ぼっち姫、俺という私に怯える。
「それ何か問題あるのか?」
おいおい冗談だろ?
問題しかねぇよ。
「お前だって俺が女言葉できゃぴきゃぴし始めたら気持ち悪いだろうが」
そんな自分を一瞬だが想像してしまい悪寒が走る。
「……うーん。まぁ俺はもうお前がプリンだって知ってるから違和感しかねぇけどよ、知らん人からしたらむしろその外見でガラが悪い今よりいいんじゃねぇのか?見た目だけなら可愛らしい美少女じゃねぇか」
勘弁してくれ。それとプリンって呼ぶな。
今の俺の外見と来たら、身長は大体百四十から百五十無いくらい。華奢で男らしさのかけらも無い。
おまけにシルバー寄りの金の髪は腰のあたりまで伸びていて邪魔でしょうがない。
髪型なんて変えればいいって?そんな事俺が試さないわけないだろう。
一度ベリーショートに切りそろえてやったら十分後にはまたこの長さに戻ってやがった。
この姿を変える事ができないっていうのも呪いの一種なんだろう。
まぁそれはそれでメリットもあるんだけどな。
例えば、髪の毛に限った話になるが、世の中変態は沢山いる。
金に困れば切って売ってのばして切って売ってを繰り返せば錬金術の完成って訳だ。
しかし、俺はどこかの変態が俺の髪を後生大事に持っている事が耐えられない。
気持ち悪くて仕方ないし、何より俺はそこまで金に困ってはいない。
これでも勇者御一行の一員だったからな。
「それとだ、俺はあまりこの姿で人前に出る訳に行かないんだよ」
親父は不思議そうに、「どういう事だ?」と三本目のタバコに火を付ける。
「今はうちのパーティの大賢者が作った特製の魔法薬で進行を遅らせる事はできるが…」
俺にかけられた呪いはかなり質が悪く、人の認識がそのまま俺に返ってくる。
要するに、
沢山の人間に俺という人間が『少女』だと認識されればされるほど俺の少女化に拍車がかかるようになっているらしい。
大賢者様がそう言うのだからそうなのだろう。
「へぇ…やっぱり神様に呪われた奴は違うねぇ」
親父はにやにやしながらまた俺の身体のあちこちをなめ回すように見てきやがる。
本気でセクハラで訴えんぞこの野郎。
魔法薬の効き目はほんの三十分くらいだ。例えばだが、俺が大立ち回りの末魔物から街を守ったとする。
その姿を大勢の民衆が見ていたとしたら?
それだけの人数から、魔物を倒して街を守ってくれた少女、として認識され、俺と言う存在はそいつらの認識に引き摺られてこの身体に跳ね返ってくる。
そんな事にでもなろうものなら俺は身も心も女になってしまうかもしれん。
恐ろしい…恐ろしすぎる。
「うっわめんどくせぇ呪いだなぁおい。お前は呪いを解く為に魔王を倒さなきゃいけないけど、目立つと心まで女になっちまうから意味が無くなる訳だな。目立たないように魔王を倒すんだったら確かにその勇者様は必要だろう。よし、分かった。パーティの面子は任せておけ。だけど戦力は最低限だからな。あまり期待するなよ!」
俺の状況を一通り話すと、親父はニッカリ笑って頼もしい言葉を吐いた。
この際戦力とかどうでもいい。
旅の途中で最低限魔物と戦えて、街の中でリュミアの情報を集めてさえくれればいい。
「すまないけど頼むよ」
親父は人を集めておくからまた明日来てくれと言うのでとりあえず今日は大人しく宿を取って休むことにした。
まだ外は明るいが、少し疲れたので部屋に入りベッドに腰掛ける。
ご丁寧にこの部屋には結構なサイズの姿鏡があった。
鏡に映った俺は、ベッドに座っている小柄な美少女にしか見えない。
髪が少しボサボサしてる。
なんだか目の下にクマもある気がする。
心なしか目も充血してる。
やだなぁ。
もう少しちゃんとケアしないとなぁ。
……は?
いやいやいや。
ケアとか何よ。
正気になれ俺。
俺がちゃんと俺という認識を持ってなきゃそれこそ終わりだ。
俺は俺として生きる為に目立つ事なく魔王を討伐しなければならないのだ。
その為には俺の代わりにみんなの注目を集める対象が必要。
リュミアはそういう意味では最高の人材だった。
あいつの人の好さは底なしだったし、実力だって並みの冒険者とは比べ物にならない。
……なのに、だ。
なんで俺を見捨てて逃げたんだよあいつは……。
地の果てまで追いかけて絶対に私の物に……じゃ、ねぇだろ糞が!
あぶねぇ!ほんとにあぶねぇよどうなってんだよこの呪いマジで怖い!助けて!
絶対に見つけて勇者として俺の分まで目立ってもらうからな!
覚悟しとけよリュミアこの野郎!
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