ぼっち姫、お姉ちゃん降臨。



 その後メディファスに障壁を張ってもらい、みんなには五時間、ゆっくり寝てもらう事にした。


 と言っても軽いシートだけ敷いて雑魚寝だが。


 こんな環境でも出来る限り体力回復してもらわないと困る。

 この先まだ二日間あるのだから。


 その間俺は一睡もできない事になる。

 なんとかなるだろうがちょっとキツイ。


 はぁ。しかしこればっかりは仕方ないな。

 メディファスとつまんねぇ話でもして時間を潰すしかないかなぁ。


 メディファスがこんな障壁張れるって知ってたら馬車を森の中まで持ってきてもよかったかもしれない。

 そしたらもう少しマシな環境で皆を休ませられたのに。


 馬車は無事に俺達の元に帰ってくるだろうか?

 あの馬車はモリーという爺さんに預けてきた。

 以前エルフの森に来た時に門前払いされた俺達との間に入って話をつけてくれた爺さんだ。


 モリー爺さんは代々エルフ達と友好関係にあるらしく、その親、爺さん達の代からずっと物品や作物などの流通窓口みたいな事をやっていたらしい。


 久しぶりに会ったが、当然の事ながら俺の事は分からなかった。

 知らない奴にいきなり馬車を見ててくれと頼まれても困るだろうし、仕方ないから事情を説明した。


 これまた当然驚いていたっけな。

 なかなか信じてもらえないかと思ったがモリー爺さんはあっさり俺の話を信じた。

 ニーラクの村長といい、爺さんには何か特別な何かを感じる力でもあんのか?



 そんな下らない事を考えていると、ナーリアが急に飛び起きて、皆が寝ている場所からそそくさと距離を取った。


 俺の方をちらちら見ながらなにやら小声で話している。


 また例の姉からの通信だろうか?


「なんですか? こっちは今数少ない貴重な時間を使って睡眠を……って、はい? 今ですか? エルフの森に居ますけど……」


 ナーリアはこちらをちらりと見て、申し訳なさそうに頭を一度下げてから更に声の音量を落としてやり取りを続けた。


 皆疲れているのかナーリアの通信で起きる事は無かったのだが……。


「えっ? それどういう事ですか? 冗談でしょう!?」


 ナーリアが急に大声をあげたもんだから寝ていた奴等もデュクシ以外はビクっと飛び起きた。


 ナーリアは通信を終えたのか俺の方を見てなんだかおろおろしている。


「どうした? 姉ちゃんに何かあったのか?」


「いや、それが……よく分からない事を言い出して……通信も切られてしまいました」


 ナーリアは本当にどうしていいか分からないような状態になって「……えぇ? でも、そんなわけ……」とか言いながら同じ場所を行ったりきたり。


「おいおい。何があったんだよ。言ってみなきゃわかんねーって。とりあえず説明しろ」


「あっ、はい……。実は、姉がこれからここに来ると……」


 ……は? ちょっと言ってる意味が分からない。


「おい、ナーリア。まさかとは思うがお前の姉ってアシュリーじゃないだろうな?」


「違いますよ。私の姉の名前はエアシュレイア・ゼハールですよ?」


 ……うーん? ちょっと判断しかねる微妙な感じだ。


「お前の姉は転移魔法でも使えるのか? そもそも今からここに来るってエルフの森は広いぞ? 場所の特定が出来るのか……?」


「いや、私は直接姉と会った事がないので……極端な事を言うなら本当に姉妹なのかを確かめた事もないです。いつもあっちから一方的に何かを送り付けてきたり通信してきたりなので」


 いや、それは……さすがにおかしいだろう?

 なぜナーリアがそれで納得してるのかも謎だが、その姉はどう考えたって……。


「うーん……なんすかもう五時間たったんすか……? って、姫ちゃん! なんか、空光ってるっすよ!?」


 デュクシが目覚めるなり騒ぎだす。

 どうしていつもこう、黙っててほしい時に空気を読まず入って来るんだろうねこいつは。


 空が光っている、というよりは俺達の頭上にメートルくらいの場所から光が射している、という方が正しい。

 まばゆい光が消えた時、そこには……。


「来るなら来ると言いなさいよ」


「えっと……貴女は……?」


 現れた少女の見た目をした大賢者にナーリアが困惑。


 それもそうだろうな。姉が今から行くと言ってて、突然ここに現れたのはミニマム少女。ナーリアの頭の中は状況整理でパンクしそうになってるんだろうぜ。


「久しぶりだなアシュリー」


「あら久しぶり。そろそろ可愛らしい女の子になったかと期待していたんだけれどまだ平気みたいね。残念」


 この女相変わらずだなぁ。

 小さいくせに顎をあげてわざわざ見下すみたいな視線をこちらに送ってくる。


 この女の癖みたいな物だが、これはこれで見慣れると背伸び感があって意外と可愛いもんだ。


「あの、貴女が、アシュリー様……なんですか? あ、あの……私、その……ナーリア・ゼハールって言いまひゅっ、い、言います!」



 ナーリアが珍しく緊張でガッチガチになっている。

 人間唐突に憧れの対象が目の前に現れるとこういう事になるといういい例である。

 でもさぁ、お前いい加減把握したらどうだね。さすがにこの状況なら俺でも分かるぞ?



「ナーリア、あんた何言ってるの? 私の妹ながら流石にキモい。一度脳みそすり潰して別の命としてやり直した方がいいわ」


 アシュリーが眉間に皺を寄せて、物凄く気持ち悪い物を見るような目をしていた。


 ナーリアは石のように固まり、やっとの事で状況を把握。


「お、おおお、おおねえちゃん??」


「大姉ちゃんって何よ。自分が身長高いからってバカにしてんの? 殺すわよ」


 あぁ、相変わらずだ。

 俺はなんだ謎の安心感に包まれた気分だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る