ぼっち姫、テイクアウトしようとする。

 おぉぉぉぉぉ!!


 え、ちょっとヤダこれ深くない!?


 落ち始めてすぐの時に対策ができなかったのが痛い。

 最悪壁に手でも突き刺して止まればいいやと思ってたのに、ちょっと落ちたところで穴が急に広くなってしまい、今はあの神殿があった場所くらい広い空間を落下してる状態だ。


 これあとどれくらい落ちるんだろう?

 そろそろ明かり用意した方がいいかもしれないな。


 俺がトーチの魔法を使い、自分が落下している先を照らすと


「げっ!?」


 どごっしゃぁぁぁぁぁぁっ!!

 ボギボギッ


「いってぇぇぇぇ!」


 明かりを灯したら目の前に地面が広がっていた。

 あっ、と気付いた時にはもう遅かった。

 頭を庇うように手を変なふうに地面についてしまったのでごきゃっといってしまったようだ。


 ちゃんと距離が分かってりゃこのくらいの高さから落ちても無事に着地できるけど、いきなり目の前に地面じゃ対応が遅れてしまう。

 さすがに無理のある態勢で変な角度から力が入ってしまった為、ぽっきりと腕が折れた。


 事前に防御魔法でも張っておけば良かった!

 洞窟探検でちょっと浮かれすぎた自分を反省する。


 痛みでだいぶ頭がすっきりしてきた。

 よし、大丈夫。

 かなり痛かったがもう治ったし先へ進もう。


「よっ、寄るなっ!!」


 へっ?


 どこからか子供の声がする。どうやら声の感じからして女の子のようだが……。


 俺は目の前にふわりと浮かぶトーチの光球で周りを照らしてみる。


「ひっ」


 どうやらこの空間も神殿のような作りになっているようだが、かなり崩壊が進んでいて柱と残骸くらいしか残っていない。


 その中の、一本の柱の陰に何かが慌てて隠れるのが見えた。


 やはり小さい。

 こんなところに子供が……?


 ちょっと考えにくい。

 可能性としてゼロじゃないにしても、偶然子供が遺跡を探索していてここに迷い込む……?

 俺みたいに落とし穴に落ちてたら死んでるだろうし、そうじゃないなら魔物がいるのに無事なのがおかしい。


 迷い子の線はほぼないだろう。


 次に考えられるのは、元からここに住んでいる場合。

 それだったら魔物を回避するだけの知識があるのかもしれないし、魔物側が彼女を敵視してない可能性もある。


 ただ、その場合この子はなんだ?


 もう一つの可能性としてはこの子自体が生きるアーティファクトの場合だ。

 そんな例は聞いた事がないが、アーティファクト自体神々が残した遺物だというのであればそういう可能性は捨てきれないだろう。


「おい、お嬢ちゃん。どうしてこんな所にいるんだ?」


「……よっ、寄るでないっ!」


「怖がらなくていいよ。俺は君の敵じゃないさ」


「嘘つけお前人間だろっ!!」


 ……人間が、敵?

 もしかして人型の魔物の類なのか?

 だとしてもこれだけスムーズに会話ができるのであれば相当の知能がある訳で、魔物だとしたらかなり上級の魔物という事になってしまうが……。


「人間は敵じゃっ! それ以上近寄ってみろ儂が貴様など粉々にっ、うわなにをするやめるのじゃ!!」


 なんか話が進まないから瞬間加速スキルを使って一気に距離を詰めて襟元をひょいと掴み上げた。


 俺の手にぶら下がっている状態のその少女は「やめるのじゃやめるのじゃはなすのじゃー!」とじたばた暴れ続けた。


 その少女は黒髪をツインテールに纏めていて、服装は黒と白が基調のフリフリ系。

 ちょっとお洒落を意識しているお子様って感じの風貌だ。


 うわぁ。俺絶対ロリコンじゃないけどこれは可愛いわ。

 初めて子供を見て可愛いと思った。

 ロリコンじゃないってば。


 おや……?

 目の前でもがいている子供の背中の方で何かぴこぴこ動いている物がある。


 これはなんだ?


「暴れるなって。ほんとに俺は危害加えようなんて思ってないから。信じてくれたら下してやるよ」


「これが危害じゃなくてなんだと言うんじゃー! 離せーっ!! 離すのじゃーっ!!」


 やっぱり後ろで何かが動いてる。

 トーチの明かりでそちらを照らしてみると、何か細くて黒いものが少女のお尻の辺りからにょきっと生えていて、フリフリのスカートを揺らしていた。


「お前尻尾生えてるのか……?」


 やっぱりこいつ人間じゃない。


 うぐうぐ言いながら俺の手を振り解こうとする少女を無視して尻尾を観察してみると、くねくねと感情の起伏に合わせて激しく動いており、その先っぽの部分はハート型のようになっていた。


「なにこれめっちゃ可愛いじゃん」


 つい、言葉に出してしまった。

 断じてロリコンではない。繰り返し言う。ロリコンではない。


「か、かかかかかわいいっ??」


 ふいに少女がおとなしくなりぷらーんと腕からぶら下がった。


「うん。その尻尾めっちゃかわいい☆」


 あえて表現するなら小悪魔と言ったところか。

 照れて顔を真っ赤にしている少女の顔を覗き込むと、その口の隅からは可愛らしい八重歯が覗いており、その額の両脇には小さな角が生えていた。


「うわめっちゃ可愛いんですけど!」


「ばっ、ばかものっ! この儂を捕まえて、にへっ、いいい、言うに事欠いてめっちゃかわいいとはこの、この無礼者めーっ! うへへ」


 発言は怒っているようなのだが、この可愛らしい生き物は顔を真っ赤にして、その表情はめちゃくちゃ緩んでいた。


 褒められたのが嬉しいらしい。

 こういうちょろっちょろなところもすんごい可愛い。


 ロリコンではない。

 ロリコンではないのだが……。


 あっ、しかもこの子背中にめっちゃ小さい羽根が生えててパタパタしてる。


「……て、テイクアウトで」

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