ぼっち姫、大賢者死す!
「嘘ではないのじゃ。儂はヒルデガルダ。ヒルデガルダ・メリニャンである」
「た、確かに、メリニャンという魔法使いが仲間になったとは報告受けていたけれど……魔王だなんて聞いてない。そもそも魔王って何? どういう事? なんで姫が魔王と一緒にいるの? え? は? 殺すわよ!?」
あまりに狼狽したアシュリーが立ち上がって何やら魔法をぶちかまそうとしてきたので慌ててショコラに命令。
「ショコラ! とりあえずこいつの動きを止めろ!」
「らっじゃ」
目にも止まらぬ速さで俺の膝の上から姿を消したショコラは、どこからともなく取り出した杖を振りかざしているアシュリーの背後に現れ……。
とても俺の口からは説明してやる事のできないいろんな技を駆使してアシュリーを黙らせた。
いや、黙らせたと言うか……正確には魔法の詠唱が悲鳴に変わっただけだが。
「ライゴス、デュクシ、あまり見てやるな。さすがに可愛そうだろ」
「し、承知なのである」
「わかったっす。でも、逆にこれ音声だけ聞こえてくるのなんかいろいろマズいっすね……」
デュクシとライゴスの両名はアシュリーから目を逸らしてはいるのだが、確かにこの場に響く悲鳴というか喘ぎ声というか……完全にアウトなやつだ。
俺ですら見た事も無いアシュリーのアレな状態にぞくぞくっと来る物がある。
「……落ち着いた?」
「あっ……あんた何なの!? 私にこんな事してっ! 生きて帰れると……っ!」
「……延長入りまーす」
「なっ、何を……っ! ひぃっ!! やっ、ダメだ、って……ひ、姫っ……この子なんなの!? ひゃあぁっ!! だ、ダメっほんとダメだって……」
「あー。何て言うか、俺の妹なんだよな」
「妹にっ、なんて教育、してんのよこの変態っ!!」
「おにいちゃんに悪口言うような人はもっと延長。私おこだから」
ショコラは完全に目が据わっている。
アシュリーの横暴な態度や俺に対する暴言にかなり怒っているらしい。
……し、しかし、アシュリーの悲鳴がどんどん変な声になってきたし、口から涎垂らしまくってるし……焦点も定まってない。
「ひ、姫ちゃん……これ、さすがにキツイっす……」
そうか。確かにここにいるまともな男はお前くらいだもんな。分かる。分かるぞ。
「ショコラ、そろそろやめてやってくれ。これ以上やるとアシュリーが帰ってこれなくなる」
ショコラの対人、というか対女戦力はヤバすぎる。
俺は何とか逃げ切る事が出来たが、あれも運が良かっただけかもしれない。
アシュリーは今や、ショコラが離れたというのに床に這いつくばって痙攣している。
あのアシュリーが、だ。
いつも偉そうにふんぞり返っていて口を開けば暴言か舌打ちしか出てこないような大賢者様が……。
「あっ……あぁ……っ……うぐぅ……」
とか言いながら衣服を乱し、立ち上がれずに身悶えしている。
……俺が今女の体で本当に良かった。
本当に良かった。心からそう思う。そうでなければとてもこの場には居られない。
デュクシ、お前はよく頑張ったよ。偉いぞ。
しばらくデュクシも変な姿勢のまま固まって動かなかったがそれは触れてやらない方がいい。
これを指摘するほど俺は鬼畜ではない。
仕方の無い事なのだ。
「おいアシュリー、生きてるか?」
近寄って抱き起し、もう一度椅子に座らせてやると、未だに目がとろーんとしていてどこかへ行ったきり帰ってきてないようだった。
「おい、アシュリー! しっかりしろ! 話が進まねぇぞ?」
それとショコラよ、ここまでやれとは言ってない。
「どやぁ……」
そんな満足そうなドヤ顔しやがってお前って妹はほんとに最高だな。
「……ろす」
「おっ、帰ってきたか?」
「……殺す。殺す殺すころすコロス殺すころすころすコロス殺すコロス殺すコロスころす殺す!!」
アシュリーが両目から涙を大量に溢れさせて、まるで子供みたいに泣きじゃくった。
「ころしてやるー! にんげんもえるふもまものもみんなみんな ぜんじんるいみなごろしにしてやるー! もうやだーころすー! うわぁぁぁぁん!!」
せっかく座らせた椅子から転げおちてアシュリーが床を転げまわりジタバタと手足を振り乱して知能指数低そうな言葉を喚き散らした。
「かっ、可愛い……いや、でもしかし……っ、大賢者様でお姉ちゃんで……くぅ……なんというジレンマ……!!」
この状況を見てそんな事を思えるナーリアに俺は戦慄したね。
「ころす……ころしてやるんだからー! もうやだぁ……はじめてなのにひとまえでこんなの……ひどいよぉ……ひと、まえ……?」
ひとしきり床で暴れ回っていたアシュリーがピタっと動きを止めたと思ったら、突然スッと立ち上がって衣服の乱れを直し、スタスタと元の席についた。
「さて、話の続きをするわよ」
こいつ、全てを無かった事にしやがった……。
「何よ。なんか文句でもあるの? 殺すわよ?」
俺に対するその発言にショコラがピクっと反応する。
それを見たアシュリーがビクっと震える。
なんだこれは。
「も、文句も無いようだし……話を、その、進めましょうか♪」
アシュリーが、カタカタ震えながら満面の作り笑顔でそう言った。
大賢者アシュリーの尊厳、ここに眠る。
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