ぼっち姫、メアリー・ルーナ。


「俺に……? 俺に用があっただけにしては随分と大勢で会いにくるじゃねぇか」


「まぁね。ほら、エルフがアーティファクト持ってるって聞いたからついでに奪い取ろうと思って。それに、貴方強いんでしょう? 挨拶するなら出来るだけ派手にやらなきゃつまらないじゃない」


 こいつ狂ってんのか?

 これが挨拶かよ……。確かにさっきのイガグリ以外まともな幹部クラスも来てないみたいだしここに連れてきてるのは主に知能が低い魔物の群れ、ってところなんだろうが……。


「残念だけどエルフが持ってるアーティファクトは壊れて使い物にならねぇらしいぞ」


「あらそう。それは残念ね……でも貴方は持っているでしょう? それにどうやらあそこにいる子が何か持っているみたいだけれど?」


 アシュリーか? ここからアーティファクトの反応を探知した?


「おい、お前……っ!?」


 俺が一瞬アシュリーの方をチラ見して、あの女に視線を戻した時、もう目の前には誰も居なかった。


「くそっ!!」


「セスティ! アシュリーの所に居るのじゃ!」


 分かってる。分かってるよあの女は確かめに行ったんだ。


 俺が慌てて空中を蹴り、アシュリーの居る里の中央付近まで一気に下降する。


「アンタが今の魔王様って事なのかしら?」


「ええ、私の事知ってるの? 光栄ね。確か……大賢者様、だったかしら?」


 既にあの女はアシュリーの前にたどり着いていたが、荒事には発展していない。


「おい、お前……!」


「何よ? 今この賢者さんと話してるんだけれど。それに私の事はお前じゃなくて……メアリー。今はメアリー・ルーナと名乗っているわ。メアと呼んでちょうだい」


 メアリー・ルーナ。

 魔王にしちゃ随分可愛い名前だな。


 ……めりにゃんも可愛いが。

 魔王ってのは可愛らしい名前を付けるしきたりでもあるのかね。


「貴方と遊ぶのはこの賢者さんとの話が終わってからよ。……で、貴女アーティファクト持ってるわよね? 出しなさい」


「……持ってないわよ。と言ってもきっと無意味なんでしょうね。この杖の先についてるのがそうよ。壊れてるけどね」


 アシュリーはそう言ってメアの目の前に杖を突きつけた。


 しゅこんっ


 そんな軽い音がしたと思ったら、

「ふむ……確かにこれは機能の八割ほどが停止してるわね……しかし、私なら直せるから貰っていくわ」


 いつのまにかメアの手の中に、杖の先の部分だけが収まっていた。

 一瞬で切り落として奪ったらしい。


 恐らくアシュリーは、壊れているアーティファクトなどに興味を持たないと思ったのかもしれないが、どうするんだよ、直せるらしいぞ?


「ちょっ、確かに壊れてるけどそこまで使えるようにしたのは私なのよ!? 返しなさい!」


「あら、これはなぁに?」


 アシュリーの話を適当に受け流しながら、その手には球体が握られていた。


 あれは……確かアシュリーが作った疑似アーティファクトだ。


 この女一瞬にしてガメやがった!


「なっ。……魔王様っていうのは随分手癖が悪いみたいね……」


「……これ、貴女が作ったの?」


「そうだけど……何か文句ある?」


 急にメアが真面目な顔になった。


「……これを、自力で……? 貴女、凄いわね。しかし……なるほど、そうか……いい事を教えてもらったわ」


 メアが一人で「なるほど……」と疑似アーティファクトをいろんな角度から覗き込み頷いていた。


「生憎だけどそれはなんの役にも立たないわよ? さっきのアーティファクトとそれ、早く返してもらいましょうか」


 とにかくマイペースなメアにアシュリーがイラつき出した。

 こうなると見境なくなるからあまりアシュリーを刺激しないでほしいもんだが。



 そんな様子をまるで気にしないメアが不穏な事を呟いたのが聞こえた。



「……そうか。アーティファクトが見つからないなら、作ればいいんだわ」

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