ぼっち姫。蛙と侍。
アシュリーの転移魔法で俺達は一瞬にして別の場所へと移動した。
そこはどうやらエルフの里の中央部らしく、周りを見渡すと魔物が一人、その魔物に見張られている形で大勢のエルフが一か所に集められていた。
「グ、グリージャ! よくぞ戻った!!」
エルフの中でも一際見た目が老いている奴がこちらに気付き叫ぶ。
別にいいんだけどさ、普通に考えて敵にこちらを気付かせてどうするんだよ。
本来なら不意打ちだって可能だったはずだぞ?
「長老様! アリーシャ様とそのお仲間達を連れてまいりました!!」
「お、おぉ!! でかしたぞ! さあ、早くその魔物を退治するのじゃ!!」
あぁ、思い出した。
アシュリーを訪ねて初めてここに来た時、モリー爺さんに仲介してもらってこんなジジイエルフと話したっけな。
あの時も傲慢で人を見下したような態度だった気がする。
もうよく覚えていないが。
「アンタ達、何か勘違いしてるんじゃないの? 私は、ここにやって来るっていう魔王を倒しに来たのであってアンタらを助けに来たわけじゃない。なんならアンタらが皆殺しにされるのを見届けてから戦いを始めたっていいのよ?」
一瞬にしてジジイエルフの顔が真っ青になり、その後すぐに真っ赤になる。
「貴様それでもエルフの端くれかっ!! 同胞がこんな状況でよくそんな事が言えるな!?」
「……はぁ? 同胞? 誰が?」
「……っ!」
アシュリーのゴミを見るような視線に、ジジイは次の言葉を吐き出せずにいる。
「アンタらが私の事を同胞だと言うのであればそこに居る私の妹はアンタらの同胞なのかしら?」
アシュリーの声には殺意が籠っている。
ジジイエルフも、その周りのエルフ達もそれに気付いているだろうし、ナーリアを見つめ、それが以前自分たちが追放した者だという事も理解しただろう。
「そ、それは……っ、あ、あの時はすまんかった……。わしらが悪かった、だから……」
「……だから、何よ」
「だから、……だから……ぐっ」
それっきりジジイエルフは項垂れて黙ってしまった。
「ひひひっ。そろそろ終わったかい? この愉快な茶番を見てるのもなかなか面白いんですがね、いい加減あっしを無視されるのはいい気分じゃぁないねぇ」
実は最初から俺達とエルフ達の間に突っ立っていた魔物がやっと口を挟んできた。
普通俺達が現れた瞬間に、なんだお前ら! とかさ、そういうのがあるんじゃねぇの?
「いやね、もう少し眺めていようかとも思ったんですがね、何分あっしもあまり時間がねぇんでさぁ。おめぇさん方はどこのどいつでい?」
目の前に居る魔物は、六頭身くらいあるカエル……に、しか見えない。
そのカエルが何やら妙な形の帽子みたいなのを被って、あまり見た事のないような服を来て、口には枝みたいな物を咥えている。
腰には剣……にしてはかなり細身の武器をぶら下げていた。
「あれは……サムライ?」
カエルを見てショコラがそう言った。
サムライってなんだ?
「おやおやそこのお嬢さんはサムライをご存知で?」
「サムライっていうのはニポポンの冒険者が好んでするスタイルで、両刃の剣じゃなくてニポポン刀って呼ばれる刀を使う剣士」
にぽぽんとう? かたな??
ロンシャンでもあんな奴は見なかった。本当にそのにぽぽんにしか居ないローカルな連中なんだろうか?
「おや? おやおやおや?? そういうお嬢さんはもしかして忍の者ですかい? こんな所で同郷の士に出会うたぁおどろきやしたね」
「同郷ちがう。私はニポポンで修行しただけ」
「そいつは残念でさぁ。同郷ならお嬢さんだけは助けて差し上げようと思ったんですがそうじゃねぇってぇんなら、手加減は必要ねぇですなぁ。いざ尋常に……」
おいおいとりあえず俺達にも分かるように喋ってくれないか。妙な訛りが有ってよくわからん。
「勝負っ!!」
一瞬にして目の前からカエル野郎が消えた。
「なっ!?」
がぎぃぃん!!
「おにいちゃんに悪さする奴、容赦しない」
一瞬にして俺の背後に回り込んだカエル野郎が、どうやら俺に向かって刀を振り下ろして、それをショコラが防いでくれたらしい。
ここに居る中で反応できたのはショコラだけだった。
「おやおやおやおや。あっしの攻撃を見切るたぁ……生まれは違くともまさしく忍。おめえさん名前はなんていうんでい」
「……ショコラ。ショコラ・セスティ」
「しょこらしょこらせすてぃでやんすね。あっしの名前は……」
「てぃっ!!」
「なんとぉっ!?」
……ちっ。
ショコラと話している隙に、ショコラの背後から飛び出してぶん殴ってやったのにあのカエル野郎は刀で俺の拳を受け、しかも完全に俺の力を別の方向に受け流しやがった。
それでも完全に勢いを殺す事は出来なかったらしく、後ろに飛びのきながらくるくると回転し、フラフラしながら地面に降り立った。
「おっかねぇお嬢さんだ。あんさんおっそろしい力してるでやんすね」
まずいな。
こいつの動きはめちゃくちゃ早いからまともに対応できるのがショコラくらいだし、俺は切られた所で何とかなるけれど周りの連中から狙われたら守り切れる自信がないぞ。
こいつは強敵だ。
キャメリーンといいこいつといいこれ系の外見の奴は手ごわいって決まりでもあんのか?
「おにいちゃん、ダメだよ。サムライの名乗りを邪魔するのはマナー違反」
ショコラが俺の髪の毛をぐいっと引っ張って、むすーっとほっぺを膨らました。
なんだよそのローカルルール。知らねぇよ。
「はっはっは。そこのお嬢さんはいい女でやんすなぁ。それに……」
そこでカエル野郎が急に真面目な顔をして妙な中腰になり、掌を上に片手を前に出した。
何か特殊な技を発動させるつもりかもしれない。
「あっ、おひけぇなすって! あんさん方は非常に強い。あっしが本気で戦ったら一人くらいは仕留められるかもしれやせんが……」
俺は皆の前に出る。
まずは俺が壁になり、隙をついてショコラや皆に攻撃してもらえれば確実に仕留められる。
「……俺が相手になるぜ。かかってこいよ」
「おにいちゃん、ダメ」
止めるなショコラ。この戦い方が一番安全だ。
「ほうほう。こりゃ豪胆なお嬢さんだ。しかし……あっしの心はもう決まっとるんでさぁ」
「おにいちゃん、もう戦う必要……ない」
何を言ってるんだこの子は。どう考えても何か仕掛けてくる姿勢だろあれは。
「行くぞ!!」
「参りやした」
……あ?
飛び出そうとした瞬間に放たれた奴の言葉に肩透かしをくらって転びそうになった。
「あぁ? なんだって?」
「ですから、参りやした」
カエル野郎はそのまま地面に両膝と頭をつけてまるで何かに祈りを捧げるうようなポーズを取った。
「……!! ニポポン式ドゲザ……!!」
ショコラが驚愕の声をあげる。
いや、頼むから分かるように説明してくれ。
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