ぼっち姫、意思を持つ道具。


「と、とにかく。そのお嬢さんが魔王っていうのはいったい何の冗談なの?」


「悪いけど冗談なんかじゃねぇよ。本当にこの子が魔王だ。元、だけどな」


 俺はめりにゃんの事、そしてその過程でアーティファクトを手に入れた事などを簡単に説明した。


「あっきれた……その魔王の事もそうだけどアーティファクトを手に入れていた事まで報告してなかったなんてね」


 アシュリーが凄い剣幕でナーリアを睨むが、さっきの光景が目に焼き付いていてまったく怖いと思えなくなってしまった。


 それはナーリアも同じらしく、緊張も戸惑いも既に消えている。


「そりゃそうですよ。だってお姉ちゃんは完全に部外者だったじゃないですか。だとしたらそんな重要な話しませんって」


「……う、た、確かに……そう、かもね」


 アシュリーは俺の膝の上にいるショコラをチラチラ見て警戒しながら言葉を選んで話している。


 まさかこいつとこんなまともに会話が進められるようになるとは思ってもみなかった。


「それにしても……話を聞く限り姫が新しく手に入れたアーティファクトはたいして役に立ちそうにないわね」


『否定。貴女が所持しているアーティファクトと同程度には役に立つ自信がありますよ』


 突然話しかけられアシュリーは面食らっていたが、すぐに「ちっ」と露骨な舌打ちをした。


「余計な事を……確かにそれなりに優秀みたいね。こんなにお喋りじゃなきゃね」


 それは俺も常々思っている事だ。


『……主』


「まぁ、それでも助けられた事もあるよ。何回かはな」


『何回か、というのは余計ですが……我はほんの少し感動しています』


「お前もほんの少し、ってのが余計だろ」


 こいつとも随分軽口を交わせるようになったもんだ。


「……まるで人間みたいに喋るのね。道具のくせに」


『はい。私は神に作られた道具です。しかし、主と共に行動していろいろな感情と言う物を知る事が出来ました。これは我がイレギュラーなのかもしれませんし最初は戸惑いもしましたが今となっては主に感謝しています』


「……たかが道具が意思なんて持つもんじゃないわ。使う側を困らせる事になるだけよ」


 メディファスに感情が芽生えてきているのは気付いていたけれどここまで自分の意志を持っているとは思っていなかった。


 それにしても、一つ気になる事がある。


「アシュリーお前……アーティファクト持ってたのか?」


「……」


『その女の持っている杖の先からアーティファクト反応があります。恐らく我と同タイプのサポート型かと』


「ほんと余計な事ばかり……まぁいいわ。確かに私はアーティファクトを持ってる。と言っても機能は大分限られているわ。本当はもっといろいろ出来たんでしょうけれど、現在使用可能な機能はせいぜい探し物を見つける程度よ」


 探し物を見つける? そりゃ随分と……。


「しょぼい能力でしょう? これがこの森のエルフ達が後生大事に保管していたアーティファクトよ。私がかっぱらったの」


 かっぱらったって……アシュリーは杖を眺めながら少し寂しそうに笑っていた。


「私はね、どうしてもあのエルフ共が許せなかった。だからエルフが持っているって噂のアーティファクトをくすねて、可能ならエルフ共を亡ぼしてやろうと思ったのよ」



 ……随分物騒な事を考える奴だ。

 しかし、ナーリアの話を聞く限りアシュリーがエルフ達を恨む理由は分からないでもない。


「でもね、宝物庫の奥にあったこれは壊れてたわ。だからアンタと旅をしている間にもずっと持ち歩いて少しずつ修復していたのよ」


「お前そんな事やってたのか。全然しらなかったな」


「知られないようにやってたもの。でもやっとの思いで機能の一部を使えるようになったと思ったら自分の思い描く物が世界のどこにあるのか見つけてくれるってだけの物だった。きっと数多くの機能の一部だとは思うけど私にはこれが限界だったわ」


 アシュリーが言うには、その機能が使えるようになったおかげでナーリアを発見する事ができたらしい。

 そして、アシュリーはナーリアの住んでいた住所に通信アイテムを送り付けた。


 いろいろ話をして、生きるのもままならないような状態だったナーリアに冒険者の道を勧めたらしい。


 アシュリーにとっては妹が生きているという事が分かっただけで満足で、今までどうしていたのかとか、これからの人生とかそんな事には興味がなかった。


 しかし、俺達のパーティが崩壊した時、時間が出来たからアーティファクトの調査を本格的に始める為に家に引きこもり、体内にアーティファクトを内包している俺の事はナーリアと、特殊なスキルを持っているデュクシに見張らせる事にしたそうだ。


 デュクシの事をどこで調べたかも聞きたかったが、運天の話が絡んでくる可能性があるので本人の前では出来ない。

 あれの有用性を本人に自覚させたくない。

 今は危険なスキル程度の認識でいてもらった方が助かる。


「アンタと一緒にガーディアンと戦った事あったでしょう? 私はあの時心躍ったわ。確実に強大な力を持つアーティファクトだと一瞬で理解できたもの。こんな中途半端なのじゃなくて完璧な状態の、それも力の塊みたいなアーティファクトだってね」


「それがあの時俺と同化しちまったから……」


 少し悪い事をしたような気分になる。

 俺が悪い訳ではないとは思うんだけど、アシュリーは心から強力なアーティファクトを求めていたのだから相当悔しかっただろう。


「同化しちまった、というよりあれは私が同化させたのよ」


 ……えっ?



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