ぼっち姫、ラマーズ法してみた。


「ダメです!! 姫を商品にするなんて絶対ダメです!!」


 ナーリアが突然顔を真っ赤にしてジャックスに食ってかかった。


「ち、ちょっと! 乱暴は辞めてください。……まったく。セスティ様なら何かあっても自分で対処できるし一人でも簡単に内部から潰してくれるでしょう?」


 まぁ、状況を考えたらそれも仕方ないとは思う。

 ここは俺が体を張るしかない……のかな?


「だったら私が代わりをやります!!」


「「「えっ?」」」


 俺と、ジャックス、そしてデュクシの声が重なった。


 ナーリアが、奴隷として……?


「あっ、あの……姫? そんなに私の体を嬲るように見ないで下さい……」


「誰がそんな目で見たんだ誰が!」


「しかし……このお嬢さんが商品という事ですとちょっと無理があるのではありませんか?買い手も付くかどうか」



 ジャックスの言う事もなんとなく分かる。

 奴隷というのはどちらかと言うと、体力のありそうな男か、可愛らしい女の子か、はたまた珍しい種族だったり希少価値のある何かを所有している者が主な対象という傾向がある。


 ナーリアのように背も高いし少女でもないし……。

 あるとしたら身体目当ての変態か……。

 ナーリアは黙ってればかなりの美女だからな。



 ジャックスも、ナーリアを頭からつま先まで一通り眺めて、同じ事を思ったらしい。


「……いや、そのお嬢さんくらいスタイルがいいならそういう需要はありそうですね。……いいでしょう。ではナーリアさん、でしたね? 貴女にお願いします」


「ちょっと待て。ナーリアが一人で潜入するのは危険すぎる」


 そもそもナーリア一人で内部から敵組織を壊滅? 無理だろ??


「お前が俺を行動不能にした事は認めてやるよ。だけどそれはデュクシと連携時、俺が油断していての事だぞ? お前一人でそんなでかい組織をどうにか出来ると思ってるのか?」



「思いません」


 ナーリアは俺の顔をまっすぐに見つめ、そう言い切った。


「だったら……」


「だからこそですよ。商品になるなら自衛力は最低限でいいんです。その方が自然ですから。それに……内部からだけじゃなく外からもやっちゃえばいいんです」


「ちょ、ちょっと待って下さい! 穏便にすます為にわざわざ中からと言っているのに!」


 急にジャックスが慌て始める。

 街への被害などを気にしているのだろうか?

 そういう事なら……。


「大丈夫だ。ナーリアには中でひと暴れしてもらうとして、その混乱に乗じて俺が乗り込むか、或いは……乗り込むのが難しければ完全に外からぶっ潰す。被害なんて出さねぇよ。全員俺に気付く前にぶっころ……じゃなかった、ぶちのめしてやるから」


「そ、そういう問題では……」


 まだ何か言いたそうなジャックスだったが、俺達が本気なのを悟ったのか反論を諦めた。


「困った人達ですね……。分かりました。それならそういう方向で話を進めましょう。これから私は情報の確認などもありますので一度外へ出ます。貴方方は出来るだけ身を潜めていて下さいね?」


 ジャックスが何やら慌てたようにそれだけ早口でまくし立てると、家から飛び出していった。


 あいつなりの作戦とかがあって、俺達のワガママで予定の変更などが必要になったのかもしれない。


 少しばかり申し訳ないと思わないでもないが……こればっかりはしょうがない。


 しばらくジャックスの家で大人しく待っていたのだが、暇を持て余しためりにゃんが騒ぎ始めてしまった。


「暇なのじゃー。セスティー。どこか出かけたいのじゃー」


「はいはい。全部終わったらゆっくり街を見て回ろうなー」


 ぐずるめりにゃんの頭を撫でてやると、「むむぅ……仕方ないのじゃ」と言ってほっぺたを膨らましながらもちょっと嬉しそうだ。


 あぁ、もううちの子になってくれないかしら。


 父親不在でもちゃんと育ててみせるわ。


 ……ハッ。

 なんか今とんでもなく恐ろしい事を考えていた気がする。

 しっかりしろ俺。いくらめりにゃんが可愛いからって情緒が不安定になるな。


 こういう時は落ち着いて深呼吸だ。


 ひーひーふー。ひっ、ひっ、ふー。


 ……違う。間違えた。絶対何か違うぞ。




 コンコン


 ……ん?

 今何か音がしたような。


 コンコン


「すいませーん」


 外からか細い女性の声が聞こえた。


「姫ちゃん、誰かお客さんみたいっすけどどうするっすか? なんなら俺がジャックスさん居ないって伝えてくるっすよ」


 こんな時に来客とは間が悪い。

 デュクシの申し出を受けようとすると、「デュクシが行くとナンパとかしかねないので私が行きます」と言ってナーリアが出入り口の方へ向かう。


「……姫ちゃん、俺ってそんなふうに思われてるんすかね……? ちょっとショックっす」


 確かにこいつはチャラいからな。


「お前はチャラいけど意外と真面目なの分かってるから。気にすんな」


「姫ちゃん……嬉しいんすけど……優しいと逆に怖いっす」


 こんにゃろう。久しぶりにお仕置きしてやろうか!?


「……ええ、はい。なので今ジャックスさんは……あれ、貴女……どこかで」


 ナーリアの様子がなんか変な感じだ。


「ナーリア、どうした? お客さんにはちゃんと説明したのか?」


 単に客に説明するだけにしてはちょっと時間がかかっていたので様子を見に行ったのだが……。


「ナーリア……? 貴女は……ナーリアって言うの? もしかして……」


「リー、シャ……??」

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