ぼっち姫、勇者の痕跡を見る。



「とりあえずお前らが今住んでる所まで連れていけ」


 こいつらが町を徘徊する魔物だというのなら危険性は少ないので、めりにゃんとライゴスはデュクシ達との合流場所へ向かわせた。

 そしてそのまま今日は帰っていいと言うと、めりにゃんは「儂も行くのじゃ!」としばらくゴネていたが、このくらいなら特に問題はないからと説得すると、しぶしぶ「気を付けるんじゃぞ?」と言い残しその場を去っていく。


「じゃあ案内してくれ」


 俺はゴギスタの案内で店が連なっている大通りへと向かう。


 こんな大通りに……?

 ゴギスタはとある店の手前で立ち止まると、その脇、店と店の間へと俺を導いた。


 その隙間の先に地下水路に続く穴があって、人が落ちないようしっかり蓋がされている。


 ゴギスタは思い切り力を込めてなんとか蓋を横にずらし、梯子を降りていく。


 俺も後に続くが、あまりに真っ暗なのでトーチの魔法で明かりを灯すと、視界に映るのはじっとりと湿って苔のようなものが生えた壁。


 下水処理用の水路らしい酷い臭いを我慢しながら降りていくと、下の方からザワザワとした幾つもの声が聞こえてくる。


「俺だ、ゴギスタだ。味方を連れてきた」


 一瞬シーンと静まり返るが、そのあとひそひそ声が響き始める。


 簡単に人間を信じる事はこいつらにとって危険だからこれくらいでいい。


 梯子を降りきると、ちょうどそこは少し広い空間になっていて、ゴギスタと同じような外見のホビットドワーフが彼を合わせて全部で五人、こちらを訝し気に眺めていた。


「ゴギスタ。これで全部か?」


「うん。俺達この五人で奴隷商人にこの町まで連れてこられた」


 なるほどなぁ。知性のある魔物や、こういうドワーフなどの別種族を奴隷として売り捌こうとする奴らはいつの時代も一定数いて、いなくなる事がない。


 単純な労働力としてはかなり役に立つ上に生命維持にかかる食費を最低限に抑える事ができるから買い手もそれなりにいるのだ。


 糞くらえ。


「お前らは俺が安全に暮らせる場所へ連れていってやる。安心しろ」


 俺がその場にいる全員と目を合わせながら、なんとかしてやると告げると、最初は戸惑っていた奴らもだんだん瞳を輝かせ始めた。


「ほ、本当に……もうこんな暮らししなくてもいいのか?」


「助けてくれるの?」


「信じていいんだろうな?」


 並ぶと誰が誰だか見わけがつかないが、とにかく俺はこいつらをこの町から救い出してやろうと決めた。


「その奴隷商人って奴をボコりにいくか?」


 まずそんな奴がまだここに居るのなら二度とそんな気がおきないようにしてやりたい。


「それはいい。もう親切な人間がやってくれた」


 ……珍しい。

 わざわざ別種族の奴らを助ける為にそこまでする奴が居るっていうのはなんだか嬉しくなってくる。


 世の中、そういう奴もいるのだからまだまだ捨てたもんじゃないな。

 俺みたいに自分の為に依頼を受けたわけじゃなくて自発的に助けようとした奴がいるのなら一度会ってみたいものだ。


 でも、奴隷商人から解放しただけでその先の事まで考えてないあたり詰めが甘いというかなんというか。


「その親切な人間っていうのはどんな奴だったんだ?」


「冒険者、だと思う。綺麗な金髪でとても素敵だった」


 ホビットの一人が、まるで想い人の話でもするように表情を綻ばせながら語った。


「……もしかして、そいつってリュミアって名前だったりしないか?」


「リュミア……確かそんな名前だった気がする。奴隷商人に向かって名乗りをあげていたのを一度聞いただけだから確かじゃないけど」


 マジかよ……。リュミア最高すぎるだろ。


 やっぱりあいつは勇者だ。

 やめたって言ったって十分勇者なんだよ。

 お前以外勇者なんて名乗らせないし、お前以上勇者としての資質を持った人間なんかいない。

 俺が保証するって。

 だから早く帰ってこいよ。


 でも、せめて町の外まで連れていってやってくれ。

 そういう少し抜けた所も含めてリュミアらしくていいんだよなぁ。


 早く私の元に帰ってきてよ。


 ……違う。そうじゃない。


 ちょっとテンションが上がっていろいろ見失う所だった。危ない危ない。


「その男がリュミアって奴だとしたらそいつは俺の仲間なんだ。だから安心していいぞ。必ずお前らを連れ出してやるからな」


 奴隷商人がもういないとするならば、こいつらにとって一番いいのはどうしてやる事だろう?


 この町に受け入れられてここで生きていく事か、それとも抜け出してどこかで平穏に生きていく事か……。


 ここから連れ出してやるとは言ったが、こいつらにとって一番いい環境で過ごせるようになればそれが一番いい。


 とりあえずこのくらいの人数だったら全員で移動しても大丈夫だろう。


「よしお前らちょっと俺と一緒に来い」


 プルットの屋敷に全員連れて行って、一度奴に事情を説明する。


 頭ごなしにこいつらを拒絶するようならこの町に居続ける事はできないしすぐにでも出立する必要がある。


 が、もしそうでないのなら……。


「姫! おかえりなさい。……えっ、と……その、小さいのは一体……何です?」


「姫ちゃんおかえりっす。めりにゃんはもう寝ちゃってますよ……ってうぉぁ! なんだこのちっこいの!!」


 屋敷に戻った俺達をナーリアとデュクシが迎えてくれたのはいいのだが、やはりこいつらもホビットドワーフ五人を連れてきた事にかなり驚いているようだった。


 簡単に事情を説明してやると、


「そうだったんですね。可哀そうに……どうにかしてあげましょう」


「おじさんにちょっと話をしてみるっすよ! まだ起きてると思うんで一緒に行きましょう!」


 ……という具合で、こいつらもなかなかに耐性ができてきているようで俺は嬉しいぞ。


 こいつらが喜ぶように言ってやると


 姫は嬉しいぞっ☆



 ……って、何考えてんだ俺は。

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