ぼっち姫、めりにゃんを口説く。


「なんて顔してやがる」


「だって私に、この馬鹿と合体しろってどういう意味ですか? 流石に姫の命令でもそれは……」


「合体ってカッコいいっすけど俺そんな特殊スキル持ってないっすよ。変形とか無理っす」


 こいつらは違うベクトルだけど、等しくどうかしてる。


「馬鹿かお前らは……俺が言ってるのは、合体技を使えるようになれって事だよ。一人ずつの戦力アップも大事だが、二人一緒に居る時にならライゴスレベルの強敵とも戦えるくらいの決め技は持っていて損はないだろう?」


「そりゃすげーっす! ナーリアと一緒じゃないとってのが不便っすけど、それが出来れば姫ちゃんの役にも立てるっすかね!?」

「……私に、そんな事が可能でしょうか?」


 前向きなデュクシと違って、こういう時ナーリアは妙に自分を下に見るというか、自信がなさそうな態度を取る事が多い。


「デュクシはもう少し考えて喋れ。あとナーリアはもう少し自分に自信を持て。これは二人の課題な」


 二人は真面目な顔をして、何度も首を縦に振る。


 そして、いくつか思いついた連携技を二人に提案し、二人に試してもらう。


 案の定、というか……最初なので仕方ないのだが、当然うまくいかない。


 これを咄嗟の判断で使えるようにならないと意味がないので、二人にはこの練習を毎日の課題にした。


 勿論街の宿に泊まっている時などは練習できないのでそれ以外の時に出来る限り試して自然に使えるようになってもらう。


 少なくともこれをさっと出来るようになればかなりの戦力アップが見込めるし、お互いの連携力がさらに上がる事だろう。


 その日は二人とも夜遅くまで頑張っていたようだがやがて力尽きてその辺に転がるように眠ってしまったので仕方なく二人を担いで馬車に放り込む。


 その衝撃で目が覚めたのかめりにゃんが目を擦りながら起き上がる。


「おー……セスティ。なんじゃ? 儂の見張り時間かのう……?」


「いや、見張りは俺がやっとくから寝てていいぞ?」


 そう告げたのだが、めりにゃんはそのまま「うーん。でもちょっとセスティと話したいし起きるのじゃ」と言って馬車から降りる。


 それでもまだ目を擦っているあたり、眠いのを我慢してるんだろう。


 なんだか本当にこんな娘か妹を持ったような気分だ。



 めりにゃんと二人で草むらに座ると、「ちょっと寒いのじゃ……」と言ってめりにゃんが俺の腕にひっついてくる。


「やっぱり馬車の中に居た方がいいんじゃないか?」


「うんにゃ。大丈夫なのじゃ。ちょっとセスティに聞きたい事があるしのう」


 めりにゃんが改まって俺に聞きたい事?


「その……セスティ。セスティは……もし儂が魔王のままだったとして、いつかは殺しに来たんじゃろうか?」


 ……ああ、そういう事か。

 この状況だから一緒にいるし、もう大事な仲間だが…確かに俺の目的は魔王をぶっ殺す事だった。

 予期せず魔王が代替わりというか、違う奴が新しい魔王として君臨している。


 もしそうでなかったなら。

 めりにゃんが、強大な魔力を持った魔王として君臨していたのなら。


 俺はやっぱり殺しに行ったのだろうか?


 隣でめりにゃんがその大きな目で俺の顔を見つめている。

 俺は、何も知らずにこの子を殺していたのだろうか?


 俺が一切会話をしようとせずに、目的だけを果たそうとしたのなら、もしかしたらそういう事もあったのかもしれない。


 いや、当時の、完全な男状態の俺だったならその可能性もそれなりにある。


 しかし、この体になってから俺の考え方とか、芯の部分まで浸食が始まっていて、明らかに以前よりも考え方が柔らかくなっているのを感じる。


 そういう意味ではこの体になったからこそ今こうしてめりにゃんと一緒に居られるのかもしれない。


「俺が魔王の城に乗り込んだとしても、めりにゃんとちゃんと話したら、殺す事なんてできなかったと思うぞ」


「……どうしてじゃ?」


 無意識だろうが、俺の服を引っ張るめりにゃんの手に力がこもる。


「だってめりにゃんはめりにゃんだろう?  人間を特別嫌いって訳じゃなかったんだろう?」


「ま、まぁそうじゃが……でも儂は魔物達の長として、城に人間が乗り込んできたら倒さねばならぬじゃろう?」


「そりゃ立場ってもんがあるだろうししょうがないだろうな。でも俺はちゃんと話せる奴とはしっかり話したいし、めりにゃんと話したら絶対に殺したくないって思うはずだよ」


 恐らく実際そういう状況下だったとしても俺はめりにゃんを殺そうなんてしなかっただろう。


「そうだといいんじゃがのう……」


 めりにゃんは俺の腕を離し、星空を見上げた。


「今日は星が綺麗じゃ。セスティはあの星がなんなのか、なんで光っておるのか知ってるかのう?」


 何の話だ?


「星は、星だろう? 星は光る物だ」


「でも儂達は星と言う物がなんなのかを知らないのじゃ。なんで光るのかも」


 確かにあれが何なのかを確かめる方法は無いし、実際どういう物なのかは知らないな。


「それと同じじゃよ。人間はこういう物、魔物はこういう物。……そういう決めつけがあってみんなそれを信じておる。だから争いは無くならない。そして、悲しい事にそれは大抵の場合間違ってはいないのじゃ」


 めりにゃんはなんだか寂しそうに目線を下に落とし、地面の草を数本抜いては風に舞わせた。


「めりにゃん。どんなに種族の間ですれ違いがあったり争いがあってもさ、俺達はこうやって仲間になれただろう? 俺はそれを嬉しく思ってるし、俺はめりにゃんと仲良くなれてほんとに良かったと思ってるよ」


「……お主、もしかして儂を口説いておるのか……?」


 あれっ? なんでそうなるの?


 いい話をしていたはずでは??



「そうだよ。俺実はめりにゃんの事が……好きになっちゃったんだ。ずっと一緒に居てくれないか?」


「なっ、なななななっ、何を言っておるんじゃ!! べ、別に儂はお主がその気なら……いやしかしセスティは今女じゃぞ? という事はじゃ、という事は……つまり、つまりどういう事なのじゃ!?」


 落ち着けって。

 めりにゃんは面白いほど狼狽して、途中から何かよく分からない事をぶつぶつ呟いていた。


「はははっ。俺をからかったりするからそうなるんだぞ?」


 めりにゃんはどういう事なのか分からない様子で俺を見つめ、やがて意味に気付く。


「お、お主……儂をからかいおったなぁっ!?」


「めりにゃんが先に俺をからかったんだろう?」


 あー。

 こいつくっそかわいい。


 ムキになって目に軽く涙を浮かべながら憤慨しているめりにゃんはとても愛らしかった。

 背中のピコピコ動く羽根もなんとも言えない。



 その後、しばらくぷんすかしていためりにゃんを寝かしつけるのが大変だった。


 俺はロリコンではないぞ。念の為。

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