ぼっち姫、サービスする。

 うーん。これは困ったぞ。


 しかし無言で見つめてるわけにもいかないよなぁ。

 急に話題逸らすのも変だし。

 一度ちゃんと吐き出させた方がいいかもしれない。


「魔物にやられたのか?」


「……いえ、同族です」


 マジか……人間にやられたんじゃキツいよなぁ。


 でも確かにナーリアは、驚くほど魔物に対して偏見が無い。

 ちゃんと会話が出来る相手なら、だが。

 めりにゃんと初めて会った時だってただの可愛い幼女くらいにしか思っていなかったはずだ。


 もし魔物に親を殺されていたとしたらこうはいかないだろう。

 逆に、根の方では人間に対する不信感ってやつの方が大きいのかもしれない。


「私が生まれた集落はかなり独自の文化を持っていて、詳しくはあまり言いたくありませんが……外の人というのを拒む傾向にあったんです」


 今でもたまにそういう閉鎖的な村とかはあるって聞くけど、その典型みたいな場所だなぁ。


「ある日傷ついた旅人が集落に迷い込み、それを保護して看病したのが母だと聞いています」


「なるほど。じゃあその旅人と、母親から生まれたのがナーリアだって事か?」


「はい。そこまではよくある話で済ませられるんですけれど、私の同族達は、これもあまり言いたくないのですが体にある特徴があるんです。それを私は一切受け継いでいなかった」


 言えない事、言いたくない事がまだまだ結構あるみたいだが、それを無理に話せと言ってもどうしようもないだろうな。


 こいつ、もしかしたら……。


「お前さ、まさかとは思うが魔物と人間のハーフなのか?」


「えっ? い、いや……魔物ではないんです。ただ、確かに私の母親は人間ではありません」


 大体読めてきたぞ。

 そういう事ならナーリアが【同族】って言葉を使っていたのも理解できる。


「じゃあお前の母親は、その旅人……人間と恋に落ちて子を成したせいで同族から殺されたっていうのか?」


「はい。……と言っても、直接殺された訳ではありません。結果的にそうなったというだけで……むしろ同族に殺されたのは父の方なんです」


 おいおい。なんか話がややこしくなってきたなぁ。

 

「姉から聞いた話なのですが、母は人間と子供を作った事で同族からかなりひどい扱いを受けたようです。それでも、私の姉は同族の特徴をきちんと持っていたのでまだ受け入れられていたと」


 あぁ。なんでそんな状況下で二人めを作ろうとするかねぇ?

 計画性が無いだけなのか、少しでも自分たちの子孫を世に残す為だったのか……。


 どちらかと言えば後者だと思いたいが。


 混血児というのは諸刃の剣で、どちらからも迫害されるか、或いはお互いの種族の橋渡しになるか……。


 ナーリアの場合は迫害の方に向いてしまったのだろう。


「私は、父親に似てしまったんでしょうね。種族の特徴は一切現れなかった。どうみても人間でしかなかった。……数年はそれでもひっそり暮らしていたんです」


 そこから先の話は俺でも耳を塞ぎたくなる。

 人間もそうだが、どこの種族でも、保守的になるがあまり他者を排除しようとする奴等っていうのは一定数いるものなのだ。


 ついに我慢できなくなった集落の奴等は、ナーリアの姉を奪い、父親を殺し、母親とナーリアを集落から追い出したのだそうだ。


「私と母は、父が生前残してくれたメモを頼りに父の親類の元へ行き、助けを求めました」


 そして、父親の期待は見事に打ち砕かれ、そこでもひどい扱いを受けてきたと。


「父の親類、おば様のところでほとんど奴隷みたいな生活を何年かしていた頃、母が病に倒れて……勿論治療費など出してもらえないのでそのまま……治療すれば治る病だった筈なんです」


 結果的に言えば、父親を殺したのが同族で、母親の死の切っ掛けを作ったのも同族。だけど、母親を見捨てて死なせたのは人間だったという事になる。


 ならばナーリアの言う同族、というのは人間も含めた両方という事なのだろう。


 こいつも相当苦労してきたんだな。

 ただのヤバい変態かと思っていたが、少しだけ考えを改める必要があるかもしれない。


「母が亡くなり、私はもうどうしていいか分からず死んでしまおうと思った事もありました。でも、その時おば様の娘、リーシャが、こっそり私に優しくしてくれたんです」


 ナーリアが言うには、そのリーシャという娘はそれはもう可愛らしかったらしい。


 自分があまりにひどい環境で、奴隷のような生き方をしている時に唯一優しくしてくれたのが可愛い少女だった。

 ナーリアの性癖が歪んだのはこの辺に原因がある気がする。どうでもいいけれど。


「ある日、おば様が私を奴隷商人に売り飛ばそうとしました。賭け事で負けたらしく少しお金に困っていたみたいで……でも、それをリーシャは助けてくれたんです。こっそり私を逃がしてくれました」


 そこからは必死に住み込みの仕事をしたり、日雇いの仕事をしたりしながら日々をなんとか生き抜いていた。

 姉と連絡が取れたのは数年前らしい。ある程度の自由を手に入れた姉が、ナーリアを探し出してくれたのだそうだ。


 姉のすすめで冒険者になり、ごく簡単な依頼をこなしては日々を過ごしていた。

 そしてしばらく経った頃、俺とパーティを組むという話が舞い込んできた。


「私なんかが、とは思いました。それでも……冒険者として名高いセスティ様とパーティを組むなんて一生に一度しかないチャンスだと思ったんです。だから……」


「そうか。そこでお前が勇気を出してくれたから今こうやって一緒に旅が出来てるんだ。ありがとな」


 もう一度、今度は思い切り頭をくっしゃくしゃに撫でまわして、そして……。


「今回だけだからな」


「えっ?」


 俺はナーリアの頭を撫でたあと、後ろからそっと抱きしめてやった。



 こんな話聞かされたらちょっとくらいサービスしてやりたくなっても仕方ないだろう?


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