その子のとなりは誰ですか
戊 咲音
ひとつ
空が青い、それだけで幸せだった。けれど、気づかなかった。
覚えていないけれど、そうか、隣にいたのは、君だった。
夕刻、下校を始める生徒に混じり部活動へと向かう者達。
「はよ〜、お?なんか作戦会議?」
暖禅坂高校の中でも特に規模の小さい部活動、オカルト研究部。彼らの部室に、明るい茶髪の男と黒髪の男が入ってきた。
天塚 冴貴、3年、オカルト研究部。
「楽しそーじゃん、俺も混ぜろよ〜」
間々習 内、2年、オカルト研究部。
「また変な都市伝説ですか?もう先生に怒られるのは勘弁ですよ……」
2人は部室に入るやいなや、他の部員に割り込むように机の周りへと近づいた。
そんな2人を交互に見ると、黒髪につり目の男が呆れたように腕を組んだ。
為我原 逸子、3年、オカルト研究部部長
「お前ら、開始時間から20分も過ぎてるぞ?何やってたんだよ、遅刻するなら連絡くらいよこせって!」
冴貴にビシッと指を向け、決まったとばかりにニヤリと笑う逸子に、冴貴はどうでもよさげに相槌を打つ。
「すまんすまん気をつけるよ、で、何してたんだ?」
適当に返され、ムッとした顔で言葉を返そうとした逸子を遮るように薄茶色の髪を2つに結った少女が口を開いた。
奈吉良 八子、2年、オカルト研究部副部長。
「ここから近い所にいい感じの廃校舎があるんだってさ、だからそこを探索しないか、って」
「そう、そういう事だ!」
逸子がうんうん、と頷きながら八子の言葉を肯定する。
その後ろで、黙りこくっている2人組。1人は茶髪を八子と同じく2つに結い、前髪を真っ直ぐに切りそろえた少女。
語破 りな、2年、オカルト研究部。
「…………」
もう1人は、黒髪を耳にかけ、背中まで伸ばした大人しそうな少女。
瀬女木 紗弥、1年、オカルト研究部
「……あの、それで、いつ行きますか?」
先に口を開いたのは紗弥だった。
全員から一斉に視線を向けられ、つい顔を逸らす。
「明後日とかどう?」
突然、扉の方から声がした。部員は揃っている。
逸音が、勢いよく振り返った。
「またお前か!部活動中だぞ!!」
扉の前に立っていたのは、黒髪を真ん中わけにした、少し無気力そうな男。
流々 あきほ、3年、無所属
「そんな事言わないでくれよ、俺は冴貴にこれを届けに来ただけだぜ?」
そう言うと、彼は冴貴に筆箱を投げた。
冴貴は片手で受け止めると、筆箱をブラブラと揺らした。
「あー、忘れてた?あんがと」
「はは、気にすんなよ。面白いもの聞けたしな」
冴貴の方へ歩み寄り、くっつきそうなほど近い距離で真横に並ぶとニヤニヤしながら逸子の方を見るあきほ。
「お前、まさか、着いてくるつもりじゃあ……」
口元を引き攣らせる逸子に、あきほが満面の笑みを向けた。
「そのまさかだよ」
逸子の怒号が、廊下へ響き渡った。
廃校舎探索、楽しそう。
私はそう思ってたんだっけ。
今じゃ、こんなことになっちゃったけれど。
いいよ、知らないよ。
もう隣には誰もいないでしょうし、ね。
ありがとう、「 」ちゃん。
その子のとなりは誰ですか 戊 咲音 @saki33010
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