第239話 実食
会議は滞りなく終了し、今に至る。俺はちょうどお風呂からあがったところだ。
しかし、せっかく髪の毛をシャンプーして綺麗にしたというのに、頭にカラスが乗っかり全て台無しになってしまった……。
押しのけてもまた乗っかってくることは確実、故に、賢い俺は何も語らず優雅に風呂上がりの牛乳を楽しむことにするか。
ところがどっこい、冷蔵庫の前にハトが陣取っている。
「……」
「作るっすか! パネエッス!」
「……焦り過ぎだ! 会議が終わってようやく風呂なんだぞ。タイタニアが戻るまで『待て』と言ったじゃないか」
「パネエッス!」
さっきも聞いたが、そのパネエッスは「分かった」って意味じゃないのかよ。
ハトは冷蔵庫の前で翼をバタつかせるだけで、移動してくれない。
「あれだ。ジャガイモやら油やらを準備しないといけないだろ、そのためには冷蔵庫を開けなきゃなんないんだ」
「パネエッス!」
俺の機転が利いた説得が功を奏したらしく、ハトがよちよちと歩いてくれた。
よおし、いいぞお。
もちろん冷蔵庫から取り出すのは「牛乳瓶」だがな。
「ふう……」
牛乳を飲んで落ち着いた俺は、タブレットを右手に出しちょいちょいっと注文を行う。
宝箱からジャガイモや油を取り出し、ダイニングテーブルの上に並べてみた。
一応、ジャガイモを洗っておくか。ジャガイモを洗い、ポテトチップス製造マシーンのフライヤーへ油を並々と注ぐ。
「フジィ!」
ちょうど風呂から出てきたタイタニアがフライヤーの前でしゃがみこむ。
彼女の髪からはぼたぼたと雫が垂れ、床を濡らしていた。
タイタニアもかよ……急いで出てきたのは分かるけど、ちゃんと乾かさないと床が。
この機械は電気じゃなく魔力で動いているはずだから、感電の心配が無さそうではあるが……。一応、念押ししておいた方がよい。
髪の毛はまだいい、しかしだな、バスタオルを巻いただけで出てきちゃあなんねえ。お父さん、もう少し恥じらいを身に着けて欲しいと思うんだ。
「落ち着け。ちゃんとパジャマを着て、髪の毛を乾かして来るのだ」
「わかったー」
「ワギャンもそろそろ戻るだろ」
再び脱衣所に戻るタイタニアを見送り、ソファーに深く体を埋める。
すると、膝の上にハトが。肩にカラスが乗っかり騒ぎ立ててきた。
「だああ。タイタニアがもう戻るだろ!」
こいつらの頭には食欲しかねえのかよ。
一応あれだろ、こいつら知的生命体なんだろ。カラスに至っては、人より知性が高い賢者なんじゃなかったっけ。
「何だ?」
「いや、カラスって凄い魔法を何種類も使うのに、こういうところは動物的だなあって」
「食べ物はちゃんと食べないといけないだろ。そもそも、ここにいる目的の七割はポテトチップスだ」
「そんなにかよ」
「ちゃんと礼はしているだろう」
「確かに」
カラスのぐあぐあモードとかいうふざけた名前の翻訳魔法は、とても役に立っている。
言語の壁が一瞬にして無くなる上に、効果時間は永続というチート臭い魔法だ。
最近だとフレイにこの魔法をかけてもらったんだっけ。
彼女は元々公国の言葉が分かったけど、獣人の言葉は分からなかった。だけど、今は獣人とも支障なく意思疎通が取れているからな。
ガチャリ――。
お、タイタニアが出て来たようだな。
「お待たせ―」
「よおし、じゃあ始めるとするか」
今度はちゃんと髪を乾かし、服を着ていたタイタニアである。
◇◇◇
ポテトチップス製造マシーンは二つのパーツに分かれていた。一つは長方形の縦に長い箱で、もう一つはポテトを油で揚げるためのフライヤーだ。
なんかこう、ポップコーンを作る機械に似ているようなそうじゃないような。
ええっと、上部の受け口にジャガイモを入れてスイッチを押す、のかな。
箱の下部にある赤いボタンをポチッと押す。
ゴゴゴゴゴ――。
なんか大きな音がしてジャガイモが受け口の中に吸い込まれていく。
この中が刃になっているみたいで、「ががごがが」という音と共にスライスされたジャガイモが下の受け口から出てきた!
ほおほお。こいつはすげえ。こんなに薄くスライスできるのか。
「次は……これをこのまま揚げるのかな」
フライヤーにスライスしたジャガイモを入れたら、ジャガイモはすぐにばちばちとした音を立て黄金色に色が変わっていく。
頃合いを見て、網でスライスしたジャガイモを引き上げた。
油を切って、キッチンペーパーの上に揚げたてのジャガイモを乗せてポテトチップスの完成だ。
「できたぞ。あとは塩なり振って食べるがよい」
って、聞いちゃいねえ。
既に皿を突っついているじゃないか。二羽とも。
「熱っ」
飛ばすな。頬にポテトチップスの破片が飛んできたぞ。
こんなに熱いってのに、二羽が平気で突っついているが大丈夫なのか、こいつら。
試しに指先で揚げたてのポテトチップスに触れてみたが、熱すぎてすぐに手を引いた。
幸い、ハウジングアプリの絶対無敵空間の中だから火傷をすることはない。
「タイタニア。ものすっごく熱いからまだ触れない方がいい」
「そうなんだ」
涎、涎が口元から出ている。
タイタニアは美人系な顔をしているんだけど、いろいろ台無しだよ……その顔……。
いや、これはこれで可愛いんだけどね。ギャップってやつだよ。うん。
「カラス、ハト。そこのポテトチップスは全部やるから、次からのには手を出すなよ」
返事はない。奴らは一心不乱に食べている。
食べきる前にどんどんポテトチップスを作ってしまおう。
味付けに塩、胡椒、コンソメの粉、カレー粉、いろいろ準備しているんだよ。
途中、またしてもカラスとハトにポテトチップスが食害されてしまうハプニングがあったが、山盛りのポテトチップスを用意することができた!
◇◇◇
ワギャンも外出から戻り、いよいよポテトチップス実食タイムと相成った。
既に食べているカラスとハトも何故かワクワクと待っている。
「適当に塩やらを振りかけてみた」
「いつも袋で出すものより若干分厚い感じがするな」
「そうかも」
ワギャンの率直な感想を聞きつつ改めて出来上がったポテトチップスを観察する。
機械でスライスしたとはいえ、たしかに市販の物より厚切りだな。
「いただきます!」
揃って手を合わせ、塩胡椒を振ったポテトチップスをむしゃり。
うん、なかなかいける。
専用のフライヤーで揚げたのが良かったのか、バッチリ中までカリッと揚がっていた。
こいつはビールに合いそうだ。
さっそく缶ビールを持ってきて、ワギャンとほぼ同時にぷしゅーと缶ビールのプルタブを開ける。
「お、おおい!」
カラスとハトがテーブルの上に乗っかり、せっかく準備したポテトチップスが、ポテトチップスがあ。
「おいしいね、フジィ」
にこにことポテトチップスをほうばったタイタニアは、カラスの足元からポテトチップスを摘む。
お、大物だ。
まあいいか、粉々になる前に食べりゃいい。
ずっとガーゴイルの操作でタイタニアの部屋に引きこもっているフレイにもおすそ分けを。
そんなこんなで、楽しいポテトチップス試食会は終了する。
これなら、会議の時に出してもよいかもしれない。
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