
ナーリアは屋根から飛び降り、かけつけたデュクシと二人で戦いに望むが、一瞬で吹き飛ばされてしまう。
二人の目には、涙が浮かんでいたように見えた。
……俺が負けてしまったから、みんなに脅威が迫っている。
このままではみんな殺されてしまうぞ。
『このような時にする話ではないかもしれませんが……』
「なんだ? なんでもいい。言ってみろよ」
『このメアリー・ルーナは……その、女、でいいのですよね?』
「……まぁそうだろうな。何が言いたい?」
『一人、女相手ならば無敵の……』
「ショコラか!? この、命がかかった状況で……?」
確かにショコラの対女能力は恐ろしい物があるが……。
しかし、万が一だ、万が一にもショコラの能力というか技がメアに効いたとして、魔王を倒したのはとてつもない卑猥な技でした、なんて事に……。
『それは恐ろしいですが……最早それに期待するしかないのでは』
……嫌な最後の希望だなぁオイ。
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