ぼっち姫、メディファスの覚悟。
少し考えれば分かる話だった。
どうして身体を入れ替えられてもまだ俺が、完全にではないにせよ力をそのまま使えたのか。
身体ではなく精神と同化しているとメディファスは言っていた。
だから俺の精神の方にアーティファクトの力がついてきているのだと、そう思っていた。
深く考えたりしなかったのだ。
でも、だとしたらどうしてその力は完全では無かったのか。
その答えがこれだ。
俺の身体と、精神、その両方とアーティファクトは同化していたのだ。
だからこの身体に入った時、俺にはあのアーティファクトの力が半分程しか引き継がれておらず、残り半分は身体の方に残っていたのだ。
そう考えれば全て納得がいく。
要するに、目の前にいるこの新しい魔王、メアリー・ルーナは……。
アーティファクトが同化した身体を持ち、尚且つ他にもアーティファクトを所持して神をも味方につけた女だ。
こりゃ本格的にヤバくなってきたぞ……。
「少しは身の程って物が分かってきたかしら?」
「身の程なんて分かんねぇな。お前がクレイジーだって事だけは分かったよ」
「……そう? じゃあもう少し分からせてあげないといけないわね」
そう言ってメアが俺の方へと掌を向ける。
「……!! セスティ! 避けるのじゃっ!!」
めりにゃんが酷く焦った声をあげ、その声に反応できたおかげでギリギリだ。
ギリギリでメアの放った一筋の光線は、俺の脇腹に命中した。
「あら、はずれちゃったわ」
「……はずれて……ねぇだろうがよ……クソがっ」
マリスの服ごと脇腹が貫かれてしまったと思ったのだが、どうやらマリスがメアの魔法を弾く形で軌道を逸らしてくれたらしい。
俺が思っていたよりもマリスの服は防御力が高いようだ。
むしろアーティファクトを食わせてきた事でエンシェントドラゴンとしての本来の力が戻りつつあるのかもしれない。
軌道を逸らしてくれたのはいいのだが、当たったものは当たったのだ。
痛いもんは痛い。
超高振動で脇腹から全身が砕かれるような痛みが広がって一瞬頭が砕けたかと思う程目の前が揺さぶられた。
「……めりにゃん……めりにゃんは無事か……?」
「儂は大丈夫じゃ。しかし、どうするセスティ……あやつは幾つもの見た事も無い魔法を使うのじゃ。儂にも対処が難しいのじゃ」
「その防具随分丈夫なのね? 見た感じただのドレスなのに……」
こいつマリスの事はまだ知らないのかもしれない。
正直マリスが弾いてくれなかったら今頃この程度のダメージじゃすまなかった筈だ。
掠めただけでこの威力、この振動。身体に直接受けていたら身体が再生したとしても俺の脳みその方がしばらく機能しなくなっていたかもしれない。
とにかく、やれるだけやってみるしかねぇけどよ。何か突破口がなきゃまずいだろ。
今の俺には、恐らくこいつには痛くもかゆくもない程度の魔法と、力任せにぶん殴る事しかできないんだから。
考えていても答えは出ない。いろいろ試してみるしかない。
「おりゃぁっ! これならどうだ!!」
再生した拳に防御魔法をかけてそのままぶん殴る。
「馬鹿の一つ覚えみたいにそればっかり。今度は手をガードしながらってだけじゃない。貴方意外とつまらないわね」
「そうかよ!」
がぎぃん!
メアが俺の拳を掌で受け止めた。
その瞬間に、防御魔法をかけた拳の上から雷属性の魔法をかけて直接メアに流し込む!
「いっつ! ……ちょっと痺れたわ……結構器用な事するじゃない。直に手に魔法かけたら自分にもダメージが来るからわざわざ防御魔法かけてたの?」
冷静に分析されてしまった。
その後も他の魔法で幾度か試したが、メアはうすら笑いを浮かべながら、直接受け止める事すらしなくなった。
魔法で作られた障壁で俺の攻撃は全て防がれてしまう。
めりにゃんも同時に魔法で攻撃してくれているが、同じく障壁に阻まれメアまでは届かない。
やっぱりこの瞬間までに武器を用意してこなかったのは完全に間違いだった。
武器が有れば、あと一つ試してみたい事はあったのだが……。
しかし、仮にそれができたとしても恐らく武器の方が耐え切れずに攻撃を当てるまでに崩壊してしまうかもしれない。
『武器が必要ですか。でしたら私を』
ブレスレットの癖にどうやって武器になるつもりなんだよ!
『おそらく、ですが……』
……メディファスの提案は、かなり思い切った物だったし、上手くいく保証なんてどこにもないけれど、
「お前、面白い事考えるじゃねぇか」
『恐縮です』
あぁ、確かに恐れで縮みあがる思いだろうな。
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