ぼっち姫、小さい奴らの面倒を見る。

 プルットの部屋のドアをノックすると、中から「ど~うぞおはいりくださ~い」と相変わらずの間延び声が聞こえてくる。


 とりあえずゴギスタ達をデュクシとナーリアに任せて、俺だけが入る事にした。


「入るぞ」


「これはこれはこ~んな夜更けにどうされたんですかぁ~?」


 プルットは何やら大量の書類に目を通している最中だったようだが、それを一度机の上に置き、眼鏡を外して目頭を押さえた。


 なかなか真面目に仕事をしているようだ。


 さて、ここからこいつがどう出るか次第ではすぐにでも出立しなければいけないし、そうでないなら……。


「町を徘徊してる奴らがなんなのか分かったぞ」


「おお! それは本当で~すかぁ? さすがセスティ殿ですなぁ~仕事がはや~い。それで、そいつらは始末してくれたんでしょ~うか?」


 俺は今までの経緯、そしてホビットドワーフ達を屋敷に連れてきていることを説明した。


 すると、だ。

 俺が思っていたのとはちょっと違う言葉が返ってくる。


「そ、それはぁ~可哀そうに……」


「はい?」


「だってぇ~そうでしょ~う? そのホビット達はぁ、無理矢理連れてこられた上に帰る場所すらな~くてひっそり生きてきたんでしょぉ~う?」


 ……おや?

 おやおやおや??


 これはひょっとしたらひょっとするぞ。


「私はねぇ、そういうルールを破る商人が大嫌いなぁ~んです。商人がした悪行なら私達がどうにか~してあげないと被害者達がぁ、可哀そうでしょ~う?」


 こいつは……これが演技かどうか俺には判断がしかねるが、少なくとも表面上では理解を示してくれているようだ。


「おいお前ら入ってきていいぞ」


 俺の合図に、ギィ……と静かに扉が開き、恐る恐るといった感じでゴギスタが顔を覗かせた。


「おぉ~。この子が、そのホビットドワ~フという子なのですなぁ」


 プルットの反応を見て安心したのか、ゴギスタを先頭に五人全員がゆっくり部屋に入ってくる。


「これで全員ですかぁ?」


「ああ。こいつらを奴隷として売り捌こうとしていた商人は以前この町に立ち寄ったリュミアが対処してくれたらしいが……」


「なるほどなるほどぉ~。そうだったんですねぇさすが勇者どのですなぁ~。ちなみにですけど、その子らはぁ言葉が通じるのでしょうかぁ~?」


 意外と好意的な事に困惑しながらも、ゴギスタ達は自分らがちゃんと言葉が話せる事、そして行く場所が無い事などを自分たちでプルットに告げた。


「うぅ~。泣けてきますねぇ。私こういうけなげなのに弱いんですよぉ~」


 マジでか。これなら案外すんなり話が進むのではないだろうか?


 と、そんなのは安易な考えだとすぐに気付く。誰もがみんなこいつのような性格では無い。


「私個人としてはぁ~、言葉も通じるのでうちで雇って雑用とかしてもらったりとかぁ。その子らがそれでいいなら面倒見るつもりはあるんですよぉ~」


「ほ、本当か!? ……です、か?」


 ゴギスタも自分の言動が仲間達の運命を左右する事に気付いたのか、プルットに対して慣れない敬語を使おうとしている。


「素直ないい子ですねぇ~。ぜひうちで働いてもらいたいですよぉ。もちろんこの屋敷に住んでもらっていいですし食事は保証しますよぉ~?」


 プルットの言葉にホビット達が沸き上がる。

 互いに抱き付き合い、涙をボロボロ溢して、それを見たプルットまで目をうるうるさせ始めた。


「だがあんたがこいつらを雇うのは大歓迎だし助かるけど、それをこの町の奴らは受け入れてくれるのか? お前の屋敷から一歩も出れないなんて事になれば今までよりはマシ、程度だろう?」


 それでもかなりマシにはなるのだが、結局生きていく事だけしかできない。

 こいつらだって楽しく過ごす権利がある筈なんだ。隠れてこっそり生きていくだけなんて俺は認めないぞ。


「確かにぃ~。ここから出られないのはぁ可哀そうですよねぇ~。それにここには人の出入りもありますのでぇ~隠し切れる保証はないですしぃ~どうしたらいいんでしょ~う」


 それを相談しに来たんだけどなぁ。


「とりあえず今日はもう遅いからこいつらに部屋を貸してやってくれ。後の事は明日じっくり考える事にしようぜ」


「それもぉ、そうですなぁ~。では開いてる部屋へ案内いたしましょ~う」


 プルットはホビット達を引き連れ、それぞれに一つずつ部屋を与えようとしたが、奴らがそれを拒否して一つの空き部屋に全員入る事になった。


 知らない人間の屋敷でそれぞれバラバラになってしまうのは少し怖かったのかもしれない。


「じゃあとにかく明日また打ち合わせしよう。お前らの事はなんとかうまくいくように考えてみるから安心しろ」


 ゴギスタ達は俺の手を握って何度も何度も感謝の言葉を口にする。

 そして、この屋敷の主プルットにも。


 なんとかうまく話しを進めてやりたいもんだ。




「なるほど! そういう事なら我にいい考えがあるのである!!」


 翌朝、皆に事情を説明すると、まっさきにそんな声が屋敷に響き渡った。



 ……不安しかねぇんだけど。

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