ぼっち姫、身分証発行す。

「なーるほどなるほど。ではこのお嬢様があの有名な鬼神セスティ殿という訳ですな?」


「そうなんすよ。信じられないかも知れないっすけど実際この人の力は俺が保証するっす」


「ふーむふむ。ハーミットぼっちゃんがそう言うならそうなんでしょうなぁ~」


 俺達はとりあえずデュクシの案内でこの町で一番の商人だというカルゼ家の屋敷にやってきた。


 町の中はそこら中に商人と客、そして道沿いにはみっちりと並んだ店舗店舗店舗。それがこの町の全てで、奥まった地域に住宅が密集している作りだった。


 そして、その中でも一際大きな屋敷の主が、デュクシの親戚だというこのプルットというチョビ髭のデブである。


「セスティ殿。特にこ~れといっておもてなしも出来ませんがこぉ~の町にいる間はこの屋敷を自由に使ってくれて構いませんのでゆっくりしてい~って下さいねぇ~?」


 なんだか間延びした喋り方をするこの親父、ちょっと苦手である。


 宿を取る手間が省けるのはいいんだがなんだかこいつ裏がある気がしてしょうがない。


 俺がこの手の奴が嫌いってだけなのでただの偏見かもしれないが。


「ところで。セスティ殿。と~ってもお強いとの事でその腕を見込んでお願いがあ~るのですがぁ」


 ほ~らきた。

 ……おっと、妙な間延びが移りそうになる。


「おじさん。俺達やる事あるからあんま姫ちゃんに無理言っちゃダメっすよ」


「だぁ~いじょうぶ。簡単な話で~すからぁ~」


 分かったから早く本題に入ってくれよ。


「じ~つはですねぇ~」


 こいつの説明があまりに間延びしていてイライラしたので割愛。


 プルットが言うには、この町に魔物が蔓延っているらしい。

 普段は影を潜めているが、深夜になるとそいつらは動き出して町を日々徘徊しているとの事。

 今のところ実害はないがその姿を見た人々からなんとかしてほしいとの声が多数上がっており、このあたりの流通の元締めであるプルットに幾度となく苦情が来ているらしい。


 俺が頼まれたのは、それらの正体についての調査と、可能であればそれらの排除。


 このプルットってデブはやっぱりこの町でかなりの実力者だったようだ。

 まさかこの町に入ってくる商人をすべて管理する立場だったとは……。


 こいつに嫌われたら即町を追い出されるという訳だな。

 面倒だがここは引き受けておいた方が無難だろう。


「分かった。その調査俺達で引き受けよう」


「おお~ありがた~いのである」


「姫ちゃん、ほんとにいいんすか? 断ったってこの町追い出されたりしないっすよ? 俺がなんとかするっす」


 デュクシはいろいろ心配してくれているようだし、事実こいつが居れば大丈夫なんだろうが、それだけじゃないんだ。


「それを引き受ける代わりに条件、というよりこちらからも頼みがある」


「ほう? そ~れはどういう事で~すかねぇ?」


「実は俺は今こんな体だからまともに使える身分証がねぇんだ。あんたの方で何か身分証か、それに代わる物を用意できないか?」


 リュミアと共に行動していた頃は、奴さえ居ればどこでも顔パスだったし、一人になってから王都に行った時は転移アイテムで直接中に入ったので大丈夫だったが、今の状態だとある程度の規模がある街なら毎回苦労する事になる。

 転移アイテムも、宝玉の方はメディファスに直させたが粉が無いので有効な場所しか行けない。

 今ならまだ王都には入れるだろうが……。


 とにかく、今後の事を考えると俺の身分証は必要だ。


「そういう事で~したら私の方であなた方ご一行の身元を保証する書類を発行させ~て頂きまっしょ~う」


 マジか。それだったらめりにゃんの分も保証されるという事になる。


「それは助かる! その依頼俺達に任せておいてくれ。……そうだ、それともう一つだけ」


 プルットはぜい肉たっぷりの顎を自分でタプタプやりながら、「な~んでしょ~う?」と首をかしげる。


「こちらでも情報は集めるつもりだが、勇者リュミアについて居場所でもなんでも情報があれば教えてほしい」


「な~るほどなるほど。そういう事で~したらこちらも少し調べてみましょぉ~う。何かわかればすぐにお伝えしまぁ~すので」


 とにかく喋り方に癖がありすぎて長話をするのが苦痛だが、こいつのおかげで今後の展開はかなり明るい。


 最悪の場合、毎回検問を押し通るか、忍び込むかするしかないところだった。


 ならばそれ相応の礼はしなければなるまい。


 その日はプルットの家で休ませてもらい、その晩から俺達は動き出す。



「うぅ~眠いのじゃ……」


「めりにゃんはお留守番しとくか?」


「お留守番は嫌である! 嫌なのである! ヒルダ様! 起きるのである!!」


 可愛らしいぬいぐるみが必死にぺちぺちとめりにゃんの頭を叩く。


 なんでこいつはお留守番って言葉にそんなに敏感なんだよ。



「お留守番は嫌である! おいていかないでほしいのである!!」

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