ぼっち姫、悲しい結末。
「ここにいるデュクシというバカな男は、貴方がどこに隠れていようと適当に見つけてしまうでしょう。大人しく死になさい」
ナーリアが再び矢をキャメリーンに向ける。
すると……。
「くっ。貴方がたを侮っていたようです。これは私一人の力では対処しきれませんね……ここは退かせて頂きましょう」
再びキャメリーンが姿を消す。
驚くべきことに、あいつの透過はかなり精度が高く、ダラダラと垂れていたはずの血も全て消えている。
「逃がすと思ってるんですか!?」
ナーリアがもう一発、適当に矢を射るが、それは本当に何にも当たらず壁に弾かれて床に落ちた。
ここにはもう居ないという事なのだろう。
デュクシの確率操作は、運でどうにか出来る範囲の事なら確実に的中させるが、さすがにどうにもならない事に関しては効果が無い。
それもそうだろう。
それが可能だったら俺がここで思い切り石を空に向かって投げたらそれが鳥にでも咥えられて遥か遠くまで運ばれどこかで魔物にでも殺されて落ちた石が偶然新たな魔王の脳天に直撃して当たり所が悪くて死ぬ。
そんな荒唐無稽な事まで出来るって事になっちまう。
万が一にもそんな事が可能だったら【運を天に任せる】より恐ろしいかもしれない。
これ以上矢を放ってもそれこそ騎士が怪我をするだけになるだろう。
居ない者には当てられない。
必中とは言え、キャメリーンみたいなのが相手の場合は過信しすぎるとまずいという事か……。
今までちゃんと考えた事はなかったがその辺の曖昧さはちょっと怖いな。
確実に当てたい相手に当たると信じて矢を放ってもその場に居なければ矢は射た方向へ飛ぶだけだろうし、その先に人が居ればその人を傷つける。
むしろそれをどうにかしたければ運天でも使わなければいけないのだろうが……あれはあまり使わせたくない。
「姫、申し訳ありません……どうやら、逃げられてしまったようです」
「それは仕方ないだろう。しかし厄介な奴だ。もしまたアレが出てきたらデュクシとナーリアの二人で対処してもらう事になるだろうな」
「はい。次は、必ず倒します」
しかし、正直言うと今回でキャメリーンを始末できなかったのはかなり痛い。
あいつの能力を考えると……戦おうと思えばデュクシが居ればなんとかなるだろうが、こちらがその気が無い、日常の中や寝こみなどに襲われたらかなりまずい。
今度は真っ先にデュクシやナーリアを狙ってくるだろう。
それに怯えながら夜を明かす日々が、奴を倒すまで続く事になる。
何かしらの対策を考える必要があるな……。
緊張の糸が切れたのか、騎士団員達が次々とその場にへたり込んでいく。
俺の腕を掴みっぱなしだっためりにゃんも、ぬいぐるみのままわたわたしていたライゴスも。
そして、撃退できたのは自分の力のおかげだと全く理解できていないデュクシも。
皆がやっと一息つける時が来た。
そんな中、ナーリアだけはまだ難しい顔をしていた。
「テロアさん。調べてほしい事があります。ここに捕らわれていた人たちの中に、リーシャという女性はいませんか?」
「リーシャ、ですね。それでしたら皆が保護されている場所まで一緒に来て確認してもらえませんか? それが一番早いと思います」
「分かりました。姫、ちょっと行ってきます」
……いや、ちょっと今のナーリアを一人にするのは危ない気がする。
「俺も一緒に行くよ」
リーシャがもし殺されていたら、ナーリアは……そして、逆にリーシャがクレバーの一味だったら?
ナーリアはどのような行動に出るか分からない。
さすがに無茶な事はしないと思うが、怒りに任せて……って事がないとも限らない。
そして、俺の不安は的中してしまった。
テロアに案内されて建物の外に出て、奴隷として捕まっていた人たちが集められている場所へ到着するなり、その中からナーリアに駆け寄ってくる人の姿があった。
「ナーリア! よかった。ナーリアは無事だったのね! 私も気が付いたら檻の中で……心配してたわ」
そう言いながらリーシャが腕を大きく広げ、ナーリアに抱きつこうとした。
俺はナーリアが心配でついてきたのに、リーシャを見つけて唇が綻んでいるのを見て安心してしまった。
その笑みの理由まで思い至らなかった。
リーシャが抱きつく瞬間、ナーリアはどこから取り出したのか、
果物ナイフ程度のサイズの短剣を深々とリーシャの胸に突き刺した。
そのナイフをそのまま抉るようにリーシャの中で回転させ、引き抜く。
まるでスローモーションのようにリーシャの胸から血が噴き出し、カランカランとナイフが空しい音を立てて地面に転がった。
「ど、どう……して……?」
「……さようなら、リーシャ」
胸から噴き出す自らの血を信じられないというように見つめながらゆっくりと倒れていくリーシャ。
返り血で真っ赤に染まった両手で顔を覆いながらその場に泣き崩れるナーリア。
その光景を俺は
呆然と眺める事しかできなかった。
不思議と
何の感情もわいてこなかった。
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