ぼっち姫、呪われ仲間ができる。
その後しばらく小悪魔少女と「離すのじゃ!」「暴れなければ離す」の押し問答を繰り返し、やっと落ち着いてくれたので降ろしてやると、また違う柱の陰にててててっと走って行ってしまう。
「だからなんもしないって」
「に、人間は信じられないのじゃっ!」
よほど人間の事が信じられないらしい。何かあったのかもしれないがこのままじゃ埒があかない。
「じゃあそのままでいいから少し話をしようじゃないか。君、名前はなんていうんだ? 俺の名前はセスティ。こんな外見をしているがこれは呪いのせいで、本当は男なんだ」
「呪い……じゃと?」
すっと少女が柱の陰から出てくる。
あれ、意外とすぐ出てきてくれたな。
「儂も、実は呪いでこんな外見になってしもうたのじゃ。本当はもっともっといろいろ大きいのじゃっ!」
えっ、もしかしてこの子俺が小さい子扱いしてたのが気に入らなかったのか?
少女はぷくーっとほっぺたを膨らましてダンダンと地面を蹴る。
「もしかしてその呪いを人間にかけられたって事なのか?」
「……それは違うのじゃ。違うのじゃけど……人間は魔物の敵じゃから……」
この子はやっぱり魔物なのだろうか?こんな子供が……って、外見は本来違うんだったか。だとしたら魔王軍の中でもそれなりに地位のある存在だったのかもしれない。
「俺は別に魔物だからって差別はしないぞ? もちろん命を狙われれば戦うし、殺そうと襲ってくるなら殺すけど」
「むむっ……。儂等魔物は確かに人間を襲う。人間を好んで食う者が多いからじゃ。でも、好きで人間と戦ってるわけじゃない者だっておるのじゃ……」
そう言って少女はしょんぼりとうなだれる。
それに合わせてしっぽもしゅんと垂れ下がる。
……っ!! かっ、かわいいっ!!
いかんいかん。どうも最近特に可愛いものに超反応して意識を持っていかれそうになる。
この子がどういう境遇か、何者かはおいといて、ちゃんと話が通じるなら敵同士とは限らない。
「人間は魔物に襲われるから戦う。魔物を見つけたら殺される前に殺そうとする。確かにそういう悪循環が生まれてるってのはあるよ。だけど、少なくとも俺は相手が君みたいに話ができるのならちゃんと話したいと思うし、無理に戦う必要はないと思ってる」
「……変な人間じゃ」
「俺もいろいろあったんだよ。魔物だっていい奴はいるし。昨日も一人魔物が俺の仲間になったところだぞ」
「なんじゃと? それは、魔物を飼い慣らしたという意味かのう?」
「いやいや。そうじゃねぇよ。相手はちゃんと会話ができる奴だ。戦って、俺が勝った。そんで説得して仲間になってもらったんだ」
少女は無言でしばらく何かを考えながら尻尾を触ったり角を撫でたりしていた。
きっと考え事をする時に無意識にやる癖なんだろうが、可愛すぎる。
「お主が……少なくとも儂にとって今はまだ敵ではない、という事だけは信じるのじゃ」
「ありがとよ。君がいきなり俺を殺そうとしない限り俺は君の敵じゃない。それでさ、名前聞かせてもらってもいいかい?」
「儂の名前はヒルデガルダ・メリニャンじゃ」
めりにゃん!!
「ヒルダと呼ぶ事を許してやっても……」
「これからよろしくなめりにゃん。俺の名前はセスティだ」
「おい、セスティとやら儂の話を聞いておったのか!? 儂の事はヒルダと」
「しっ!」
俺はめりにゃんの言葉を遮る。
「な、なんじゃ? 急にどうしたのじゃ?」
「しっ。静かにしろ。……足音がする。それも大勢だ」
ここにアーティファクトを探しにきた魔物の群れかもしれない。
「なにっ!? 人間かっ!?」
めりにゃんが慌ててまた柱の陰に隠れる。
「多分魔物だよ。ここにアーティファクトがあるかもしれないって言うんで魔王に言われて探しにきてるらしい」
「なんじゃとぉ!?」
うわっ、めりにゃんが急に大声を出すのでびっくりした。
そして、そのせいで近づいてくる者達に気付かれてしまったようだ。
「なんだ!? 今こちらの方から声が……そこに居るのは何者です!? 出てきなさい。さもなくば我が魔法で瓦礫ごと消し炭にしますよ」
ちっ、気付かれちゃしょうがない。
「めりにゃん、ちょっとそこに隠れてな。話して分かってくれる相手ならいいがダメなら戦闘になる」
ぞろぞろと魔物の群れを率いて現れたのは、黒いローブに身を包んだ魔導士風の男。
人型というだけで、奴らが持った松明に照らされてローブから覗く顔は髑髏。ガイコツだった。
「おぉ! お前はガシャドじゃな!」
馬鹿、柱から出てくるんじゃない!
と、言いかけて、少女が相手の名前を呼んでいた事に気付く。
この少女とあのガイコツ野郎は仲間なのか?
もしあのガイコツと戦闘になったらこの少女も敵に回す事になってしまうかもしれない。
……が、俺の心配はある意味杞憂だった。
「おやおや、誰かと思えば……ヒルデガルダさ…、いや。誰でしたかねぇ? 人間と一緒に居るような知り合いは残念ながら私にはおりませんので。……おい、あの二人を捕らえろ! 抵抗するようなら殺しても構わん!」
ガシャドとやらが背後に控える大量の魔物達に命令を下す。
どういう事だ? めりにゃんの方へ視線を向けると、彼女は唇を噛みしめて、口の端からうっすら血が流れていた。
余程悔しかったのだろう。
仲間に裏切られたのだ。
俺と一緒にいるから、と奴は言ったがそれは単なる口実。
それは彼女も分っているようで、プルプルと震えながらその大きくて綺麗な瞳が雫で溢れた。
「おいそこのガイコツ野郎」
「がっ、ガイコツ野郎!? 無礼な奴め……なんだ?遺言なら今のうちに聞いておいて差し上げましょう」
「私の友達を泣かせる奴は」
そう、この子はもう私の友達だ。
放っておく事はできない。
「ぶっ殺してやるわ」
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