ぼっち姫、発つ蛙後濁す。
「なんなんだお前はよぉ!」
俺コイツ苦手かもしれない。
「あっしはゲッコウ・フロザエモンってぇケチな野郎でさぁ」
ゲッコウとやらがドゲザとかいう姿勢のまま顔だけをあげてこちらを見た。
「さっきのね、おひけぇなすってっていうのは敵意が無い証。このドゲザは最上級の謝罪表現、だよ」
ショコラが丁寧に説明してくれたはいいもののそんなローカルなやり方で敵意が無いのを表現されてもこっちは分かんねぇって。
「まぁいい。そんで? そのゲッコウさんはこれからどーすんの? 降参するにしたってさ、お前魔王に殺されるんじゃねぇのか?」
そう。首にアレがついてるなら裏切者は殺される。
こいつの意志次第ではその首輪をマリスに食わせて自由にしてやる事もできるが……。
「はて、あっしはただの雇われでさぁ。報酬後払いの時点で命までかける案件じゃぁねぇんんでございやす」
……ん?
雇われって…、いや、よく見たらこいつ首輪ねぇな。
「めりにゃん、こいつ知ってる?」
静かに事の成り行きを見守っていためりにゃんに聞いてみたのだが、「……知らん。と、思うのじゃ」という返事が返ってくるのみ。
「あっしはずっと東の大陸にいやした。こっちに来たのは最近でして、特に恩義も忠義もありゃしません。強者に巻かれて命が繋がるならそれを迷わず選ぶロクデナシでさぁ」
「うーん。でもこれからここに五万くらいの魔王の軍勢がくるらしいぞ? 俺達と戦うか、五万を敵に回すか、そんな簡単に決めていいのか?」
こいつからは特に悪意とかそういうのは感じ無いから別に放置してもいい気はするんだけど……こいつがどうするか次第ってやつかな。
「そりゃ存じておりますぜ。なにせエルフ共にこれから五万の軍勢が来ると伝えたのはあっしですから。しかし、その軍勢が来るのを待っていたらあっしは死ぬか、半殺しでしょうや」
「まぁ、ぶっ殺すと思うけど」
「なら降参以外の選択肢はねぇですわ。でもあんな連中と戦うのもまた命がいくつあっても足りやしませんぜ」
ゲッコウはゆっくりと立ち上がって、手首や足首をコキコキ鳴らした。
こんなナリでもちゃんと骨鳴るんだなぁ。
「じゃあお前はどうするんだよ。俺達に害をなさなきゃ放っておいてやってもいいが……」
「そりゃありがてぇ。勿論もうあんさん方には手出ししやしません。なので……」
ぼふっ。
「うわっ、なんじゃなんじゃ!?」
めりにゃんが叫ぶのも分かる。ほかの連中も驚いて口々に叫び辺りを警戒した。
あのカエル野郎は急に懐から変な玉を出して、それを地面にぶつけた。
するとすさまじい勢いで煙幕が広がったのだ。
「へっへっへ。命あっての物種って言葉がありやすから。あっしはここらで退散させていただきやす」
「おいこらてめぇ! どっちからも逃げるのは流石に反則だろ!!」
……結局そのまま返事は返ってこない。気配も消えてしまった。
「今のは忍者がよく使う煙幕。ただものじゃないよ」
ショコラが妙に感心しているが、まぁもう居ない奴の事はどうでもいいか。
「しっかし変なカエルっすね。あんな動きの速いカエルが居るなんてびっくりっす」
ある意味デュクシの間の抜けた発言は場の空気を癒す事もあるが、イラついてる奴にとっては火種でしかない。
「もうなんなのよアイツは!! せっかく私がエルフ共と話をしていたのに全部ぶち壊しじゃないの!」
アシュリーが子供みたいに地団駄を踏んで騒いでいる。
「姫、この後どうされるのですか? エルフ達を連れてここを離れるのが得策だとは思いますが……」
ナーリアはこんな時も冷静に考えてくれている。こういう奴が居ると助かるのは助かるんだけどさ、相手が野郎だとこんなに対応が違うもんかね。
仮にさっきの野郎が可愛らしい女の子だったらそれだけでコイツは使い物にならなくなるだろうからなぁ。
俺のパーティ癖ありすぎじゃねぇか?
「あ、あの……魔物を追い払ってくれた事には感謝する。しかし、五万もの軍勢を退ける事は……」
エルフジジイが俺達の前におずおずと出てきてそんな事を言うもんだからなおさらアシュリーが爆発してしまった。
「アンタね、自由になったんだから里を放棄できるならさっさとどこへでも行けばいいでしょう?」
「い、いや、この里を捨てるなど我々に出来ようはずもなかろう!?」
「知るかボケ! だったらここで死ね! なんなら今皆殺しにしてやろうか!?」
おいおいアシュリー落ち着けって。
後ろからアシュリーを羽交い絞めにして耳元で声をかけてやる。
「どうせここは戦場になる。こいつらが逃げないっていうなら勝手に死ぬだろ」
「……そうね。確かにそうだわ。でもこの大っ嫌いな連中を魔物に殺されるのは惜しいじゃない。どうせ死ぬなら私が殺した方がスッキリするわよ。最後くらい私の役に立って死ねばいい」
「ショコラ」
「ひっ!」
一人でテンション爆上げ中のアシュリーが暴走しかけていたのでショコラに声をかけた。
俺はあくまで「ショコラ」と呼んだだけ。
だがあの激おこ大賢者様は顔を歪ませて静かに後ろへ下がり、おとなしくなった。
アシュリー対策にこれ以上の物は無い。
「また、延長戦、する?」
ショコラの言葉に、アシュリーは悲鳴を上げてナーリアの陰に隠れた。
「なっ、なーりあたすけて」
アシュリーはトラウマスイッチが入っちゃったらしく涙目でナーリアの服にしがみ付いた。
「お、お姉ちゃん……可愛い……しかし、うーん……私はどうしたら……っ!!」
……しるかぼけ。
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