エピローグ
「シャバのコーヒーはうめえなー」
スーツケースを引き摺って、駅構内のコーヒーショップに入った俺は、ブラックコーヒーに舌鼓を打っていた。
高校卒業後、俺は警察学校に入学した。周りからはずいぶん反対されたが、『死んだ親友の敵をとりたい』と言うと、誰も何も言えなくなるようだった。
警察学校は寮生活で行われる。今日はちょうど訓練が終わり、これから実家に戻るところなのだ。
結局あの修学旅行の後、逮捕されたのは国語教師の思川だけだった。事件の引き金であり、駒形サクラを殺した八重垣マクトは、証拠不十分で捕まらなかったのである。俺はずいぶん駄々をこねたり手を回したりしたが、無駄だった。
推理小説『八重垣マクトの事件簿』はシリーズものである。彼自身はもっとたくさんの犯罪にかかわり、人を殺し、そしてシリーズ中では永遠に捕まることはない。
それならば、俺自身が警官になり、彼を逮捕すればいい。最悪、支給された拳銃で奴を撃ち殺せばいい。そうすれば犠牲者は出ない。
『しかし、役割が第一犠牲者だったお前が、警官になるとはねぇ』
まだいる駒形の幽霊は苦笑いをする。
『お前もホントよくやるよな……って、うわっ』
駒形が声をあげたので振り返ると、そこにいたのは意外な人物だった。噂をすればなんとやら。八重垣マクトである。
「おや、奇遇ですね。修学旅行の事件以来ですか」
久しぶりに出会った連続殺人犯は、相変わらずのイケメン優男である。俺は彼を殺すべく拳銃を探したが、まだ警官見習いなので、そんなものは支給されていない。
「俺はお前を逮捕する」
全ての文脈を無視して俺が言うと、八重垣マクトは微笑んだ。余裕の笑みだ。
「初めて会ったときから、貴女は不思議な方だと思っていました」
にこにこと笑う八重垣マクトは、どう考えても普通の人間ではない。もしかすると、彼自身も、この世界が『推理小説』だと感づいている人間なのかもしれない。
「筋書きは変えられない。そう思いませんか?」
八重垣マクトが微笑む。
「俺はそう思わない」
俺は挑発的に、彼を見つめるのだった。
<終>
推理小説の世界に転生したけど第一犠牲者 時雨夜明石 @nanigashigureya
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