ぼっち姫、可愛い×可愛い=にっこり案件。

 俺達は一通り準備をして村長の家で朝食を食べながら今後の事を打ち合わせする事にした。


「なぁライゴス。さすがにお前を町中に連れて行く訳にはいかないんだよ。お前は町の外で待機か、このままニーラクにやっかいになるかどっちがいい?」


「わ、我はお留守番なのであるか?」


 こればっかりは仕方ないんだよなぁ。こいつの外見はモロに魔物だから町に入った途端大騒ぎになってしまうだろう。


 俺がいくら周りに説明した所であまり意味がないだろうし、諦めてもらうしかない。


「のうセスティ。要するに見た目で人間が怖がるからダメって事なのじゃろう?」


 めりにゃんがほっぺたに食べかすをくっつけながらニヤリと笑った。


「あぁ。そうだが……その様子だと何か手段があるのか?」


「ふふふ。このヒルデガルダ・メリニャンの力を甘く見るでないのじゃ。儂の魔法でライオン丸の外見を人間そっくりに変えてやるのじゃ!」


 ほう。なるほどなぁ。そんな魔法もあるのか。


 それで、


「その魔法は今のちびっ子状態で使えるもんなのか?」


「……あっ」


 まぁな。そんな事だろうと思ったよ。


『我が主』


 メディファスの声が頭に響く。

 突然喋りかけられると結構吃驚するなこれは。


 しかもこいつが自分から進んで会話に割り込んでくるのは珍しい。


「どうした?」


『我の力であれば個体名ライゴスを町に連れて行く事も可能であると進言致します』


「ほ、本当であるか!? 是非頼むのである。我だけお留守番は寂しいのである!」


 ……ライゴスよぉ、めりにゃんと合流してから人間味が増してきたというか、茶目っ気が出てきたというか……。


 もしかしたらこれが本来のライゴスの姿なのだろうか。

 だとしたら、他の上位魔物達も素の性格は意外と面白い奴らなのかもしれないな。


「メディファスがこいつの外見を人間に変えるって事か? もしそれができるなら俺の外見を男にする事は可能か?」


 それが出来るのならばなんの苦労もいらない。

 外見をミュリアに見えるようにしてもらい、勇者として俺が魔王をぶち殺せばいい。

 そうすればすぐにでも乗り込む事ができるのだが……。


『否定。我が出来るのは形状変化ですが人体のような細かい指定が出来る物ではありません』


「はぁ? どういう意味だそれ。ライゴスを人間にするわけじゃないって事か?」


「我は一緒に行けるのであれば人の姿でなくても構わぬ! 何なら出来るのであるか? ライオンであるか? それとも小動物であるか?」


 ライオン丸……もとい、ライゴスはそれはっもう必死に唾を飛ばしながら俺の腕輪に訴えた。


『フォルムの難しくない物であれば可能です。例えば、四角い箱、そして主の頭についている、個体名マリスのようにリボンなどであれば』


 あぁ、確かにそりゃ俺の外見をいじるのは無理そうだ。

 そもそも俺のこの姿は神の呪いによる物な訳で、形状を変化する事ができたとしてもすぐに元の姿に戻されてしまうかもしれない。


「ライオン丸はどんな姿がいいのじゃ? お主がリボンになって儂の頭に乗るか? そうすればセスティとお揃いになるのじゃ♪」


「ダメだ」


 きっとリボンをつけためりにゃんは可愛いだろう。可愛いだろうがお揃いというのがいただけない。


 そんな所でプチペアルックみたいなのしてたら恥ずかしいだろうが。


「セスティのけちー。だったらどうするのじゃ?」


 俺は少し考えた後、なんかいろいろ面倒になってしまってメディファスに適当な事を伝える。


『了解。ではライゴスの形状を変化します』


「いや、町に近付いてからでもよいのでは……う、うぉぉぉぉ!! 体が、体が縮むのである!!」


 ライゴスの抗議が終わる前に、その姿はどんどん小さくなっていき、やがて形状変化が完了する。


「こ、これはどういう状態なのであるか!? 自分では見えぬ! 誰か教えてほしいのである! 教えてほしいのである!!」


 ……適当な思いつきだったのだが、これは……有りだわ。


「ライオン丸、その姿めっちゃ可愛いわよ☆」


 私はその小さな、とても可愛らしいライオンのぬいぐるみをひょいっと掴み上げる。


「せ、セスティどの! 何をするのであるか、離すのである!」


 ぬいぐるみライオン丸はそのもふっとした小さい体でじたばたじたばたと暴れたけど、なんて言うんだろう。微笑ましさしかない。


「こいつはめりにゃんが持ってて。可愛さ倍増だから♪」


 私はそう言ってライぐるみをめりにゃんの頭に乗せた。


「うん。やっぱり可愛い♪」


 隣で「はぁ……はぁ……」と鼻息を荒くしているナーリアに気付き、私は正気に戻った。


 やっぱりちょっと気を抜くとすぐ意識が持っていかれてしまう。


 それもこれも思いのほか可愛いライぐるみとめりにゃんが悪いのだ。


 ライぐるみってなんだよ俺しっかりしろ。


「おーちょうどいいのじゃ。儂の頭の上に乗っかって角を隠しておくのじゃぞ♪」


「りょ、了解であります! 我ライゴスはその任務完璧にこなして見せましょうぞ!」


 なんだか幼女の頭の上でもふっとしたぬいぐるみがぱたぱたと手足をバタつかせて息巻いている。


 これはナーリアでなくてもにっこり案件だ。


 よし、とりあえずライゴスの件は解決したし、そろそろ……。


 そこで、今までずっともぐもぐと口一杯に食事を頬張っていたデュクシが、腹をぽんっと一度叩いて急に話に割って入り、結論だけを掻っ攫っていく。


「ふぅ~食った食った! じゃーそっちも話がまとまった所で、そろそろ行くっすかね!」



 なんか腹立つなぁ。

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