ぼっち姫、新たなる街へ。
「溶けるぅぅうぅぅぅぅぅう!! 溶けちゃううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「ひぃっ!」
ナーリアが突然大声で妙な事を叫びながらその辺を転がり回ったので俺は驚いて飛びのいた。
正直、かなり引いている。
「はぁ……はぁ……。ひ、姫」
しばらく転げ回ったナーリアがぜぇぜぇ言いながら何かを問いかけてきた。
「な、なんだ?」
「姫に、慣れるとか……無、理……」
そこまで言ってナーリアの意識が飛んでしまったので、仕方なく肩に担いで馬車の中へと放り込んだ。
「お前、疲れてんだよ。少し休め」
休んでどうにかなるもんだといいんだけどなぁ。
多分あいつのは治んねぇ病気だわ。
結局俺が朝まで見張りを続け、皆が起きてくる時間を見計らって軽食を用意する。
と言ってもめんどくさいので皆で干し肉をかじるだけなのだが。
予定通りに行けば今日中にナランの街に到着するはずだ。
再び俺が馬車を操り、大通りを進む。
やがてナランからリャナへ向かう商人達とすれ違うようになってきた。
今回は魔物に遭遇する事もなく平和にナランへたどり着けそうだ。
馬車の中からはナーリアとデュクシが他の協力技についてああでもないこうでもないと打ち合わせを続けている。
なかなかいい心がけだが、単体で戦う時の事もちゃんと考えておけよ?
荷台の方を覗き込むとめりにゃんは馬車の揺れに身を任せてまたうとうとしているようで、ライゴスはその頭の上で微動だにしない。
多分こいつも寝ている気がする。
まったく呑気なもんだ。
「おいメディファス」
『なんでしょう? 我が主』
「何かあった時にライゴスのぬいぐるみ状態を自力で解けるようにはできないのか?」
『可能です。あの魔物の事を信用できるのであればそういう処置をしますが』
「それは問題ない。頼むよ」
『了解しました。次に接触する際にでもその処置を施しておきます。ですが、自力で解除という場合については時間制限付きになるのをご了承下さい』
……つまり、その気になれば自分で元の姿に戻る事は出来るが、時間制限付きで、一定時間経過でまたぬいぐるみに戻ってしまうという事だろうか。
『肯定』
「心を読むんじゃねぇよ気持ち悪いな」
そもそもなんでこいつは俺の考えている事が分かるんだ?
予測しているだけか? それともこいつが何かしてやがるのか?
『説明。我は貴方様を主と認め、契約しているような状態にあります。我には貴方様が求める事に対し早急に応える必要があります故、ある程度の思考については理解できるように出来ています』
いや、よくわからん。
『具体的に説明いたしますと、本来我は貴方と同化するはずでした。そうすれば思考はすべて共有する事が可能でしたが、この状況ではそれも不可能なので、今現在貴方の精神と一体化しているアーティファクトを通じて我の方に主の思考を飛ばしています。直接同化より効率が悪くタイムラグが若干発生しますが、こちらが知ろうと思った時には思考を理解できる仕様になっております』
ああ、俺の中にあるアーティファクトに干渉してそっち経由で考えを知ることが出来るって事か。
『主の性格から考えるにあまり好ましく思っておられない事は承知しております。故に普段は常時接続ではなく、必要に応じて行っておりますのでご安心を』
そう言われてもなぁ。考えを知られる可能性があるってだけで割と気持ち悪いんだが。
『……少し、傷付きました』
「ごめんごめん。だから普段はその接続を切っておけよな」
『了解』
そんなやりとりをしているうちに、また今日も一日が過ぎていく。
日が暮れかけてきた頃、遠くにナランの街を取り囲む外壁が見えてきた。
ナランはかなり大きい街で、防衛の為に周囲を十メートルはあろうかという壁に覆われている。
空を飛ぶような魔物には意味がないが、それはナランの警備隊のいい的になるという訳だ。
ナランは魔法に関してかなり進んでいる街で、魔法士だけの警備隊が設立されているくらいだった。
ここらで俺も新しい魔法を覚えておくのもいいかもしれない。
俺の今の体は魔法に対しての素養がかなり高く、使い方さえ覚えれば大抵の物は使えるようになる。
しかし、残念ながら俺に魔法の知識が全くないのでアシュリーから教えてもらった物しか使えないのが現状だ。
この街で魔法書の類を買うなり、魔法を専門で教えるような所で勉強するのも悪くないだろう。
「おー。あれが新しい街じゃな♪ 儂の身分証が火を噴くのじゃ!」
いや、火は噴かねぇよ?
めりにゃんは手に入れたばかりの身分証を早く使いたくてうずうずしているようだった。
新しいおもちゃを手に入れた子供みたいにはしゃいでいる。
まったく可愛い元魔王様だぜ。
ナランの外壁は、近くまでくればかなり迫力があり、デュクシなんかもテンションが上がっていた。
「うおぉぉ……これすっごいっすね! ……ンあ、あっちから入れるみたいっすよ!」
デュクシが馬車から飛び降り、検閲官の方へ走っていってしまった。
こちらに手を振りながら先に街の中へ入っていく。
どうやらスムーズに入れたようだ。
検閲まで進み、俺は少し緊張しながらも身分証を提示する。
すると、検閲官の向こうでデュクシが、誰か男と話しているのが見えた。
ありゃ誰だ?
「ほれほれ儂の身分証じゃぞー♪」
検閲官が馬車の荷台を覗き込み、簡単な荷物チェックと、そこに乗っていた残りのメンバーの身分証を確認していく。
そしてチェックが終了し、やっと俺達はナランの街へ足を踏み入れた。
「お待ちしておりましたセスティ様。プルット氏より話は聞いております」
デュクシと一緒にいた男は俺に向かってそう言うと、九十度体を折り曲げ深々と礼をした。
「あんたがジャックスか? わざわざ迎えに来てくれるとはご丁寧なこった」
実際は、俺達が依頼を無視しないように入り口の段階で身柄を抑えようとしたのだろう。
間違いなくプルットの差し金だ。
あのおっさんやっぱりなかなかに慎重というか、抜かりがないというか……。
「プルット氏より貴方方の監視……いえ、面倒を見るようにと仰せつかっております」
今監視って言いやがったなてめぇ。
早く依頼をこなして自由にならなければ……いつまでもここに留まってる暇はないんだよ俺達は忙しいんだからな!
「何はともあれ、ようこそ。ナランの街へ」
ジャックスがニヤリと笑った。
こいつもなかなか性格が悪そうだぜ。
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