ぼっち姫、大賢者。



「じゃあおにいちゃん、私頑張ってくる」


 ショコラはそう言うが早いか俺の目の前から消える。


 えっと??


 別に今居なくなる理由が分からんのだが……それに、マジで居なくなる所見えなかったんだけど……。


 そういえば忍法変わり身?? とかいいう技もどうやってるのか聞きそびれてしまった。


「おーいショコラ;…?」


 別に戦いになったら活躍してくれればいいだけなのに。

 とりあえず戻ってくるように声をかけようとしたのだが、本人は俺が思っている以上に頑張るつもりだったらしい。


「……この先に魔物の群れが居る。近付いてくるから片付けてくるね」


 どこからかショコラの声が聞こえた。


「お、おい。そこまでしなくても……」


 返事はない。気の早い奴だなぁ。


「とりあえずじっとしてても仕方ないから先へ進むぞ。ショコラなら大丈夫だろう。危なくなったら帰ってくるさ」


 心配そうなナーリアや、状況を呑み込めていないデュクシ達にそう声をかけて俺達はまた歩き出したのだが……。


 五分ほど先へ進むと、大量の魔物の死骸が地面に転がっていて、その中心でショコラが佇んでいた。


「……がんばった、よ」


 ショコラがうっすら笑いながら俺にほめてほめてと俺の所へ駆け寄り頭を差し出してきたのでくしゃくしゃに撫でまわしてやる。


 しかしこの量の魔物をこの数分の間に……?

 戦闘音すら聞こえなかったんだがどういう事だよ……。


 返り血の一滴すら浴びてないのが逆に怖い。



 暗殺者として一級品なのは分かるが、ちょっと俺が思っている以上の戦力だ。

 こいつが仲間で良かった。万が一本気で敵に回ったら俺だってあの毒で動けなくなるかもだし他の奴等も同じ事だろう。


 デュクシの能力を使おうにも気配もなく後ろからズブリじゃどうにも対処できないからなぁ。


「あ、念のために呼吸は浅くね。まだ少し毒残ってるかもだから」


 その言葉に皆が慌てて口を押える。


 戦闘音が聞こえなかったのはそういう事だったか。

 恐らくミスト状にした毒をまき散らして敵の動きを止め、片っ端から殺して回ったのだろう。


 我ながら恐ろしい妹を持ってしまったものだ。


 ショコラがこうなったのも自分に責任があるかと思うと流石に少しばかり両親に悪い気がしてきた。


 しばらく進むとまた魔物に遭遇し、デュクシ、ナーリア、ショコラがあっという間に片付けていく。


 デュクシとナーリアもかなり戦い慣れてきているようで、動きに無駄が無くなってきた気がする。


 やっぱり何よりも大事なのは実戦経験なんだろうな。


 俺がまともな戦士になるまでにかなり時間がかかったもんだが……。


 当時の事を少し思い出して、うんざりした。


 俺は十二歳で家を飛び出して、それからすぐに冒険者になるために王都へ行き、あの親父に面倒見てもらいながら必死に魔物を狩って実戦を積んで、自分でも成長が早い方だったと思うがそれでも一人で旅に出れるくらいになるのに三年かかった。


 十六になる少し前くらいだったか、ニーラクでリュミアに会って……二人でパーティを組むことになってあちこち旅をしたなぁ。


 あの時は俺もまだまだで、リュミアの足を引っ張ってばっかりだったけれどそれでもあいつは俺を切り捨てたりはせず幾つも死線を乗り越えた。


 いつしかリュミアはその人格と、将来の有望性からか勇者と呼ばれるようになり、俺もやっとの思いでリュミアより強くなれた。

 リュミアと幾度となく模擬戦を行なったが、あの頃奴は本気を出していたのかな?


 今となっては分からない。

 でも、少なくとも俺はリュミアより強くなければいけなかった。

 奴を守るのは俺の役目だったからだ。


 そしてジービルが仲間になり、このエルフの森にいるという大賢者に頭を下げに来た。


 いい思い出だ。


 しかしあの時のアシュリーの言葉は今でも覚えている。


「男ばかりのパーティなんて嫌だよ気持ち悪い。どうせ夜な夜な私の事を妄想して自家発電でもするんだろ?」


 今考えてもあれは最低だと思う。

 いくらなんでも大賢者としてあの発言は無いだろう。


 彼女の第一声で俺はリュミアに、こいつはヤバいから辞めよう。って進言した。

 それでもリュミアは幾度となく頭を下げ、それでも断られて。


 俺はそれが無性に腹立たしくて、てめぇいい加減にしろよ、勇者がこんなに頭下げてるんだぞお前はどんだけ偉いんだよ! とかなんとか言った覚えがある。


「私が偉いのは当然。なにせ強いから」


 はは、思い出すだけで笑える。


 しかし、どうしてアシュリーが仲間になってくれたのかはよく分からない。

 突然、「なかなか面白そうだからついてく事にした。つまらなくなったらすぐにパーティ抜けるからね」とそれだけ言って俺達のパーティに加入したのだ。


 どんな心変わりがあったのかを聞いても、面白そうだから。しか言わなかった。


 そして、一緒に冒険していろんな事があった……。

 俺はアシュリーが気に入っていたし、アシュリーも俺達のパーティをなんだかんだ気に入ってくれていたように思う。


 だから漠然と、この四人で魔王を倒すんだって、そう思ってた。



 リュミアが居なくなったあの日までは。

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