ぼっち姫、デュクシの秘密に気付く。

「おお、あれがリャナの町であるか?」


 整備されていない道をひたすら歩き、最後の丘を乗り越えた時、俺達の中で一番高い場所にいるライゴスが真っ先に町を発見した。


 ここにたどり着くまでに二度ほど魔物に遭遇したが、最初の一組は子連れのポーロスベア。

 森ではなく主に平原に住む大型の獣で、滅多に人を襲う事は無いのだが、子供を産んだばかりだった為か気性が荒くなっており、俺達を見つけるなり襲い掛かってきた。


 子供のための食事も必要だったのかもしれない。


 人の味を覚えるとろくな事がないのでとりあえず死なない程度に軽くぶん投げて、逃げていくのを皆で見送った。


 二組目は以前森で二人のテストをした時に遭遇したウェアウルフ。

 狼のような姿をしているが、その体長は意外と小型だ。

 その分、群れで動き素早い動きで攪乱してくる。

 森の中で囲まれるのも大変だが平原で取り囲まれた時こそ逃げ場がなくなってしまうので危険なのだ。


 今回はいつぞやのリベンジという意味を込めてデュクシとナーリアに片付けさせた。


 無事に戦闘には勝利したし怪我らしい怪我もしていない。成果は上々といったところか。


 逃げる奴は追わずに、向かってくる奴には容赦しなくていいとだけ伝えてあとはめりにゃんと観戦してたのだが、やはり以前とは比べるまでもない程に戦いに対しての意識が変わっている。



 殺す事には躊躇しないが、不必要な殺生はしない。

 無理矢理俺の考えを押し付けてしまったみたいで少し気持ち悪いが、あいつらが俺の意思を尊重してくれているのは分かる。

 それに、それを実行できるだけの心の余裕があるという事だ。


 大量の魔物に囲まれながらボアルドと戦った経験がきちんと役に立っている。


 トラウマになってやしないかと心配だったが、それについては大丈夫そうだった。


 そして今回はきちんと注意を払って見ていたので、ナーリアの矢がこちらに飛んできてもがっちり受け止めてやった。


 来るって予想していればどうという事はない。


 問題なのは俺じゃなくてデュクシに向かって飛んで行った場合だ。

 ちゃんとかわせるかな?

 一撃で脳天貫かれて死んだりしない限り治してやる事はできるが……まぁ、痛いもんは痛いから。


 特にそれがもし魔力の籠った矢だったりしようものなら大変な事になる。


 そういう意味での確率操作の上手い使い方は教えておくべきだろうか?


 むしろナーリアとペアで戦う場合に限るが、確率操作自体が他人に作用するかどうか次第ではナーリアのほぼ必中を必中にする事ができるかもしれない。


 これについては早めに検証しておいた方がいいだろう。



 そんな事を考えているうちにリャナの町の入り口が見える大通りに合流した。


 その大通りは馬車や行き交う人でかなりにぎわっており、大通り沿いの安全さを十分に理解できる。


「あわわわ……人間がいっぱいじゃ……」

「ヒルダ様。大丈夫です我が守ります故」


 ぬいぐるみの分際で何を言ってるんだこいつは……。


 とにかく、俺達は行き交う馬車に引かれないように道の端を歩きながら町の入り口に到着。


 すると、当たり前のように検閲があり、そこを受け持っている警備の男に身元を証明する物を要求された。


 俺は自分の身分証を持っているのだが、よく考えたらこれは使い物にならない。

 わざわざ面倒な手続きを経て冒険者としての公的な身分証を発行してもらっているというのに、そこに載っているのは男の状態の顔。という事は今の俺には一切意味が無い身分証なのだ。


 めりにゃんにそんなものを期待しても仕方ないし、ナーリアとデュクシだけならここを通る事も出来るだろうが、このままでは俺までお留守番コースになってしまう。


 ここで、一から許可証を取得すれば入れる事には入れるが……。


 リャナの町は商人達だけでなく買い物目当ての旅人や観光客もやたらいるので許可証を発行してもらうのに半日くらいはかかってしまいそうだ。


 どうしようかと迷っていると、警備の男にデュクシが近づき、何か耳元で一言二言呟きながら自分の身分証を見せていた。


 まさかこいつ自分だけ中に入る気か?


「姫ちゃんお待たせっす! みんな入っていいそうっすよ」


 デュクシがニコニコしながらこっちに向かってくる。


 …こいつ、今何をした?

 警備の男に金でも掴ませて買収したのか?


 いや、こいつは耳打ちして身分証を見せただけだ。


 それで俺達全員が通っていい事になるだと?



 ……こいつ、もしかして。


「あ、姫ちゃん。この町って俺の親戚が住んでるんすよ。あとでそっちにちょっと寄ってもらってもいいっすかね?」



「うわこいつ絶対おぼっちゃまだ」

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