ぼっち姫、終わり。
……終わった。
なんとか倒す事が出来たが、俺は俺の身体を粉砕してしまった。
あの神様のいう事を信じるのならば、あの女を倒せば元通りの身体に戻してくれるとの事。
この状況でどうやったらそれが可能なのか分からないし、もう無理だと言われるかもしれない。
だけど、俺達がメアに勝つにはもうこれしかなかった。
……簡単に割り切る事は出来ないが仕方のない事だったと思う。
……あーあーあーあー。
もし戻れないって言われたらどうしよう。
しかしあれこれ考えながら勝てる程甘い相手じゃなかったのは事実なのだ。
めりにゃんが言うにはあの女は俺達が知らないような魔法を数多く習得しているらしいし、あの女が最初から俺達を警戒して遠距離からの戦闘を選んでいたらきっと勝ち目は薄かっただろう。
運が良かった。
メアが完全に油断していた事。
だからこその接近戦だった事。
メディファスの提案が上手くいった事。
俺の隣にめりにゃんが居てくれた事。
このどれか一つでも欠けていたら、俺はきっとメアに勝てなかった。
俺が死ぬ事は無いが、俺にとっての負けは仲間の死だ。
メアがもっと違う戦い方を選んでいたら俺はみんなを守り切る事は出来なかった。
勝ったとはいえ俺の心はすっきりとは晴れなかった。
完全に運が良かっただけじゃねぇか。
『主、それでも勝利は勝利です。主の……いや、我らの力ですよ』
「その通りなのじゃ じゃからそんな風に顔を曇らせてないで今は笑うのじゃ♪」
そうだな。俺の身体がどうなるのかっていう心配はあるが、今はひとまず無事に勝利できた事を喜ぶべきだろう。
「ありがとうめりにゃん。……あとついでにメディファスもな。お前らのおかげで……」
「なぁんちゃって♪」
……っ!?
嫌な予感はしていた。
こんな運だけで勝ったような戦いがすっきりしなかったのもあるし、メアから感じた得体のしれない雰囲気のせいもあるかもしれない。
だけど、これで終わっていてほしかった。
俺達には、さっきの一撃以上の攻撃はもう残っていないし、あらゆる運が重なった上での結果だと思っていたから、それが少しでも揺らぐのなら成り立たない。
あれ以上の結果を得る事は不可能だ。
恐る恐る振り返ると、そこにはガラス玉のような感情の無い瞳で、邪悪に笑うメアが完全な状態でそこに居た。
「あら……なんて顔をしているのかしら?」
「お前、さっき間違いなく粉々になってただろうが……」
めりにゃんは言葉を失い俺の腕にしがみ付いている。
震えているのがモロに俺に伝わってきてなんとも言えない気持ちになった。
安心しろ、と言ってやりたいが今の俺はその自信がどうしても持てない。
我ながら弱気になったもんだ。
こんな気持ちになったのはいつ以来だろう。
メアはその様子を楽しむかのように目を細めて笑みを浮かべている。
こんな奴にどうやって勝てって言うんだよ。
「貴方だって身体が欠損しても元に戻るでしょう? どうしてそれが自分だけだと思うのかしら?」
「お前もあのアル何とかいう神様に不死身にでもしてもらったってのか?」
「ふざけないでっ!!」
今までずっと平坦だったその女の感情が、突然爆発した。これはかなり驚いた。
何がこの女をそんなに刺激したのだろうか。
「確かに身体を入れ替えたのはあの男。アルに頼んで強い身体を手に入れたわ。だけどね、数多くの魔法を使えるようになったのも、この身体を思う通りに作り替えたのも、私だけの力でやった事よ!」
メアは目をカッと開き、思いを吐き出していた。今までにない剣幕で、まるで叫ぶように。
「貴方みたいになし崩しで手に入れた力じゃないの。あの子みたいに最初からなんでも持っていたわけじゃないの。私は、私は最初から何も持っていなかった。自分の力で奪い取らなければ何も……」
そこまで、早口でも言うかのように一息で吐き出し、肩で息をする。
「……私とした事が取り乱したわね。でも、貴方は許さない。その身体で強靱な存在でいる貴方を許す事が出来ない」
何を言っているんだこいつは……。
段々と会話の内容に理解が追い付かなくなってくる。
「その体はね、元は私の物だったと言ったでしょう? 正しくは私と、もう一人の物だった……やっとの思いでその身体を私だけの物にしたけれど、この世界に復讐する為にはその身体じゃ足りなかった……」
もう一人っていうのはロザリアの事か?
元々はこの体をメアとロザリアが共有していた??
「だから貴方の身体を私の物にしたの。それなのに、何故貴方はその身体でそんなに都合のいい力を手にしているの? 大した努力もしていない癖に……ッ!」
メアの身体からとてつもない魔力が湧き上がるのを感じる。
……これは、
「気に入らない。気に入らない気に入らない気に入らないのよ貴方! その不死の肉体も、アーティファクトと同化しているその精神も、アーティファクトが変質したその武器も。すべて全て総て私の物にしてやる。すべて私の中に取り込んであげるわっ!!」
メアがそう叫び終わる頃には、その狂気に満ちた瞳が俺の眼前に迫っていた。
これは、ダメだ。
どうにもならない。
「アシュリー!!」
俺はせめて、そう叫んで
めりにゃんの手を離した。
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