ぼっち姫、鴨と葱。
「アンタが噂のお嬢様?」
アシュリーの声に対して過敏に反応したマリスの中の人は、
『しゃーらっぷ! わたくしはお嬢様などではないわっ! きちんと姫様と呼びなさいお姫様と!』
……姫? って事はもしかして……。
「おいアンタ、もしかしてローゼリアの……」
『控えよっ! わたくしはローゼリアのロザリア姫。愚民の貴方が本来話しかけていいような相手ではないのよっ!!』
「……随分と騒がしいお姫様ね」
「ロザリア、だっけ? そのロザリア姫さんがなんでマリスの中に居るんだ?」
『マリスじゃなくてローズマリー……まぁいいわ。わたくしがありがたいお言葉をくれてやるから心して聞きなさい。あの女がマリーを変な姿に変えてその中にわたくしを閉じ込めたのよ!!』
やっぱりこの女はローゼリアの姫だったじゃねぇかテロアの野郎適当な事言いやがって。
「姫に会った事があるって奴がアンタの声を聴いて、姫はこんなんじゃ無かったって言ってたぞ? それにあの女って誰だよ」
『くちの聞き方がなってないわねこのやればできる愚民ごときが……! 多分そいつが会ったのはお姉様か……もしかしたらあの女の事かもしれないわ』
文句言いながらもちゃんと教えてくれるのは前回言いたい事も言えずに消えて行った事の反省を踏まえてだろうか。
「その、あの女っていうのは? それと今ローゼリアが外界から隔離されてるらしいんだが何か知ってるのか?」
『……えっ? 何それそんなの知らない! きっとあの女の仕業だわ……! そもそもアレはちゃんと女なのかどうか……しかもどうして私とあの女の身体を貴方が使ってるのかもきちんとした説明をしてほしいところよ』
わたくしと、あの女の身体??
「まてそれはどういう意味だ。お前の身体なのは分かるが、あの女の身体って……」
『あの女、ううん、あいつはローゼリアを滅ぼそうとした。今ローゼリアがどうなってるのかは知らないけれど、私の身体を乗っ取ってこんな事にした張本人よ!』
あの女、というのがロザリアの身体を乗っ取った?
ならなぜその身体に俺が入っているんだ?
『とにかくもっともっとアーティファクトをマリーに食べさせなさい! そうすれば私も解放される筈だからっ!!』
「お前の身体ってこれだろ? 今俺が使ってるんだけど……お前が開放されたらどうなるんだ?」
『知らないわよそんなの! とにかく早くなんとかしなさい! それと、その身体はちゃんと守ってよね!? 私の身体に傷つけたら承知しないんだから! あんだすたん!?』
こいつもずっと俺と一緒にいろいろ見てきたならこの身体にかけられた呪いの事も分ってる筈なんだがなぁ。
きっとそういう意味じゃなくて、もっと大事に扱えって事なんだろうな。
『とくにその、そこの女には出来るかぎり近付かないで頂戴! 私の身体が凌辱される所を見せられる気分貴方に分かる!?』
ロザリアは多分ショコラの事を言ってる。
確かにあれを見てたんなら……なんていうか、すまん。しか言えない。
でも俺も被害者なんだ。分かってくれ。
なんとか貞操は守ったから、な?
「それで、その女っていうのは何者なの?」
アシュリーの問いかけに、必死にロザリアは答えようとするのだが……。
『あの……は……きっと……で、……だから…………だと…………うわ……』
「時間切れか。また肝心な所で居なくなりやがって」
「別に問題無いわよ。次を食わせればいいんでしょう? あんな失敗作ならまだいくつかあるから」
そう言ってアシュリーがまた立ち上がろうとした時の事だ。
バァン!!
勢いよくアシュリーの家の扉が開かれた。
「随分礼儀を知らないクズがご来宅の様子だけれど一体なんの用かしら?」
皆が一斉に扉の方を見ると、そこには息も絶え絶えになった一人のエルフ。
見た目は若い青年といった感じで、民族っぽい服装をしているのだがそのあちこちが破けて血が滲んでいる。
「はぁ……はぁ……アシュリー殿、恥を承知で貴方にお願いしたい!」
「嫌よ。帰りなさい」
一刀両断とはこの事である。
どうみてもこのエルフの状態、ただ事じゃないだろう?
「まぁまぁ、話くらい聞いてやれよ」
「嫌よ。私あのエルフ共に力を貸す気になんてなれないし」
「お願いです! エルフの森が、エルフの里が、滅びてしまうかもしれないのです!!」
「あっそ残念ね。さようなら」
「お姉ちゃん、さすがにそれは酷いですよ。こんなに必死にお願いしているじゃないですか」
ナーリアがエルフに駆け寄り、うずくまるそいつの背中をさすりながらアシュリーに訴える。
「せめて何が起きているのかだけでも聞いてあげて下さい」
「ほんっとうにアンタはおめでたいわね。ここはアンタの生まれた場所なのよ? その意味分かってるの? アンタの父親を殺し、母親と幼いアンタを追放したクズで馬鹿で愚かで救いようのないクソエルフ共の味方をする理由がどこにあるっていうの?」
アシュリーの言葉を聞き、うずくまっていたエルフが驚愕の眼差しをナーリアに向けた。
「ま、まさか……君は、あの時の……子供なの、か……?」
若いように見えてエルフだからな。それなりに年齢が行ってるのかもしれない。
どうやらこいつもあの事件の当事者の一人のようだ。
「私は許した事はありません。だけど……だからと言って困っているのなら見捨てるというのも何か違うと思うんです」
「……馬鹿じゃないの? 脳みそからっぽじゃなくてきっとスライムでも詰まってるのね。じゃあナーリアに免じて十秒だけ時間をあげるから即座に説明しなさい。十、九、」
「ま、魔物がっ、魔物の大群が押し寄せてきたんです!!」
「ふーん。それで?」
「アシュリー様のお力を貸して頂きたい!!」
「アンタらだけでどうにかしなさい。私には関係ない話よ」
「我らだけでは魔王には太刀打ちできません!!」
……ん?
今とんでもない事言わなかったか?
「こちらに、魔王も向かっていると……魔物の一人がそう言ってるんです!!」
「……」
アシュリーがやっと真面目な顔つきになって、俺の方をチラりと見た。
話の邪魔をされたのは気に入らないが、
「おいおい。カモがネギ背負って来やがったぜ」
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