ぼっち姫、魔王討伐を誓う。
ライゴスはめりにゃんから引き継いで先を続けた。
「あの男は、我らに強制的な服従を強いてきた。逆らう者は皆、妙な術をかけられて意思の無い人形のようになってしまったのである」
おそらくボアルドのように無理矢理命令をきかされるだけの機械人形のようになってしまったのだろう。
「幹部の半数はそれで無力化されてしまったのである。我らは仕方なく、その男を新たな魔王として認め、その配下になったのである」
なるほどな。
言う事をきかない奴は洗脳し、そうでない奴らにも念の為の裏切り防止措置としてあの首輪をつける。
そうやってその野郎は魔王に成り代わったのか。
まさか俺の旅の最終目標、倒すべき相手が人間とはな。
「中にはその力に惹かれ自らあの男に従う者もいた」
「ガシャドとかか?」
「おぉ、セスティ殿はガシャドをご存知であったか。奴は特にそうであった。ただの人形と化した幹部達に代わって我こそが、という感じであったな」
あの糞ガイコツの考えそうな事だ。
「よく分かった。つまりその人間の男が、俺の倒すべき相手で、ライゴス達魔物を無理矢理従える新たな魔王で、めりにゃんの力を封印した糞野郎って事だな」
「セスティ、黙ってて悪かったのじゃ。セスティが魔王を倒さなければいけないと知って、儂は……」
分かってるよ。そんな申し訳なさそうな顔しないでくれ。
「大丈夫だよ。めりにゃんは何も悪くない。だから俺の敵は、魔王軍全部って訳じゃなくて、その腐れ魔王とそいつに自ら従う質の悪い魔物どもって事だろ?」
「許して、くれるのか? 儂は元魔王じゃぞ?」
「めりにゃん。じゃあ聞くがめりにゃんは人間が嫌いか?」
めりにゃんが俯いて、「嫌いじゃ」と小さく呟く。
「それはどうして?」
「……人間は魔物を殺す。でも魔物も人間を殺すのじゃから敵対するのは道理じゃ」
「人間を殺せってめりにゃんが命令したのか?」
「違う! 儂は……儂は殺し合いなんてほんとはしたくないのじゃ……でも、父上も、ほかの魔物達も人間は敵じゃと……」
めりにゃんは人間が特別嫌いだとか、殺したい程憎いとかじゃないんだろう。
多分仲間を殺す脅威のある生き物、という認識だったのかもしれない。
周りの奴らが敵だ敵だと言っていたら確かに怖くもなるだろうし、敵視しても仕方がない事だ。
「めりにゃんがさせてるわけじゃないならそこからは個人の問題だろ。魔物が全部悪いんじゃない。お互いの命を懸けて生きる為に戦ってるだけだ」
「……セスティはやっぱり変な奴じゃ。普通人間は魔物が憎いものではないのか?」
「俺か? 別に憎くて戦ってるわけじゃねぇよ。殺そうとしてくるから殺すだけだ。何もしてこねぇなら手は出さねぇし、そこのライゴスみたいにちゃんと話せば分かる奴だっているだろう? それなら人間と変わんねぇよ」
俺は常々思う。
上級の魔物は意思を持っているから別として、下級な魔物達は動物と変わらない。
本能だけで生きる為に捕食し、生きる為に人間を殺す。
人間のように汚い思惑などそこには存在しないし、裏切りも無い。
つまりは人間は上級の魔物達と同等に危険な連中だという事だ。
だから俺は人間と魔物を区別したりはしない。
命を狙われれば殺す。
そうでないなら関与せず。
いい奴ならば懇意にする。
それだけの事だし、特にライゴスやめりにゃんを見ていたら魔物を憎いと思う気持ちなんて湧いてこないっての。
「セスティ殿はやはり変わっているのである。世の中の人間が皆、セスティ殿のようであればきっと魔物と人間も共存出来たかもしれぬのであろうな」
ライゴスはそう言うが、多分それは難しいだろう。
みんなが俺と同じ思考だったとしてもだ。
結局のところ食糧問題を解決しなければいけない。
人間は自給自足でやっていけるかもしれないが魔物はそうもいかないだろう。
共存をする為に越えなければいけないハードルは……魔物の食糧がどのような物かを確かめ、人間を襲わせないようにし、食料がきちんといき渡るようにするか、魔物達が自給自足できるようにするかしないといけない。
そして人間と魔物との間にある感情的な隔たりを取っ払わなければどうにもならない。
「事情は分かった。俺は少なくとも魔物を全滅させる事が目的な訳じゃない。邪魔する奴らをぶっ飛ばして、その魔王さえぶっ殺せればそれでいいさ」
「今の魔王は人間じゃぞ? それでもいいのか?」
「人間だとか魔物だとかじゃねぇんだよ。気に入らねぇ糞野郎をぶっ殺しにいくだけだ」
俺がそういうと、めりにゃんは目に涙をためながら「ほんとに、面白い奴じゃ」と笑った。
それに、俺はこの笑顔を守りたい。
そう思ってしまったのだから仕方ないだろう?
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