ぼっち姫、ご指名を受ける。


 とりあえずジャックスの話を聞いて分かった事は、このナランという街はほとんどの人々がクレバーの手中にあるという事。


 無論、そのままの意味ではない。

 クレバーの構成員はこの街のあらゆる場所、あらゆる職業、あちこちに潜んでいて、自分達の不利益になりそうだと思えばすぐに報告がいき、それ相応の対処をされる。


 それ相応の対処、というのは言葉通りの意味だ。


 少し金を握らせて口止めをしたり、脅して反抗する意思を削いだり、さらって奴隷にしたり、始末したり。


 どうやらクレバーにはかなりの実力者が用心棒として雇われているらしい。

 いや、実際はほぼクレバーの実働部隊のような形で、ただ契約上の付き合いという訳でもないようだ。


 最初はただの用心棒だったのかもしれないが、甘い蜜を吸ううちにだんだんそこが居心地よくなってしまったのだろう。


 そして、さらにはそいつらとは別に凄腕の殺し屋まで抱えているらしい。


 らしい、というのは噂でしか知らないからという事だった。

 ジャックスもこの街はかなり長く、情報網も確かのようだがその殺し屋に関しての情報は一切入ってこないのだとか。


 居る。


 それだけは確実らしい。



「大体わかった。じゃあ全てを根絶するのはどう考えても無理だな」


「そうでしょうね。ですが……」


 ジャックスの言いたい事は大体分かる。

 つまり……。


「全構成員を潰す事が出来ないのなら、指令系統を全てぶっ潰せばいい。後は蜘蛛の子を散らすようなもんだ」


 真面目な話をずっとしていたからか、めりにゃんは食事を食べ切った後くらいから頭が上下に揺れている。

 ライゴスはちゃんとぬいぐるみを演じているのか眠っているのか分からないが大人しくしているし、デュクシは一応俺達の話を真面目に聞いていて、ナーリアは心ここにあらず。といった感じだった。


 やっぱりアレが原因なのかなぁ。

 本当にナーリアが昔過ごした街がここならば、いろいろ気になる事はあるのだろう。


「とりあえずこれからの方針だけどな、まずどこからぶっ潰す?」


「できれば中途半端に手を出してしまうと逃げられる可能性があるので、クレバーの重要メンバー連中が一度に集まる時に一網打尽、というのが理想ですね」


 そりゃそうだろうけどさぁ。

 そんな都合よくメンバーが集まるような時があるのか?


「その日取りに関しては心当たりがあります。ただ……」


 ただ、なんだよ。


「幹部メンバー連中が一同に集まるという事は、それだけ警備も厳重になりますし、それをかいくぐる方法を考える必要があります。それに……」


 このジャックスと言う男、重要な情報を言う前に一度黙ってこちらの様子を伺う癖があるようだ。


 リアクションを楽しんでいるかのようなそのやり方に若干イラつきを覚える。


「実働部隊達も全員集まるでしょう。さすがにあの連中を全員相手にするとなると……」


 まただ。

 この現状をまるで楽しんでいるかのようだ。


「それは問題ない。俺一人でどうにでもなる」


「……」


 ジャックスは口を半開きにしたまま固まってしまった。

 少しだけ仕返しが出来たようでいい気分だった。



「私が掴んだ情報によりますと、二日後に大規模なオークションが開催されるらしいのです」


「なるほど、そのオークションに乗り込んでみんなぶちのめすんすね!」


 デュクシが話に割って入ってくるが、ジャックスは完全に無視して話を続けた。


「警備は厳重でしょうし簡単に潜り込める場所ではありません。なので……」


 くっ、またそれだ。いい加減にしてくれよ。

 こういう所は少しだけプルットに似ている気がする。

 血縁じゃねぇだろうな?

 でもデュクシとは無関係っぽいから違うのか?

 どうでもいいけど。


「内側から、潰して頂きます」


 一瞬何を言っているのか分からなかった。


 …のだが、めちゃくちゃ嫌な予感がする。

 俺の嫌な予感は当たるのだ。


「どなたかに奴隷としてオークションの商品になっていただきます」


 ほらな。

 でもうちでオークションの商品が出来そうな人員なんて……。


「個人的には今そこでお眠りになっている少女など最適だと思うのですが」


「おい、てめぇそれはめりにゃんの事を言ってるのか? 冗談じゃすまされねぇぞ」


 俺はありったけの殺意を込めてジャックスを睨む。

 本気なら今すぐぶっ殺してしまうかもしれん。



「……っ、じ、冗談ですよ。それにその少女では内側から潰すなんてできないでしょう? ははは……」


「……なら、いい」


「ハッ!? なんじゃ? 今儂の話してた気がするんじゃが……」


「なんでもないよめりにゃん。大丈夫だから」


「そうか……? ならいいん、じゃが……」


 突然目を覚ましためりにゃんが少し騒いだが、俺が声をかけるとすぐにまた頭を揺らし始めた。


 まったくうちのめりにゃんはお子様可愛いぜ。



 ジャックスはしばらく青い顔をしていたが、二度ほど咳払いをしてまた話し始めた。


「でしたら……残念ですが一番最適な人員は貴方という事に……」


 ジャックスがゆっくり指を指す。


「セスティ様」



 ……えっ?

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