ぼっち姫、Shall We Dance?
「メディファス、めりにゃんの封印を解除してやってくれるかな?」
『了解致しました。前回と同じく、主と直接的な接触がある時のみの効果発動になりますのでご注意をお願いします』
「うん、わかったよ。要するに手を離さなければいいんでしょ? 手はどっちでも平気?」
『主の身体を通して効果を適用致しますので身体が触れていればどこでも構いません』
なるほど。
俺はめりにゃんに左手を差し出し、めりにゃんの右手を握る。
めりにゃんは少し恥ずかしそうにしてたけど、それよりも元の姿に戻れる事が嬉しいようで、ぐぐぐっと伸びていく自分の身長と比例するように瞳が輝いた。
そういえばめりにゃんの本当の姿を見るのは久しぶりな気がする。
身長が伸びたって言ったってそこまで伸びたわけじゃないし、成長したのはむしろもっと違う部分なんだけどね。
「こ、こらセスティ、変なとこばっかり見るでないぞ」
「うーん。相変わらず私よりおっきいなぁ~って思ってね」
でも以前見た時のような敗北感は無かった。
きっとめりにゃんに対する感情の変化みたいなのもあるのかもしれない。
めりにゃんのこの姿をライゴス以外の連中は知らなかったからみんな驚いてる。
当然ながら一番反応していたのは……。
「めりにゃん……そんなに、大きくなって……小さいのも可愛くて素敵でしたけどこれはこれで……じゅるり」
「セスティ、相変わらずナーリアは凄いのう……この状況でまだあんな事言っておる」
「気にしなくていいよ。きっと脳みその代わりにスライムでも詰まってるのよ」
でも正直ナーリアはこのくらいのノリの方がらしくていいよ。
ここがナーリアの故郷だって知った時はまた……って心配したけど、元気そうでよかった。
あとはみんなで生き残るだけだからね。
「そうだ、マリス。またあの戦闘服頼むよ。今回は顔隠さなくていいから」
「きゅきゅっ!」
しゅるるるっとマリスが私の身体全体を覆い、またあのドレスに……。
「ってあれ? マリスなんかドレスが豪華になってない?」
そう、あの赤いヒラヒラドレスが、ヒラヒラ成分パワーアップしてる気がする。
今までより可愛い!
それに頭のリボンもいつの間にかちょっと形が変わってる感じするし、マリスも魔力の増加に伴って力が増しているのかも。
「よーっし♪ これで準備は整ったわね! じゃあ私達は空で待機しよう。皆地上の事は頼んだわよ!」
皆が口々に「任せて下さい!」とか「任せるっす!」とか、「任せるのである!」とか、「……任せて」とか「言われるまでもないわ」とか言って、それぞれ敵が来る方向を見据えた。
「めりにゃん、飛行魔法かけてもらえる?」
「わかったのじゃ。しかし、今回は少し違う魔法を使った方がいいかもしれぬのう」
そう言ってめりにゃんが
「……? これって飛行魔法と何か違うの?」
「無論じゃ。飛行魔法は自分が空を飛ぶ魔法じゃろう? この魔法は対象を空気で出来た空間に閉じ込める能力じゃ。本来はこの空間をどこかに固定して捕縛する時に使うような魔法じゃな」
……なるほど。仕組みは分かったけど、それをこの状況で使う意味は……?
「不思議そうな顔をしとるのう? 儂くらいになると、その空間を足先のみに適用する事が可能な上、どこにも固定せぬ事で対象の意志でその空間を動かせるように出来るのじゃ」
……??
「私達の足元がその空間で囲われてるから浮いたっていうのは分かったんだけど、意思でその空間を動かせるっていうのはどういう事?」
ちょっと説明が難しすぎてよく分からない。
「今回は空間の固定をセスティの意志で自由にできるようにしたのじゃ。ほれ、空中を歩いてみるのじゃ」
「……歩く? ……おっ、おぉぉ!? 凄い! めりにゃんこれ凄いよ!」
私が一歩足を踏み出すと、まるで足の下に地面があるような感覚で進むことが出来た。
これって、要するに自分の意志でどこに足を固定するかを選べるって事で、つまりは一歩ごとにそこに壁を作る感覚。
空中を好きなように走り回れるって事だ。
「どーじゃ。めりにゃん様はすごいじゃろ♪」
「凄い! 最高だよ。 これだったら飛んでふわふわ状態で戦うよりよっぽど自由に戦えそう」
ちょっと今のうちに試しておきたい。
私は、とりあえず思い切り上にジャンプしてみた。
凄まじい勢いで上空へと飛び上がる。
「うわわわっ! 急になんじゃっ!? びっくりしたのじゃーっ!」
あっ、なるほど……。私が勢いよく動いちゃうと手を繋いでるめりにゃんが引きずられる感じになっちゃうのか。
それはちょっと気を付けないといけないなぁ。
「めりにゃん。多分私戦いになったら走り回ると思うから、その時はしっかり体に掴まっててね?」
「おっ、おぅ分かったのじゃ」
さてさて……。
この高さなら敵さんの様子も分かるかな?
はるか上空から敵が向かってくる方向を見てみると、かなりムラがある事に気付く。
地上を来る連中が第一陣、しかもその中でも足の速い魔物と遅い魔物がバラバラでやってくるから、足の速い魔物だけ先にこちらに到達しようとしている。
「おーい。そろそろ足の速い連中が来るから注意してね!」
私が上空から声をかけると、誰もこちらを振り向く事なく手だけ上にあげて応えてくれた。
うん、デュクシもナーリアも目の前に集中できてる。
もう一度魔物達の方に目を移すと、足の速い連中、遅い連中、そしてその上空から第二陣の飛行系魔物が群れを成してやってくるのが見えた。
地上の連中に比べるとちゃんと隊列を組んで飛んでいるような感じがしたので、もしかしたら幹部クラスの奴が先頭で指揮をとっているのかもしれない。
「戦いが始まるのじゃな……セスティ、儂と共に戦ってくれてありがとうなのじゃ」
めりにゃんは未だに、魔王と戦うという事に私を巻き込んだと思っているのかもしれない。
「これは私が決めた事だよ。だから私は私の為に戦う。だから一緒に戦ってもらうのは私の方」
「ふふっ、やっぱりセスティは変な奴なのじゃ♪ だったらこうやって二人で戦える時間を……せいぜい楽しむ事にするかのう!」
この数の暴力に勝つためには、せめて二人で戦うという状況を楽しもう。そうでないとやってられない。殺して殺して殺して心が疲弊しないように。
「……元魔王様」
「……なんじゃいきなり」
だから
「私と……踊っていただけますか?」
「……ふふっ。勿論じゃよお姫様♪」
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