ぼっち姫、ある日森の中。


 その後もひたすら魔物と戦い続け、少し進んでは魔物と戦い少し進んでは……を繰り返す。


 いい加減みんなも疲れが見えてきた。


 このままあと二日間も歩きっぱなしなんてどう考えても体力が持たない。

 これは真剣に対策考えないとまずいぞ……。


『魔物と遭遇しなくなるようにするのは無理ですが、魔物に邪魔されずに休めるようにする事なら可能です』


 メディファスが突然そんな事を言い出した。


「どういう意味だ? 一応、聞かせてくれよ」


『一応、というのは……まさか最初から疑っているのですか?』


「お前のいう事だからなぁ……」


 どこまで信用していい物やら。


『我の信用は地に落ちているのでしょうか……』


「むしろ地面の中かもな」


「何かいい方法があるなら教えてほしいのじゃ」


 めりにゃんも体力的にかなりきついらしく、ぐったりしながら直接メディファスに問いかける。


『流石に移動しながら姿や気配を隠すのは難しいですが、一か所にとどまり休息するだけならば我が障壁を張る事が可能です』


 こいつそんな事できたのか?


「要は俺達が寝たりする間はお前が障壁張って守ってくれるって事か? どの程度の強度でどのくらい持続できる?」


「障壁内の気配を最小限に抑える事も可能ですので障壁展開時は、中で激しい動きでもしない限り安全を保障致します。持続可能時間は恐らく五時間程度かと」


 十分過ぎる時間だ。

 五時間の間魔物の事を気にせずに休めるのであればかなり楽になるぞ。


「てめぇそれなんで早く言わねぇんだよ。今までだってそれ使えばもっと楽だっただろう?」


『否定。今までのケースではこれほど大量の魔物はおりませんでしたので主が見張りをしていればなんら問題はありませんでした』


「俺が疲れるだろうがよ!」


『それについては今回も同じですので』


 ……?

 おいおい。それってまさか……。


『肯定。我は主の体の一部ですので、障壁を展開している間は主に起きていてもらう必要があります』


 やっぱり使えねぇなこいつ。


『他の人達の安全を確実に守れるのであればかなり有用度は高いかと思われますが』


 ……こいつ今は自分の力が必要な所だと判断したのか随分強気に出やがって……。


『しかしながら最小限の被害で最大限の効果を期待できます』


「その最小限の被害ってのが俺かよ」


『肯定』


 こんにゃろ……。

 しかし、俺が起きてるだけで完全に安全な空間が手に入るのであればそれは便利だ。

 俺は眠る事こそ出来ないが、一息いれて休む事くらいは出来る。


「しかしお前は本当にがっつり役に立つって事ができねぇ奴だなぁ」


『……面目ない』


 お? メディファスが謝った!?

 個人的にお赤飯でも炊きたいくらいの気分だ。


 今までさんざ言い訳ばかりしていた奴が随分と成長したもんだな。


『……主、我を一体なんだと……』


「冗談だよ。純粋に助かるわ」


『……』


「なんだお前照れてんのか?」


『……否定』


 相変わらずからかうと面白れぇなこいつ。



『……』


「さて、安全に休める方法も確保できた事だし、これで余計な事心配せずに先へ進めるな」


「えっ、すぐ休むんじゃないんすか?」


 話を聞いていたらしくデュクシが疲れた声で訴えてきたが、勿論すぐに休むなんて事はしない。


「こんな所さっさと抜けた方がいいだろう。進める所まで進むぞ。周りが真っ暗になるまでな」


「おにいちゃん意外と鬼畜」


 ショコラにだけは言われたくねぇよ。俺からしてみりゃお前の方がよっぽど鬼畜大王だわ。


「っつー訳で我慢しろデュクシ」


 デュクシが「うぅ……がんばるっす」なんて泣き言を言う中ナーリアは元気だった。


「早くアシュリー様にお会いしてみたいです! 今から楽しみです……どんな美しい方なのでしょう」


 こいつはいつでも幸せ脳みそで羨ましいよ。


 ……まぁ、それがどこまで本気かは分からないけど、強がっていたのだとしてもそれだけ元気ならば一安心だ。



「とりあえずお前らは限られた時間を有効的に使ってしっかり眠る事。それとその間俺は起きてなきゃいけないからこの道中で俺を疲れさせるな。魔物は全部お前らでどうにかしろ」


「うへぇ……やってみるっす」


「我はまだしばらく力を出せないのである」


 ライゴスの発言にデュクシが顔を引きつらせた。


「要するに私とデュクシがメインで魔物を倒さなければいけないんですね……」


 ナーリアすらちょっとしんどそう。


 まぁこれも修行だと思って俺を楽させてくれ。



「……おにいちゃん」


 俺の腕に絡みついていたショコラがそっと手を離した。

 鬱陶しいなぁと思っていたけれどなんだかんだ俺は嬉しかったらしい。

 ちょっと寂しさを感じてしまった。


「……そろそろ、私も殺る」


 やるって言葉の響きが割と物騒だった。


 個人的には妹に危険な事をさせたくないって感情が働いてしまうのだが、まぁこいつにそんな心配はいらないんだろうな。


「じゃあショコラ、あの二人を助けてやってくれ」


「うん。すっごく活躍しちゃうから見ててね」



 にっこり笑うショコラに、俺は無意識に顔が綻ぶ。


 そして、そんなショコラを見つめて悶えるナーリアを見て一瞬にして我に返った。

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