ぼっち姫、憤慨する。


 俺達はひとまずジャックスの案内で街の中を簡単に見て回った。


 久しぶりに来たがここナランの街はリャナの町の三倍程はあろうかという広さで、とにかくありとあらゆる種類の店が並び、商人も客もとにかく多かったのだが、ゆったりとした道幅だったので特別通るのに苦労するような事は無い。


 以前は通りすがりで一日滞在しただけの街だったのでゆっくり見る余裕は無かったが、こうやって改めていろんな店を眺めてみると食料関係を扱う店も多く、武器防具を取り扱う店もそれなりにあるようだった。


 中には何の店なのか分からないのも結構あったのでちょっと気になるが、全部片付いたら改めて散策しよう。


 ここなら俺の新しい武器も見つかるかもしれない。


 だからと言って王都よりも品揃えがいいかどうかは微妙だが。


 どちらにせよ今回もゆっくり観光をしている暇は無い。

 さっさと奴隷商人の件を片付けてリュミアの情報を集めないといけないのだ。


 やはりここはやるべき事を分担する方が効率がいいだろう。


「その角を曲がると私の自宅がありますので一度そちらで打ち合わせをしておきましょう」


 ジャックスの言う通りに賑やかな街角を曲がると、目の前に飛び込んできたのは飛んでもない豪邸……ではなく、どちらかと言えば他の家よりもかなりみすぼらしいこじんまりとした家だった。


「てっきりプルットの家みたいな豪邸かと思ったよ」


「いえいえ。私がプルット氏のようないい家に住むなどおこがましいです。どちらかと言えば生活にこだわる方ではないですしね。家は寝泊まりができれば十分です」


 その点については俺も同感だ。

 家があまりに広いと落ち着かないし、自分で掃除するとなると苦痛でしかない。

 使用人を雇うのはなんだか馬鹿らしいしな。


 家の中の埃だけを一点にかき集める魔法とか、そういう魔法道具なんかが売ってればいいのに残念ながらそんな便利な物は無い。


「なんかナランについてから変じゃないっすか? ナーリア、気分悪いんすか?」


 俺の背後でデュクシがナーリアに話しかけている。と、いうよりは心配をしているようだ。


 もしかしてナーリアの奴まだあれを引きずってるのか? と、俺も少し心配になったのだが……どうやら当たらずとも遠からずというやつのようだ。


「い、いえ……以前この街に住んでいた事があって。その……ただ懐かしいなと思っていただけです」


 嘘つけ。

 その顔が懐かしんでる顔かよ。


 俺はちょっとだけ嫌な予感がしていた。

 このナーリアの様子を見るに、もしかしてここなのか?

 ナーリアが幼少期を過ごし、そしてナーリアの母親が死んだ街は。


 ナーリアが俺の視線に気付いたのか、無言で頷いた。


 そういう事、と思っていいんだろう。


「おなか減ったのじゃ」


 そして空気を全く読まないめりにゃん。いつでもマイペースで微笑ましい。


「ははは。ではどうぞ皆さん家に入って下さい。あまり豪華とは言えませんが軽く食事を用意しましょう」


「ほんとうか!? お前いい奴じゃのう♪」


 めりにゃんがいつか悪い大人に騙されやしないかお父さんは心配です。



 ジャックス宅に入ると、外観と同じくところどころ年期が入ってボロボロになっている上に、とにかく狭い家だった。


 この人数で入るにはちょっときつい。


 用意されたテーブルを囲むようにみっちみちに座り、ジャックスが卓上に並べていくスープとトーストをもふもふやりながら詳しい話を聞く事にした。


「プルット氏から聞いているとは思いますが、この街に奴隷商人が隠れています。しかも、調べてみて分かったのですがそいつらはかなり規模の多い集団でした」


 ……つまり、リュミアが懲らしめた奴隷商人は、その組織の一端だったという事か。


 そいつらを探し出してどうにかした所で、大本を潰さないとなんの解決にもならない。

 また他の連中が奴隷を売り捌く。


 そういうふうに出来ているのだ。


「それで、それだけ大きい規模でやってるって事は……何を隠れ蓑にしてるんだ? 何かあるんだろう?」


「さすがに鋭いですね。あいつらはクレバーという組織なのですが、奴等はこの街を裏で操っているのです。表向きは低金利の金貸しとして、そして裏では闇カジノとして、さらにその裏では奴隷商人として」


 つまりはそのクレバーって組織は三つの顔があるという事か。

 表向きが金貸しだというのがますますそれっぽいな。


「金貸しとしては低金利で善良さを醸し出しつつ、債務者には闇カジノを斡旋してそこで全てを失った者は奴隷にされる、と。そういう事か?」


「ご明察です。しかし奴等クレバーは債務者だけにあらず、各地であらゆる種族を捕らえては奴隷として成金の貴族達に売りつけているのです」


 胸糞の悪くなる話だ。

 俺の頼まれた仕事はあくまでもゴギスタ達をリャナの町で売り捌こうとしていた奴隷商人達を拘束する事だが、これはそんな小さな問題で終わらせるわけにはいかない。


「ジャックス、そこまで分かってるって事は、根城はきっちり判明してると思っていいんだな?」


 ジャックスは目を細め、これでもかと口角を吊り上げながら「勿論ですとも」と笑った。


 そんな話を聞いちまったら、やるしかねぇよな?


「よし、詳しい話を聞かせろ」


「それでは……!」


「そういう事だ」


 そんな腐りきった連中は、俺が跡形もなくぶっ潰してやる。

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