第7話
■
『ド直球に言うなよ! 下手なこと言うとお前が殺されるぞ!』
耳元で駒形の幽霊が叫んでいるが、俺は聞こえないふりをする。
「昨夜、貴方を掃除ロッカーに押し込んだのは、駒形サクラなのですね。彼女は、何でそんなことを?」
警官が尋ねると、俺はちょっと困惑したふりをする。
「ああ、失礼。私は私立探偵の八重垣マクトと申します」
殺人犯は、ご丁寧に名刺を差し出してきた。俺はそれをビリビリに引き裂くかを迷った。
『桐生オカナが部屋を出るぞ!!』
駒形の声で振り返ると、委員長はちょうど、食堂の前の扉から出て行くところだった。しかも、よりにもよって思川とだ。馬鹿じゃねーの!ついさっき俺が警告しただろ!
『犯行予定時刻まではあと6分だ』
「短っ! すぐじゃん!」
俺が思わず呟くと、警官は困惑した表情をした。
「教えてください、伊勢崎さん。駒形サクラさんは、昨夜、何か不審な行動を取っていませんでしたか?」
「その件については、私も興味があるんです」
八重垣マクトも尋ねる。そりゃあそうだろう、自分が殺した人間が、成りすました別人だったのだから。彼自身も相当困惑しているはずである。
『あと4分』
カウントダウンが始まったので、俺は腹をくくった。桐生オカナが殺される場所は知っていた。物置……掃除ロッカーの前。俺が一晩中隠れていたところだ。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
警官の制止を振り切り、俺は走り出す。扉の前で門番をしている教師に体当たりをする。なりふり構っていられない。
みぞおちにタックルを決められ、うずくまる教師を踏みつけ、俺は物置へと走る。
玄関ロビーを走りぬけ、追ってくる教師をまき、もうこれ以上人を死なせまいと、全速力で走る。
『あと2分!』
■
『あと30秒!』
物置の前まで来ると、人の話し声が聞こえてきた。
「そんな、思川先生、私は……」
震える委員長の声がする。
「どっせええい!」
立て付けの悪い物置の扉にアタックし、そのまま破壊する。轟音が鳴り響き、殺そうとしている思川と、殺されようとしている委員長の間に割り込む。
「そこまでだ、変態教師思川!」
「伊勢崎さん!」
委員長は、救われたヒロインのような表情をしている。残念だが、まだ救われたとは決まっていない。
思川は突然現れた俺に驚いたようだったが、手に持ったナタを握り締めると、俺たちにゆっくりと近づいてくる。
『伊勢崎! こっちだ!』
駒形の声がした。奴が指し示しているのは、立て掛けられている金属バットだった。ちょっと重いが、俺はこれでも前世で野球部員だったこともある。
俺が金属バットを手に取り思いっきりスイングすると、すぐ傍の洗濯竿たちがすごい勢いで崩れ落ちてきた。
「きゃっ」
委員長が顔を覆う。思川の集中力が一瞬切れ、俺は思川が持つナタめがけてバットを振り下ろす!
鈍い音がして、思川の手からナタが落ちた。俺は間髪要れずに、彼の頭をめがけてバッドを振り下ろそうとするが、阻まれる。
俺はあっという間に押し倒されると、馬乗りになられ、そのまま両手で首を絞められ始めた。なんてこったい。そのまま思川は金属バットを手に取ると、大きく振り上げ……
「そこまでだ!」
銃を構えた警官たちが入ってきた。乱闘の音で俺たちの位置に気が付いたらしい。傍らには、自分の犯罪を邪魔され、心底がっかりした顔の八重垣マクトがいた。
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