遊び人は、賢者にはなれない。

稲村 カカシ

プロローグ

 今日も、街に「遊び人」があふれている。

 ここにも、あそこにも、派手な服を纏い、軽薄な笑みを浮かべてトリッキーな動きや言葉で周囲の注目を受けている。簡単な手品を披露し、美人を見付ければ軽やかなステップで近付いて口説き始める。遊び人が、街にあふれている。


 この状態には理由がある。


 今から10年前、極地に封印されていた魔王が復活し、世界に対して宣戦布告をした。魔王は強力な魔物や亜人、魔族を率いて世界中の国々を蹂躙。世界は滅亡の危機に晒された。

 世界の国々は戦闘力が高い者たちを結集し、魔王討伐のために派遣した。激闘を繰り返し、パーティはついに魔王に辿り着く。当初パーティの面々は、魔王にさえ届けば勝てると考えていた。しかし想像を絶する能力に圧倒され、壊滅寸前まで追い込まれた。


 その時だった―――

 パーティのひとりが、突如ジョブチェンジを果たす。失われたジョブ、賢者の発現だった。賢者は、その高い魔力と高度な魔法を駆使し、戦況を覆す。そして、ついには魔王を撃退し、極地に撤退させたのだ。


 その後、パーティは凱旋し、世界中の人々から称えられたが、その中に賢者の姿はなかった。賢者は帰国途中で忽然と姿を消し、その後、誰も会った者はいない。賢者に至る方法も、その能力の多くも謎のままである。


 しかし、そんな中で、ひとつだけ判明していることがある。

 賢者にジョブチェンジしたジョブが、「遊び人」であったということである。

 それが知れ渡ると、賢者を夢見た者たちがジョブ選択で遊び人を選択するようになったのだ。それが、この街に遊び人があふれている原因である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

遊び人は、賢者にはなれない。 稲村 カカシ @kakashi-i

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る