ジョニー

定食亭定吉

1

 空には何機も飛行機が通過する姿を見ることが出来る。ここ、東京、大田区城南島。正は日雇いで食い繋ぐため、印刷工場のスポット仕事で、十二月初旬やって来た、ここは人工島で倉庫や工場が多く散見される。午前中、日射しが気持ち良く照りつけている中、印刷屋の倉庫の外で、段ボール組み立てを命じられる正と中年男。プラッチック製のパレットにベタ積みするように、どんどん段ボールを作成していく。

「お兄さん、名前は何というの?」

中年男が話しかける。

「海野です」

正は三十一才。前日、会社を解雇されたばかり。食いつなぐために、ここへ日雇いへきた。

「俺はジョニー」

「えっ?」

「ジョークさ」

茶髪に染めた色黒の姿。歯が白く輝く。手を止めずに会話する。

「しかし、こんな日にここで段ボール作成とは。ここも人工島だしな。飛行機も人工物。世の中は人工物が多いぜ」

セリフめいた言葉が多いジョニー。

「そうですね」

退屈なので聞き流す事をしない正。

「今、何時?」

やる気ないジョニー。

「十時半です」

チープな腕時計を見る正。

「長いぜ。紙飛行機でも作るか」

周囲を気にして、近くにあった廃材コーナーか。適当な紙をチョイスし、素早く折る。

「速技ですねー」

感心する正。

「よーっと」

風任せに紙飛行機を飛ばすジョニー。南西の方向に投げつけたつもりが、風向きにより北西へと流れる。

「おー。北西か。富山か石川辺りかと」

「何か占っているのですか?」

「俺の行き先さ」

「どういう事ですか?」

「東京から地方へ流れようと思って」

「なるほど」

「このまま、どうくたばろうかと思ってよ」

重い空気となる。

「まあ、それはわかりませんがね」

「何か燃えないぜ!燃えつきた灰ではよ」

「このまま、風に舞い、風に流されるのもいいでしょうね」

うまい事を言ったつもりの正。

「そう考えれば、飛行機は大したものだな。きっちり目的を持って飛んでいる」

「それを操作しているのは人間ですがね」

「空に目掛けてみないか?俺らの夢を」

「。。。」

世間にはこんな中年もいるのかと思う正。

「取り合えず、金払えば、空に舞うことは出来るな」

「まあ、そうでしょうな」

たそがれる二人。段々とノルマの段ボールが残り少なくなる。

「飛行機は高そうだしな。乗った事はないし」

「本当ですか?今なら、早割だったら、富山ぐらいなら、八千円で行けますよ。しかも、大手航空会社で」

「今日の日当で行けるわけか。行って終わりになるわけだな」

短絡的思想のジョニー。

「こうやって、日雇いでも無駄遣いしなければ、小さな夢は叶うわけでしょう!」

「まあ、酒も煙草もギャンブルもやらないしな」

「後は移住して何をやるかですよ?」

「空を眺めるぐらいだろう」

「それなら、都内でも出来ますよ!」

ゴールなき話で、あっという間に正午となる。

「飯だな。今日は天気もいいし、空でも眺めながら食べようぜ」

「そうですね」

退屈な仕事も、ジョニーのおかげであっという間に感じた正。しかし、金を払えば、空を舞えると知れた今日だった。

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ジョニー 定食亭定吉 @TeisyokuteiSadakichi

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