ぼっち姫、敗北2。
翌日、また馬車でひたすら大通りを走り続けて日が暮れる。
やはり大通りともなるとほとんど魔物が居ないので平和なものだ。
その日も何事もなく一日が終わっていく。
今日で二日目、あと一日あればナランに到着だ。
その晩もプルットが大量に持たせてくれた食料を皆でわいわい食べるのだが、生ものは全部初日に食べてしまったので今日から乾物類がメインになる。
それでも野営でこれだけの物が食べれたら十分だろう。
食事の時だけはライゴスも元の姿に戻って食べているのだが、めりにゃんやライゴスは魔物な訳で、人間の食事はどうなのかと今更疑問に思う。
「これはなかなかいけるのであるな! ヒルダ様、こちらもそろそろ焼けてるのである」
「おおありがとうライオン丸。……あっつ……はふ、はふ……うんまいのじゃ!」
どうやら大丈夫らしい。
やっぱり魔物にちゃんと食料を行き渡らせれば無駄な争いも多少減るのだろうか?
食後ライゴスはすぐらいぐるみに戻され、めりにゃんと馬車へ戻っていく。
デュクシとナーリア、そして俺という三人だけになったので、トーチの魔法で辺りを出来る限り明るくして今日の講義を始める。
「今日は最初に少し実戦をしようか。お前ら二人がかりでいいからかかってこい。殺す気でやっていいぞ。万が一当たっても俺は死なないから」
「なんか物凄い事さらっと言うんすね……」
デュクシはどこまで信じていいか分からないような顔だったが、俺の言う事なら間違いないだろうという事でいざ戦闘開始。
まずはデュクシが普通に切りかかってくるのでそれを適当にかわす。
そういえば俺まだ剣無いんだったなぁ。どうせすぐ壊れるからという理由でリャナの町でも購入は見送ったのだ。
なので掌で剣の起動を逸らしながらデュクシの相手をしてやると、背後からナーリアの矢が飛んでくるので顔の前で素手で掴む。
矢を無駄にすると勿体ないのでへし折らないようにその辺に投げ捨てた。
「お前ら舐めてんのか? 本気出せ本気」
「言われなくてもそーするっすよ!!」
デュクシの剣から炎が迸る。
さすがにこれは素手で受けると火傷してしまいそうだったので手に防御魔法をかけた。
これで先ほどのように直接受け流す事ができるようになる。
勢いあまって魔剣を壊してしまうと困るので気を付けないと。
ナーリアも要所要所で魔力を込めた矢を放ってくるのだが、やはりこいつはなかなかセンスがいい。
俺がデュクシの剣を受け流す瞬間を狙ってピンポイントで死角を狙ってくる。
一発かすってちょっと痛かった。
腹いせにデュクシの腹を軽く殴り飛ばすと、力を入れすぎたのか派手にごろんごろん転がって動かなくなった。
心配そうにナーリアが駆け寄り、デュクシの体を揺らすが反応が無い。
「さて、どうする? ナーリアだけでもう少し戦うか?」
俺がニヤリと笑いつつそう言ってやると、ナーリアは「いえ、一人で戦うのは無理です」と情けない事を言う。
俺は少しだけがっかりしたが、まぁ遠距離攻撃しかできないナーリア単体では戦い方も限られるし、陽動があって初めて生きてくるのでそれも仕方ないか。
なんて思った時。
「一人では、ですけどね!」
ナーリアが俺を目掛けて矢を放った。
ひゅごっ!
と空気を裂く音が響き、矢は大量の炎を纏った風をまき散らせながら俺へと一直線に向かってきた。
これはなかなかだ。
「でも、残念だが俺にはきかないな」
俺は向かってくる矢に向かって殴りかかる。
勿論直接矢を殴るのではなく、拳圧で風を起こし、矢の魔法をかき消したのだ。
そのまま矢も拳圧に負けたのかそのまま落下してしまう。
「俺にはきかなかったけど今の合体技はなかなか良かったぞ。デュクシ、寝たふりは辞めて起きろ」
デュクシは意識の無い振りをして、ナーリアの放つ弓矢に魔剣の炎を纏わせたのだ。
それを風の魔法が炎をまき散らせる事によって、より威力の高い攻撃に昇華させた。
これは合格点だろう。
「バレちゃったっすね。でも姫ちゃん……」
「姫……」
「「油断は禁物っすよ」」
…?
!?
「うおぉっ!? あっぶねぇ!!」
一瞬気付くのが遅かったら脳天に矢が突き刺さっていたかもしれない。
俺の肩口を軽く掠るように矢が俺の足元にすとっと突き刺さった。
あの合体技は、わざと炎をまき散らす事で俺の視界を狭める事が目的だった……?
「まさか覚えたての合体技を囮に使うとはな……これはナーリアが考えたのか?」
「はい。普通に戦っても無理だろうと思って、魔法矢を放った後すぐに上空へ向かってもう一本撃っておいたんです」
なるほどなぁ。
俺に気付かれないように二矢目を適当に上空へ放ち、それを確率操作で俺目掛けて落とした訳か。
ちょっとヒヤっとした。
こいつら思ったより吸収率がいいし、臨機応変な戦い方を組み立てられるようになってきた。
これは今後もしかするともしかするかもしれん。
「……やるじゃねぇか」
俺は、今とても気分が良かった。
「さっきのはとっても良かったわ♪ 私が褒めてあげるんだから喜びなさいねっ☆」
すとっ。
そして、私の脳天に矢が生えた。
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