ぼっち姫、ヤバい奴らと出会う。
結局その日俺はほとんど眠る事が出来なかった。
ふとした瞬間に自分の中から妙な物が出てくる感覚。
自分の中に少女を感じる事がとても恐ろしい。
寝て起きたらなんの違和感もなく、変わってしまった自分をおかしいと思う事もなくごく自然に少女として生まれ変わっていたらどうしよう。
そんな風に考えると怖くて眠れなかったのだ。
勿論毎日こんな事を悩んでいたら俺は寝不足になってもっともっと目の周りにクマが増えていくだろう。
なるようにしかならない。
そう、前向きに考えるしかないのだ。
俺は出来る限りの事をする。
つまり、俺が俺であるという自覚と認識を強く持ち続けるしかない。
さっとシャワーを浴びる為に服を脱ぐが、そうする事で否応なしに自分の今の体が視界に入る。
胸はそこまで大きいわけではないがつるぺたという訳でもない。
そして、勿論少女の身体なのだから本来俺についていた筈のものはついていない。
ちらりと鏡を見ると、自分の姿だというのに妙な罪悪感に包まれる。
よせよせ。余計な事を考えても疲れるだけだ。
俺は頭の中からいろいろな感情を追い出して、シャワーを浴び、服を着て仲介所へと向かう。
「よう親父。面子の方はどうなってる?」
「あ、あぁ……プリンか」
「セスティだ」
親父は俺の顔を見るなりバツが悪そうにほとんど毛のない頭をポリポリとかいた。
「まさか誰も用意できなかったのか?」
「いや、居るには居るんだけどよ。そもそも今パーティ募集中の冒険者は二十人程登録があったんだ。だけどな、一緒にパーティを組む相手が勇者御一行の鬼神セスティと聞いたらみんなひよっちまってよ…」
鬼神セスティ。
俺の二つ名というやつである。
俺はそういう呼び方をかっこいいとは思えず、辞めてほしいと思っているのだが噂というのは勝手に一人歩きして、一度定着してしまうと俺がごちゃごちゃ言った所でどうにもならないのだ。
人の認識というのはそういう物である。
だからこそ俺は恐ろしい。
多くの人間が俺を少女と認識したら。
鬼神セスティは実は背の低い美少女だったらしいぜ。
そんな噂が流れたら。
きっともうどうにもならない。
一人二人なら俺が俺である事を説明し、認識を改めさせる事も可能だろう。
でもそれが不特定多数になってしまってはいくら説明したところでキリがない。
その場合、事実上俺という人間は消滅する。
だから全ては慎重に進めなければいけない。
「で、結局何人残った?ゼロって訳じゃねぇんだろ?」
「…二人」
「嘘だろ?二十人いたんだよな?」
「仕方ねぇだろ。みんなまだ実戦経験も少ないひよっこどもなんだ。それがいきなり鬼神とパーティ組むなんてなったら……。あいつはいい奴だから大丈夫だって説明したんだぜ? だけどよ、弱いと殺されるとか、失敗したら殺されるとかみんな怯えちまってよ」
俺をなんだと思ってるんだ。
こんな事なら最初からパーティを組むとかじゃなくて人探し用の人手、として募集すべきだったのか?
「でもほら、一応二人いるからよ。……若干問題がある連中だが」
「この際多少の人間性には目をつぶるさ。とりあえずその二人を連れて行く事にするから紹介してくれ」
俺がそう言うと、「おい、お呼びだぞ」と親父が店の奥へ声をかけた。
二人は奥にある打ち合わせ用の個室で待機していたらしい。
「どうも♪俺の名前はハーミット・ローディナル・リリアン・デュクシ・カルゼ。気楽にハーミットとかカルゼって呼んでくれよな♪」
「…どうも。私はナーリア・ゼハール。弓使いです」
奥の個室から、見るからにチャラいアホ面の若い男と、黒髪ロングでモデル体型の女性が出てきた。
「あれれ?親父、噂に名高い鬼神セスティさんとパーティ組めるって話だったよね?このかわいこちゃんは誰だい?」
失礼な奴だな……。かわいこちゃん呼ばわりはちょっと嬉しいから別にいい。だけど私はこんなチャラい男は嫌いだ。
「親父さん。これはどういう事なんですか? もしかしてこの少女がセスティ様の使いの方なんでしょうか?」
ナーリアと名乗った女性も俺の方を見て訝しむ。
「おい、プリン。こいつらには説明していいか?」
「頼むよ。俺はなんか疲れちまった」
プリン呼ばわりに突っ込む気にもなれない。
親父は、昨日俺が説明した内容を二人に説明していく。
しかしそう簡単に信じられる内容ではないだろう。
もしかしたら騙されてるんじゃないかと思うかもしれないし、辞退される可能性もある。
その場合は仕方ない。もういっそ冒険者じゃなくてもいいから金で動くなんでも屋でも探すか…。
「マジで? じゃあこの超絶美少女ちゃんがあの鬼神セスティさんって事なんすか? うわたまんねー! 可愛くて強いとかサイアンドコーっすよ!」
さい、なんだって? 反応おかしくない?こいつ頭大丈夫か?
でも超絶美少女ちゃんとか照れる。
「お前なかなか見どころある奴ね。しっかりこき使ってやるから覚悟しておきなさいよっ!」
「うす! ご褒美っす!」
……うぁ。
まずい。女性的な方面で褒められるのは危険だ。気を付けなければ。
俺は男だ。俺は男だ。俺は男だ。俺は男だ。俺は男だ。俺は男だ。俺は男だ。
……よし。
「あ、あのあのあの! 本当にあのセスティ様がこの美少女になってしまわれたんですか? 本当に? ねぇ本当に??」
なんだかナーリアの様子がおかしい。やはりショックだったんだろうか?
最初からこの女は俺の事をセスティ様。と呼んでいたし、もしかしたら妙な憧れを持っていたのかもしれない。それがこんな少女になってたらガッカリもするだろう。
「あぁ、残念ながら今はこんな姿になっちまってる。信じられないかもしれないが本当に……ってうわぁっ! なんだお前何しやがる!」
突然ナーリアが俺に飛びついてきた。
慌ててはねのけようとして、我に返る。
俺が思い切り払いのけたらこのレベルの冒険者は死ぬかもしれん。
そんな躊躇をしている間にナーリアは俺に抱き着いて体をまさぐりだしたのだ。
「ハッ! す、すいませんあまりに可愛らしい美少女だったもので我慢が出来ずに……はぁ、はぁ……あの、もう一度抱きついても?」
いいわけねぇだろが!
「親父! やべぇぞ! やべぇ奴しかいねぇ!」
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