ぼっち姫、ガキを脅す。

 なんとか寝ぼけているめりにゃんを無理矢理連れ出して、ナーリアとデュクシ、俺とめりにゃんで深夜の町を捜索する事に。


 本当は戦力をもう少し分散した方がいいんだろうけれど、残念ながらめりにゃんもライゴスも俺と一緒じゃないといざってときに役に立たない。


 深夜のリャナの町は驚くほど静かだ。

 日中あれだけ賑わっていたのが嘘のように人っ子一人いない。


 ある程度大きな町なら夜中に営業している店だってあるだろうに、この町はかなり切り替えがしっかりしているようだ。


 あのプルットとかいうデブがちゃんと管理しているのだろう。

 ああ見えてしっかりしているという事か。


 大抵人通りの多い町というのはそれだけその辺りにゴミも散らかっているものだが、それらしき物もなく綺麗なもんだ。


 割と広めの町だが、通路は基本的に大通りと、それに交わるように幾つか細い通路がある程度。


 見回りをするだけならそこまで時間もかからないだろう。


 二組に分かれたのでそれぞれ町の別方向からしらみつぶしにあちこち見て回ったが、特に異常もなくその日を終える。


 翌日、昼間は俺とめりにゃん、あとは一人ずつでリュミアの情報を集める為、町に居る人たちに片っ端から聞き込みをする。


 そこで得た気になる情報は幾つかあって、

 まずは勇者らしき人物をナランという街で見かけた、という情報。

 しかしこれは情報をくれた本人も似た人だろうくらいに思っていたらしく、本人かどうかは自信がないそうだ。


 次に、情報提供者の父の友達の娘の友達の弟の知り合いの妹がリュミアと一緒に住んでいるという、どこから突っ込んでいいか分からないような話。


 最後に、この町で買い物をしている姿を見たというもの。


 その情報に関しては割と正しいのではないかと思っている。

 目撃の時期が俺達がパーティ解散した後すぐ、くらいの時らしいので、恐らくリュミアはここへ来た後に、ナランへ向かったのではないか。


 しかし結構日にちも経っているしナランにはもういないかもしれない。

 しかし、なんらかの痕跡が残っていればいい。何かしら手掛かりがあればそこから追跡していく事もできるだろう。


 とりあえずこの町の件が解決したら次はナランに向かうとするか。

 ちょうどエルフの森の方面だし都合がいい。

 ナランに向かい、決定的な情報があれば次の目的地に向かえばいいとして、そうじゃなければそのままエルフの森へ行こう。



 二日目の夜。


 その日も特に何事もなく、不発に終わり諦めて帰ろうかとデュクシ達との合流地点へ向かう途中、それは現れた。


「むっ、今何か黒い影が走っていったのじゃ!」


 めりにゃんが何かに気付き走り出す。


「おい、一人で行くな! 危ないかもしれないだろう!?」


 慌ててめりにゃんを追いかけると、角を曲がった所でめりにゃんが誰かに後ろから体当たりをしてボコスカ殴り合いになっている。


 こらこら女の子がそんな事するんじゃありません!


 とつい説教をしそうになってしまったが、その相手を見て俺は言葉に詰まってしまう。


 とりあえずめりにゃんをそいつから引きはがし、優しく問いかける。


「逃げたら殺すよ♪」


 相手はまだ子供のようだが、俺の言葉が本気だというのに気付いてくれたらしく必死に首を縦に振り続けた。


「お前こんな所で何してんの? 言葉は通じるか?」


 それはめりにゃんの半分くらいの背をした、ドワーフだった。


 ドワーフと言っても多種多様で、こいつは普通のドワーフよりももう少し小柄で、細身である。

 確か人間とも割と友好的な種族だった気がする。


「お前ホビットドワーフか?」


「そ、そうだ! 人間、俺に何か用か!?」


「おお、ちゃんと話せるな。さっきも聞いたけどお前こんな時間にこんなとこで何してる?」


「お前違う。俺ゴギスタ」


 名前なんてどうでもいいって。


「そのゴギスタが一人でこんなとこで何してんのか聞いてるんだよ。ほかにも仲間がいるのか?」


「……」


 居るって事か。

 十中八九夜中にうろついてるって魔物はこいつらで間違いないだろう。


「実は俺はお前らを始末するように言われてる」


「なっ、なんでだ!? 俺達、何も悪い事してない!」


「いいか、お前らにいい事を教えてやる。残念だけどここは人間の町なんだ。そこを徘徊しているお前らの事を人間が怖がっている。理由なんてもんはそれで充分なんだよ」


「セスティ、そんな言い方しなくても」


「めりにゃんはちょっと黙っててくれ」


 俺はゴギスタと目線を合わせる為にしゃがみ、その目をまっすぐ見つめた。


「だから俺は知らなきゃいけない。お前らはこの町で何をしている?」


「……生きてる」


 この野郎。そういう屁理屈みたいなのを聞きたいんじゃねぇんだよ。

 酸素吸ってるとか生きてるとかガキじゃあるまいし……いや、まだこいつもガキか。


「ほんとだ! 俺達は、ただ……生きてる」


 ……ゴギスタの表情は至って真剣だった。


 なんか、めんどくせぇ事になる気がする。

 俺のこういう嫌な予感は当たるんだよ。


「俺達、奴隷として連れてこられた。でも、優しい人間が俺達逃がしてくれた。だけど、俺達行くとこない。ここがどこかもわからない。普通の人間は俺達見ると怖がる。だから、暗くなってから必死に食べ物さがして、ただ生きてる」


 ほ~らきたよ。


「セスティ」


「分かってるよめりにゃん。……おいゴギスタ。お前らこれからどうしたいんだ?」


 ゴギスタは、真剣な目で俺をじっと見つめ、震えながら、唯一の希望を訴えた。


「生きたい」


「よし。俺に任せとけ」

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