ぼっち姫、開戦準備。


「大丈夫ですよー私が守ってあげますからねぇー♪」


 ……何やってんだあいつら……。


「まぁいいさ。とりあえず俺達はお前らを守らない。ここは戦場になるし五万も相手にするんだったらお前らに構ってらんねぇからな」


「で、では……我々はどうしたら……」


 そんな重要な事は自分で決めろよ。

 俺達がどうこう出来る範囲の問題を超えちゃってるんだよなぁ。


「死にたくなかったら早くどっかに逃げな。それが嫌ならここで死ぬしかないだろ」


「姫ちゃん、ちょっと可愛そうじゃないっすか……?」


 大抵こういう時に人情論を出してくるのはナーリアかデュクシ。

 ナーリアは相手があのエルフという事もあってか、困ってるなら助けたいけれど逃げないなら仕方ないと割り切ったようだ。


 デュクシは哀れに思ってしまったらしく、俺の方を見て「なんとかならないんすか?」とか言ってるが、すまん。どうにもならんよ。


「相手は五万いるんだぞ? 悪いけど、正直俺はお前の命だって守り切れるかわからねぇよ。不安ならお前も逃げたっていいんだぜ?」


 ぶっちゃけその方が戦いやすいかもしれないしな。

 でも、返事はいくら俺だってもう分かってる。


「ここまできてそりゃないっすよ。一緒に戦うっす!」


「そうか。だったらこのエルフ共が少しでも生き延びられるようにお前も頑張ってみろよ」


「……そう、っすね。俺が守れればいいんすもんね」


 ……そんだけの余裕があるならな。


「とりあえずデュクシだけじゃなくて皆に言っておく事がある。第一優先は自分の命だ。本当にヤバいと思ったらためらわず逃げろ。生き延びれば後で反撃のチャンスもあるかもしれないが死んだらそこで終わりだからな」


 みんなが俺みたいに死ぬ心配がなければ話が早いんだがそんな訳にもいかない。


 やがて、遠くから地響きのような音が響いてきた。

 てっきり俺は魔物の大群が攻めてくるので大地が揺れているのかと思ったのだが、どうやらそれは違うらしい。


『主、ここから約五キロほど先に大規模転送魔法の反応を感知しました』


 大規模転送魔法?

 まさか魔物の軍勢を全部転移魔法で送り込んでくるつもりなのか?


「おいアシュリー、いつまでもそんな所に隠れてないで出てこい。転送魔法ってそんなに大規模な物が存在するのか?」


「う、うるさいわね! ……でも、そうね。確かにそんなに大規模なのは聞いたことがない。私が知ってるので最大なのは五十人程度の移送が限界よ。元魔王に聞いた方がいいんじゃない?」


 急に話題を振られてめりにゃんが「わ、儂か!?」と慌てるが、すぐにうーんと唸り出す。


「魔王軍に昔から伝わっている大規模魔法はあるにはあるんじゃが……それこそ何十人もの魔法使いを配備して、協力する物じゃ。それでやっと三百人といった所かのう」


 三百人という言葉を聞いてアシュリーがかなり驚いている。俺にはその凄さがよく分からないのだが、アシュリーが驚くんだから余程凄い事なんだろう。


『主、今第一陣と思われる魔物の軍勢がゲートから現れました。恐らくその数二万弱』


 アシュリーとめりにゃんは目を合わせて無言で息を飲む。


 よほどイレギュラーな事態が起きているらしい。


『なんと、止まりません。次は飛行系の魔物が……その数三万弱。この規模の転送魔法はあり得ません!』


 これでちょうど五万って所か……。

 しかしアシュリーやめりにゃん、メディファスの狼狽ぶりを見る限り普通ではあり得ないような事が起きているのは間違いない。


 少なくともこれから戦う事になる魔王って奴はそれだけイレギュラーな存在っていう事だろう。


 久しぶりに武者震いしてきたぞ。


「デュクシ、ナーリア、はアシュリーに指示を仰ぎながら地上を来る魔物達を殲滅。危険を感じたらすぐに逃げる事」


「了解っす! 怖いっすけど……やれるだけやってやるっすよ!」

「私に任せて下さい。命に代えても姫とお姉ちゃんは守ります!」


 デュクシ、危なくなったらちゃんと逃げてくれよ?

 あとナーリア、アシュリー以外も一応守ってやろうな。


「ライゴスはメディファスに変化を解いてもらってからこいつらの先頭にたって守ってやってくれ」


「了解である。久しぶりに全力で戦えるとなれば腕がなるのである!」


 ライゴスの変化が解かれ、久しぶりに見る元の姿に戻った。

 あの大きな斧も肩に担いでいる。


 ライぐるみ状態でも大きくなった時には斧が現れていた事を考えると、斧も含めてメディファスが変化させていたという事なのだろうか?


 まぁどっちでもいい。とにかくこの状態のライゴスなら戦力的に申し分ない。

 元幹部なんだからいい仕事しろよ?


「ショコラ、お前は基本的に戦場を駆け回って奴等を出来る限り攪乱。広範囲の毒を使う場合は周りの味方の位置に気をつけろ。あと、幹部クラスの敵が居たら一人で戦おうとせずきちんと連携を取る事」


「らじゃ。大丈夫……おにいちゃんの役に立つよ」


「アシュリーは……俺があれこれ言うまでもないから好きにやってくれ。ただ魔力の枯渇だけは気を付けてくれよ」


「勿論好きにやらせてもらうわ。それに魔力の事は気にしなくていい。疑似アーティファクトが役に立つ時が来たわね。持ってきて正解だったわ」


 そうか。あれにはアシュリーの魔力が込められてるって言ってたからな。


「それに姫、これ一応渡しておくわ」


 アシュリーが小さな革袋を俺に投げてよこした。

 突然だったのでちょっと落としそうになったが、なんとか受け取って中を確認してみると、例の薬だ。

 ありがたい。……と言ってもここにはエルフ共くらいしか居ないが、魔物からの認知まで影響する可能性もあるから飲んでおいた方が無難だろう。


「セスティ、儂はどうしたらいいのじゃ?」


 めりにゃんが俺の袖をひっぱりながら上目遣いで見てくる。

 隠れていろ、なんて言われないか心配なのかもしれない。


「めりにゃんは……俺と空の敵三万の相手だ。やれるよな?」


「……っ! も、勿論じゃっ♪ 儂を誰だと思っておる。任せておけ! ヒルデガルダ・メリニャンの力思い知らせてくれるわー!!」


 目をキラキラ輝かせてぴょんぴょん飛び回るめりにゃんは、なんていうか本当に可愛い。


 私も、本気出さないとね!


「よーっし皆覚悟はいいかしら? 遂行する任務は二つ! 全員生きて戻る事と、邪魔する奴ら皆殺しよっ!!」


「「「「「おぉぉぉぉっ!!」」」」」


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