ぼっち姫、キングオブKY。

 ぼっち姫、キングオブKY。



「お姉ちゃんがアシュリー様? どういう事なんですか?」


 ナーリアはかなり困惑している様子だったが、当のアシュリーといえば、理解できないお前が悪いとでも言いたげな表情で下から頑張って見下ろそうとしている。


 物理的に無理なのにな。


「いい加減状況を理解してほしいんだけど」


「えっと、どうい事ですか? なぜアシュリー様がお姉ちゃんの振りをしていたんです?」


 ……それ違うんじゃねぇの? 

 混乱しているからか、どうにもアシュリーの事になると察しが悪い。

 あんまり間の抜けた事を言ってるとこの女はどんどん口が悪くなっていくので正直見てるこちらが不安になってくる。


 俺の心配は的中したようでアシュリーはかなりご立腹だ。


「私がどうして嘘つかなきゃいけないの? 私はちゃんとアンタの姉よ。エアシュレイア・ディ・イルミラ」


 ちょっと待てよ。どうしてそうなるんだ? エアシュレイアがアシュリーなのはまだいい。


 俺はナーリアの疑問を解決すべくアシュリーにその辺を説明するよう求めると、めちゃくちゃめんどくさそうな目をされたが了承してくれた。


「エアシュレイアが本名よ。アシュリーは愛称。別におかしな事じゃないでしょ。あとそれ以外の部分は父親の方の姓ね。あのエルフ共への嫌がらせの為に父方の姓を名乗ってるの」


 うーん。

 エアシュレイアという名前をナーリアに聞いた時はもしやと思ったが……しかしアシュリーがナーリアの姉だったならいろいろ納得できる部分もある。


 排他的な所も、そしてオークションで値が妙に高かった事など。


 一応ハーフエルフだったって事だもんな。ナーリアが以前言っていた身体的特徴って奴はエルフ特有の尖った耳の形か。

 確かにナーリアの耳は尖っていないしエルフらしさというのは特に感じられない。

 だったらハーフエルフとして価値はあるのか?


 ……いや、もし身体目的でナーリアを買おうとしていた連中が居たら、ナーリアとの間に子供を作る事で自分の遺伝子を受け継いだエルフのクオーターが誕生する訳だ。

 ナーリアに特性が出なかっただけで子供には出る可能性は十分にある。


 それを育てる事で……。

 いや、もう考えるのは辞めよう。もう解決した話だし、考えれば考えるほど胸糞悪くなるだけだ。


「アシュリー、どうして今までナーリアと会わなかったんだ?」


「会う必要がないから。一応生き別れの妹はずっと探してたし、見つけたから私にとってはそれで十分だったの」


 ……この女の考える事はまったく分からない。

 普通生き別れの妹を探してて、見つかった! ってなったら会うだろう?


「納得できないって顔ね。私はいろいろ忙しいのよ。本当は会うつもりあったんだけれど、ナーリアを見つけた当時はまだアンタ達と一緒だったしわざわざその為に予定変えるのも面倒だったから」


 面倒ってお前……。

 ナーリアはいまだに口をパクパクしながら呆然としている。


 彼女の説明によると、俺達と旅をしている間にどんな手段を使ったのか知らないがナーリアが生きている事を知って、連絡を取ったらしい。


「じゃあ本当に、アシュリー様が……お姉ちゃんなんですね……」


 ナーリアは嬉しいのか悲しいのかよく分からない表情をしている。

 自分が崇拝している大賢者が、実は自分の姉だったという嬉しいハプニングと、自分の姉だからという理由でいつものように可愛い可愛いとはしゃぐ訳にいかないという葛藤といったところか。


 それに、思っていたよりも口が悪かっただろうし、いっそ妙な幻想はさっさと捨ててしまった方がいい。


「私と違ってナーリアは脳みそが委縮してしまっているようだからなかなか理解できないのも仕方ないけれど、つまりはそういう事ね」



 俺達と一緒に居る時からナーリアに冒険者になるよう勧めていた事になるが、この状況をどこまで予想していたのだろう?

 その時点では俺達のパーティが解散する事になるとは想像できなかったと思うんだが。


「お姉ちゃんが私に冒険者になるよう勧めたのはここに姫を連れてくる為だったんですか?」


「はぁ? そんな訳ないでしょう委縮どころか脳みそあるのか疑問だわ。……まぁ、アンタに生きる術を与える為に冒険者を勧めたのは偶然だったけれど、今考えれば正解だったわ」


 アシュリーが言うには、冒険者を勧めた事自体は偶然らしい。

 ただ、その後パーティが解散した時、すぐにナーリアに連絡をとって王都ディレクシアに俺が向かっているという情報を流したらしい。


 この女は俺の動向をなんらかの方法で監視していて、王都に居れば俺と接触できるという事を仄めかした。


 俺とパーティを組ませる事で、俺の行動を詳しく報告させる為に……。

 だが何の為に?


「しかしお前が俺の事をそこまで気にしていたとは驚きだな。俺の事大好きじゃねぇか」


「私があのパーティで一番興味があったのはアンタだしね。せっかくアーティファクトを見つけたのにそれはアンタと同化しちゃったでしょ? だからナーリアを同行させて様子を報告させつつ、こっちはこっちでいろいろ調べてたってわけ」


 どうやらアシュリーはアシュリーで何か調べ事をする為に俺と別れて、ナーリアを使って情報収集をしていたという事らしい。


「あの、ちょっといいっすか?」


 ここで何故かキングオブ空気読めない男が会話に割って入ってきた。


 とりあえずライゴスとめりにゃんもショコラだって黙って話の流れを見守ってるんだからお前も少し黙ってろよ。


 どうせまた素っ頓狂な事を言い出すに決まって……。


「あ、じゃああの時鬼神セスティが来るって教えてくれたのアシュリーさんだったんすか?」



 ……は?

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