第6話


 『高馬女子高等学園修学旅行殺人事件』のラストシーンはこうである。6人の生徒の命を奪った、犯人である国語教師・思川 おもいがわがこう回想する。


『ええ、生徒たちを殺したのは私です。ずっと女子高生の死に、並々ならぬ関心を抱いていたのです。伊勢崎アイの死体を見たとき、私の思いは爆発してしまいました……いいえ、違うんです。私は確かに6人の生徒を殺しましたが、最初の伊勢崎アイを殺したのは私ではなく……』


 しかし、思川の陳述も虚しく、彼は『7人の生徒を殺した連続殺人犯』として警察に連行されていく……。


さて、もう一度シナリオのおさらいしておこう。まず始めに、八重垣マクトが殺人をする。次に、思川が連続殺人を始める。


すなわち、八重垣マクトはもう殺人を行わない。これから連続殺人を行うのは『国語教師・思川』である。



『次の犯行は21分後だ。女子トイレの一番奥の個室で、女子生徒が殺される』


 駒形が推理小説のネタバレをしてくる。俺はその犯行を止めなければならない。


「生徒の名前は!?」


『大平下ウエコ』


 そう言ってから、駒形と俺は顔を見合わせた。この食堂には、生徒全員が集められている。が、そろいもそろって似たようなキャラデザの人間ばかりである。さらに制服を着ているときた。


「大平下ウエコってどれだ!?」


 俺は生徒の首根っこを掴んだり、気落ちする教師を殴ったりして大平下ウエコの所在を明かそうとしたが、誰も彼女の居場所を知らない。そうしているうちにもどんどん時間は過ぎていく。それならばと現場のトイレに行こうとするが、教師に止められる。


 逆に考えろ!犯人の思川を拘束しておけば殺人は起こらないのでは!? と思ったが、思川の姿も見当たらない。


『ダメだー! 時間切れだ!』


 壁抜けをしながらやってきた駒形から、俺は絶望の報告を聞く。


『大平下ウエコ、もう殺されてた!!』





「人の命を何だと思ってんだよ。ぽんぽん死にすぎだろ、この推理小説」


『作者に言え』


 2人目の犠牲者が出て、蜂の巣を突いたような騒ぎなった食堂で、俺はがっくりとうなだれていた。誰も彼もが恐怖と絶望に包まれており、俺の独り言と男言葉に突っ込む人間は誰もいない。


「しかもウエコってなんだよ。俺の名前アイだろ。アイウエオってなんだよ。作者ネーミングセンスなさ過ぎか。次の犠牲者は『カキ』とかだったりするのか」


『いや、次の犠牲者は【桐生 きりゅうオカナ】だ。物置で殺される』


 そいつは知っていた。学級委員長で、お譲様学校では珍しくみつあみ眼鏡の、堅苦しい人間である。彼女は現在、音楽教師と会話そしているようだ。普段の凛とした雰囲気は崩れていないものの、どこか疲れたような気配がある。


 ここで食い止めてみせる。これ以上クラスメイトを殺されるわけには行かない。



「委員長、ちょっといいか」


 俺が声をかけると、教師との会話と中断して彼女は振り向いた。俺はちょっと考えた後、直球勝負をすることにした。


「実は、伊勢崎の幽霊が俺に話しかけてくるんだけどよ」


 俺が言うと、委員長の桐生オカナは哀れむように俺を見る。ちなみに、その横脇で駒形の幽霊も『こいつ、ド直球で言いやがった』と若干引いた目をしている。


「次の犠牲者はお前で、犯人は国語教師の思川だ」


 俺が言うと、後の音楽教師の顔が引きつった。


「い、伊勢崎さん。憶測でものを言うのは……」


「いいか、桐生オカナ。国語教師の思川と絶対に2人っきりになるな」



 その時、俺は後ろから現れた警官に声をかけられてしまった。


「伊勢崎アイさん。あなたが掃除ロッカーの中に閉じ込められていた件について、お話を聞きたいのですが」


 警官の横脇には八重垣マクトの姿もある。俺は、委員長に「いいか!絶対だぞ!」と釘を刺すと、警官と話をすることにした。


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