第四章:ぼっちな姫と小さい奴ら。

ぼっち姫、心の謝罪。



「あ、あのっ、ローゼリアの姫よ……お願いです。この状況をどうか説明して頂きたい」


 ……はぁ。めんどいなぁ。


「そのローゼリアの姫って呼ぶのやめてよ。アンタがそう強く思ってれば思ってるほど私は困る事になるの!」


「何を言っているのか分かりません。貴女は紛れもなくローゼリアの姫ではありませんか。それとも未だに鬼神セスティを名乗ろうとでも?」


 外の騒ぎが解決した後、俺達は意識を失ったままのデュクシとナーリアを休ませる為に村長の家にやってきた。


 やっぱりテロアが村長の家を防御魔法、結界というらしいがそれで守っていてくれたらしい。

 中には残っていた村人達が集められていて、私とめりにゃんはともかくライゴスを見ては怖がっていた。


 一応話は通してあったらしく直接的に罵倒してくるような奴は居なかったし、むしろ感謝されたけど、簡単に魔物を信じる事ができないっていうのは分からなくはないよね。


 で、デュクシとナーリアを開いている部屋のベッドに寝かせて、今は村長の部屋でテロア、村長、私、めりにゃん、ライゴスの五人で事態の確認をしているって訳。


「このライゴスという魔物……世の中にこのような魔物が居るというのは驚きでしたが、村を守るために戦ってくれたのですからそれはいい。それはいいのです。しかし……」


 テロアは私とめりにゃんを交互にチラチラと見ては、頭を抱える。


「そのライゴス氏から大体の説明は受けましたが、姫、貴女がそこの……えっと、ヒルデ……?」


「ヒルダでよいのじゃ」


「失礼。ヒルダちゃんと一緒に外の魔物を一掃したというのはいったいどういう事なのです?」


 めりにゃんは「ヒルダちゃん」という呼び方に軽くイラっとしたように眉を上げたけど「儂は大人じゃからな、それくらいじゃ怒らないのじゃ」と微笑ましい事を呟いている。


「そのまんまの意味だって。このめりにゃんは呪いで力を封じられてるけどもの凄い魔法の使い手なの。それに、私は何度も言ってるけどローゼリアの姫様の体に入れられてちゃってるセスティなんだってば。いい加減信じてよー」


「しかし……もし姫の言う事が本当だとしたら、今女性口調で話しているのはあの鬼神セスティという事に……さすがにそれはちょっと無理があるのでは……」


 だーかーらー!!


「それはアンタのせいなんだってば! 面倒だけど、一から説明してあげる。だからちゃんと信じるよーに!」


 こいつみたいに私が姫! って強く信じる相手が近くにいるといくら気持ちでは男を維持しようとしても呪いにひっぱられちゃう。

 ほんと勘弁してほしい。


 仕方ないので非常に面倒だけど私が呪われてしまう事になった経緯とかを全部話してあげた。

 勿論めりにゃんが元魔王ってのとアーティファクトの件は言わないけど、遺跡の事も解決したよっていう件もついでに報告。


「いや、しかし……でも、確かに以前お見掛けした姫様はもっと凛としていてそれはそれは美しい方でした。今の、その……セスティさん? のように粗暴では……いえ、えっと、おちゃめではありませんでしたね」


 おいおい。どこから突っ込めばいい?

 粗暴か? それともおちゃめか?


「ん。ちょっとは信じる気になったみたいだな」


「まだ、全てを納得する事はできませんが……一応、私の知っている姫ではなさそうだ、という事だけは理解しましょう」


「まぁそれだけで大分違うからいいよそれで」


「あの……お話の途中、申し訳ありませぬが、セスティ殿。この度は村を守っていただき………」


 村長が俺らに向かって礼の言葉をかけてくるが……。


「やめてくれよ。結局俺は村を守るって約束は果たせてないだろ」


「しかし、この村に住む人々は守られた。これは紛れもなくセスティ殿のおかげですじゃ」


「それを言うならここにいる全員の功績だよ。特にテロアがここを死守していなければ間違いなく死者が出ていただろう」


「いえ、私は当然の事をしたまでで……」


 テロアは、ここを守る事しかできなかったと項垂れる。


「だからジジイは俺達にじゃなくてテロアに感謝するんだな。ただ、一応気が向いたらでいいからリュミアの件は頼むよ」


「それはもちろんですじゃ。皆様、この度は本当にありがとうございました。村人もそのうち各地から戻ってくるでしょう。そうすれば復興もできる筈ですので」



 バンッ!!


「姫っ!!」

「姫ちゃん!!」


 うお、面倒なのが来たぞ。

 ……まぁ、無事だったのなら何よりだが。


「姫ちゃん。結局姫ちゃんがあいつ倒してくれたんすよね!?」


「あ? ……まぁな。でもお前らの戦いを見させてもらったんだけど、お世辞抜きでよくやったよ。ナーリアもデュクシも武器の特性をしっかり使えていたな」


「姫、私達の戦いを見ていてくれたのですか? なんだか恥ずかしいです。でも、褒めて頂き光栄です!」


 ガチガチになりながらそう言ったナーリアに続いてデュクシも照れながら頭をポリポリ掻きつつ、「うす。まだまだっす」と呟いた。


 意外とデュクシはきちんと褒められるのが苦手なのかもしれない。

 滅多にここまで褒める事は無いんだから今のうちに喜んでおけって。


「とっ、ととととっとっ、ところで、姫!?」


 ナーリアの様子がおかしい。


 俺は、ちょっとナーリアのアレなアレを失念していた。

 もう少し配慮してあげるべきだったのだ。


「このとてつもなく可愛らしい素敵幼女は一体どこのどなたですか可愛いぃぃぃっ!!」


 目にもとまらぬ速さでナーリアがめりにゃんの背後に移動し、ライゴスすら驚くスピードでめりにゃんを椅子から掻っ攫う。


「ひっ、ひゃぁぁっ、なんじゃっ!? なんじゃ!? いったい何がおきたのじゃっ!!」


「その言葉遣いもたまりません!! はぁ、はぁ……」


「怖い! セスティ!! 助けるのじゃー! この女、すっごく怖いのじゃーっ!!」


「はぁはぁ……この小さな角も背中の羽根もお尻から生えているこの尻尾もすべてが愛らしくて可愛らしくて美しくて愛おしくてたまりませんはぁ、はぁ……」


「こっ、こらそんな所触るでないっ!! やっ、やめるのじゃぁぁぁぁ!!」


 ……なんていうか。


 めりにゃん……ごめん。

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