第238話 鼻歌

 翌朝――。

 カラスを肩に乗せ、ひまわり号でサマルカンド外周を回る。

 さあて、どこにお迎え施設と会談場所を建築するかなあ。


「ふんふんふんー」

「くあー」

「ふふふふふーん」

「くあー」


 カラスと鼻歌を歌いながら、牧場や畑を見渡していると……一周回って元の位置に戻って来てしまった。

 これじゃあ、ただの散歩じゃないかよ。

 もう一周だ!


「ふんふんふんー」

「くあー」

「ふんふふふーん」

「くあー」

「違うー! またもう一周回ってしまうだろ!」

「くあ?」

「目的、目的だよ!」

「場所くらい適当に決めろ、そこでいいだろもう」


 カラスがちょうど目に映ったプラネタリウムを嘴でさし示す。

 まあいいか、あの辺で。

 道を伸ばして、中央に広場を。

 ブンブンとひまわり号のエンジンをふかしながら、左右に宿舎エリア用の土地を購入。広場の奥に迎賓館用のエリアを準備した。

 うん、まあ、土地はこんなもんだろ。


「まずは迎賓館か」

「お、何か案があるのか?」

「あるにはあるけど、作るのが俺の想像力だと難しい」

「適当に作っちまえよ。滅多に使うことが無い施設なんだろ」


 カラスの言う通り、今回は特別な処置だ。サマルカンド内だけなら、いつもの集会所で事足りるし、いつものあの場所が落ち着く。

 迎賓館という単語から想像したのは、明治大正時代に建築された洋風の屋敷だったんだ。だけど、残念ながらクラッシックハウスのメニューには似たようなものがない。

 カスタムパーツにならありそうだけど、組み合わせが……あ!


「いい事を思いついた」

「ん?」


 忘却の彼方にあったけど、ハウジングアプリのメニューには本もあるんだよ。明治風迎賓館の写真を見ながらやれば、俺でもなんとかなりそうじゃないか?

 さっそくタブレットを出して、本を物色する。

 タイトルしか分からないので、建築関連の本も含め適当に何冊か出し……の前に宝箱を設置して、注文っと。


 ゴトリ――。

 いつもの注文が宝箱に届いた音が響く。

 頼みすぎたかもしれない……。宝箱の中は本が満載になっていた。

 興味を惹かれたらしいカラスが、ちょこんと本の上にのり、脚先で挟んで地面に本を放り投げる。

 バサリと落ちた本の中身が開く。


「これでいいんじゃね」

「それ、部屋がないだろ」

「台座でも置いて座れたら問題ないだろ、屋根はある」

「まあいいか。建て直しもできるし」


 開いたページには思わぬ写真が表示されていた。

 写真は目的の物とは違いすぎる古代の建築物の一つだった。洋風、と言えば洋風なのかなあ。


 写真を見ながらタブレットの中で建物を組み立てていく。シンプルだし、作りやすいからすぐに完成した。


「んじゃ、実体化っと」


 決定をタップするといつものごとく音も立てずに一瞬で建物が出現する。

 立っていたのは大理石でできた神殿だった。中央が太くなった円柱が幾本もそそり立ち、上にはこれまた真っ白の屋根が乗る。

 入口には段差があり、段差を登ると間仕切りの一切ないガランとした大広間となっていた。

 そう、こいつはパルテノン神殿を丸パクリした建物だったのだあ。

 電気も無いし、屋根こそあるが野ざらしなんだよな。

 

「やっぱりこれじゃあ、会談を行うことに向いてないんじゃね?」

「外でやるよりはマシだろ」

「まあそうだけど……インパクトならあるか」

「いいんじゃね。こう神々の神殿って感じがするだろ」

「そらなあ……」


 パルテノン神殿もどきなら、見た目として申し分はない。

 むしろ、勇壮で芸術的過ぎて逆に引かれないか心配なほどだ。


「いや、やっぱり普通の館も作ろうぜ」

「んー。お、これ、見ろ、良辰」


 ん?

 まだ本のページをめくっていたカラスが何やら気になるものを見つけたご様子。

 何だなんだと見てみたら、工場の写真だった。

 ポテトチップスの。

 

「カラス。会談場所と宿舎だぞ。そいつはポテトチップス工場の写真だ。今は関係ないだろ」

「ほお。ポテトチップスの工場か。工場ってのは何だ?」

「俺の元いた世界であった施設なんだけど、大量にポテトチップスを作る製造所とでも言えばいいのか」

「ほお。作ろうぜ。作ろうぜ」

「構わないけど、工場の外観はともかく設備はあるのかなあ……」

「魔力で編めるか試してくれよ」

「仕方ないなあもう」


 ポテト製造機とかあるんだろうか。

 カスタマイズパーツか注文メニューの中にあればいいんだけど……。

 タブレットを出し、メニューをくまなく探していく。

 お、あるね。

 写真のような大規模なものじゃないけど、ジャガイモをスライスする機械とフライヤーならあった。


「どうだ?」

「小さいのならできそうだ。家に帰ってからでいいか?」

「おう!」


 ウキウキするカラスは「くあくあ」とご機嫌な声で囀っている。

 カラスがまた余計なことをこれ以上のたまう前に、こっちはこっちで施設を建ててしまおうとしよう。

 

 カラスの奴が本をまき散らすもんだから、拾うだけでも大変だ。

 ぶつぶつと文句を言いながら本を拾い上げていると、ちょうどいい写真を発見する。

 よし、これで行こう。

 

 ◇◇◇

 

 簡単に完成すると思っていた。

 だけど、完成し実体化した時には日が陰り始めていたんだ……。

 集中していたから空腹感なんてなかったけど、出来上がった途端にお腹が悲鳴をあげてしまう。

 カラス? あいつは途中からうるさくなったからポテトチップスを与えて大人しくしておいた。

 

 迎賓館と宿泊施設は洋館風建築とし、迎賓館は二階建ての高さだけど中は大広間一つとトイレ、キッチンなどを別部屋で用意している。

 宿泊施設は洋風ホテルのような作りをしていて、四階建てで各部屋は12畳ほど。各部屋にベッド、文机、ゴミ箱、トイレに洗面所を取り付けているが、風呂は無い。

 これは異世界の設備を鑑みて、風呂をつくらない方がいいと判断したからだ。

 だったらトイレと洗面所も要らないんじゃないかと思うかもしれない。そこはほら、身だしなみとかに必要だと思って。

 井戸なんかも無いし、水回りがないとさすがに不便過ぎるだろってことで。

 風呂はまあ、大浴場を準備しているのでそっちで入ってもらう。各設備の使い方の説明をしなきゃ、だよな。

 

「よっし、帰るぞ」

「くあ」


 カラスを肩に乗せて、悲鳴をあげるお腹をさすりつつひまわり号にまたがる。

 ぶおおんとエンジンを吹かし、一息に自宅まで帰る俺とカラスであった。

 この後、きっちり覚えていたカラスに家につくなり「ポテトチップス製造マシーン」をせがまれ、食事をとる前にそいつを設置することになってしまう。

 設置したらしたで、はやくつくれってうるさくて……。

 

 無視して、ご飯を先に頂いたけどな。ははは。

 そうなると、集会の時間となったわけだが、カラスにポテトチップスをつくらないといけなかったため、急遽、俺の自宅で集会を行うことと相成った。

 

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