ぼっち姫、悲しみの向こうの犬。
俺はナーリアに近付き、その頭をぐしゃぐしゃに撫でてやる。
なんて言ってやればいいのだろう。
ここで起こった惨劇に、保護されていた人々は悲鳴をあげ、騎士達は剣を構えナーリアを取り囲み、テロアは俺達を見てひたすらに困惑していた。
大丈夫だ。
何も問題は無い。
「ナーリアさん、セスティ殿……これは、もしかして……」
先ほどナーリアが殺したリーシャは……。
今となってはその大きな目を剥き出しにして、どす黒いザラザラした肌を晒していた。
「ああ、さっきの奴だよ」
テロアが騎士達に指示して下がらせる。
おそらくキャメリーンは、手傷を負わされたナーリアだけでも殺すつもりでここに潜んでいたんだろう。
まったく余計な事をしてくれたもんだ。
これでこの街は、ナーリアにとって悲しみの塊みたいなもんになっちまった。
奴は言っていた。
食い殺した相手の姿になれる、と。
それは、幼少期のナーリアにとって唯一の救いだったあの少女をキャメリーンが食い殺したという事だ。
今となってはリーシャ自身が無関係だったのか、それともカジノやオークションの関係者だったのかは分からない。
だけどそんな事はもうどうでもいい。
そんな事より……ナーリアだけが心に深い傷を負う結果になってしまった。
「ナーリア、よくやったな。偉いぞ」
俺はそれ以上なんて声をかけていいか分からずに彼女の頭をぐしゃぐしゃにする事しかできなかった。
彼女が泣き止むまで。
「……姫、すいません。もう、大丈夫です」
「そっか」
「私……キャメリーンと戦った時に気付いてしまったんです」
……?
ナーリアにはあの時点でリーシャがキャメリーンだったと気付く何かがあったという事だろうか?
「匂いです」
匂い……?
「私、リーシャと一緒に出掛けたじゃないですか。あの時のリーシャとあのキャメリーンからは……同じ匂いがしたんです」
……匂いだぁ??
そりゃまた随分曖昧な判断基準だな……。
同じ匂いがしたから問答無用でリーシャを刺したんだとしたらなかなかクレイジーだぞ。
「勿論匂いだけで確信までは持てません。だから私はスキャンを使ったんです」
……あぁそうか、その手があったのか。
「あれだけの人数の中に紛れられたらスキャンを一人ずつ……なんて余裕はありませんが、対象がリーシャだけならすぐですから」
ナーリアのスキャンは一人ずつしか使えず、乱戦時に特定の人物を見つけるのには適さなかったという事か。
俺ももう少しみんなが何が出来て何が出来ないのかを知る必要があるな。
たとえばめりにゃんが覚醒時にどんな魔法を使う事が出来るのか、とか。
メディファスがいったい何の役に立つのか、とか。
『……主』
「今は空気読んで引っ込んどけ」
『……不条理』
「しっかし匂いで気付くなんて……なんか、犬みたいだな」
ちょっと失礼な事言ったかなと不安になったけど、こいつにそんな心配は無用だったようだ。
「姫の犬にでしたらいつでもなりますよ?」
いつものハァハァ言ってる変態モードじゃなくて、まだちょっと悲しそうな顔したままで言ってるのが大問題なんだよなぁ。
どんな感情で発言してるのか気になるが、あまり知りたくないような気もして複雑。
「?? どうかしました?」
「ははは。……いや、とにかく、あれだよ。お前にとってこの一件は辛かっただろうが……デュクシもめりにゃんも、ライゴスだっている。それに……ほら、俺だって居るだろ? ナーリアは一人じゃないからな」
「……っ、……はいっ♪」
涙を指で払いながらニカッと笑うナーリアは、今まで見た表情の中で一番綺麗だった。
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