第216話 久々の建築
「そういや、ハトってカラスのことを『先輩』って呼んでいたな」
コーヒーの熱さに顔をしかめながら、ふと思い出したことをカラスに問いかける。
「おう、俺の方が早くこの世界に誕生したからな」
「それで先輩なのか。それだけじゃない気がしたんだけど」
ハトはカラスに一定の敬意を払っているように見えるんだ。奴は何に対しても食い気以外示さないが、カラスに会った時だけは嬉しそうに「先輩」と囀るのだ。
こんなことをカラスに突っ込んだら、きっと痛い目にあわされるから言わないけどな。
「ほう?」
やべえ、カラスが何か察してきた。
「最初からヒントはあったんだな。グバアから言葉を最初から喋ると言われていたし。会ったこともないグバアのことやカラスのことをハトは『知っていた』」
「そういうことだ」
カラスは、うまく誤魔化されてくれたようだな。ナイス俺の機転。
生まれたばかりだというのに、喋るからそんなもんだと思っていた。
違和感がないことは無かったが、いつものあいつの行動からあいつの記憶とかそんなものは考慮もしなかったんだよな。
「何気ない行動にヒントって散りばめられているもんだなあ」
「さすが聖者様。真理を突いたお考え方です」
フレイが両手を胸の前で組んで、キラキラと目を輝かせている。
彼女ほど貪欲にはなれないけど、俺も少しは細かいことにも目を回すようにしよう。思わぬところで「気づき」があるかもしれないから。
翌日――。
朝からフレイにサマルカンドの街を見せて回る。といっても外周をひまわり号で移動しただけだけどね。
彼女は当初ひまわり号に興味津々でなにかと尋ねてきたが、仲良く農作業をする公国の住民の姿や、牧場で働く獣人の姿に目を奪われているようだった。
彼女にも何か思うところや考えさせられることがあるのだろう。
何故ならひまわり号が動き始め、住民の姿が見えるとあれだけ饒舌だった口が閉じじっと彼らの姿を見つめていたのだから。
しかし、プラネタリウムなどの巨大施設を通りかかるとまた質問攻めになったんだけどね。
やっぱり、知的好奇心が抑えきれないんだよな。
そういえば……最近、新施設を建築していなかった気がする。
闘技大会を開催することになってしまったし、何か新しい施設を作ってもよいなあ。
お、こういうのはどうだ?
住居も建ち並んだので、サマルカンドを一望するには高さが足りなくなってきた。
いっそ、展望台でも作ってみんなにもサマルカンドの街を見てもらうってのは。
場所はそうだな。
公園の南か集会所の北……いやスタジアムのそばでもよいかも。
こういう時はマルーブルクとリュティエに……いや、たまには驚かせてやろうかな、ふふふ。
フレイを連れて、スタジアムまで足を運ぶ。
「これは見事な建造物ですね。神殿か何かでしょうか」
ひまわり号の横に立っているフレイが、スタジアムを見上げ感嘆の声を出す。
「これはスタジアムといって、みんなで集まれる施設なんだ。中を見てもらえると分かる」
「はい! 是非!」
フレイを連れてスタジアムに入り、観客席の一番高い場所まで連れて行く。
「コロシアムに似た施設なのですね。ここで戦いを楽しむのですか?」
「いや、本当はもっと平和的な。例えば楽団に来てもらって演奏するとか」
「聖者様らしいです。魔族の音楽隊はなかなかのものなのですよ」
「それなら一度来て、演奏してくれたら面白そうだ。平和的なことなら大歓迎だ」
「聖者様が望むのでしたら、国に帰った際に調整してみます」
「ありがとう」
フレイと握手を交わし笑い合う。
サマルカンドは平和そのものだから、外はそうじゃないってことをついつい忘れがちになる。
今も何処かで種族間の争いが起こっているんだよな。
別の種族同士だって理解し合えば必ず妥協点を見出し、共存していけるのに。
そうでなくても、ずっと戦争をし続けないで済むやり方をお互いに模索できるだろ?
会話無くしては何も進展なんかしない。
うん。分かっているよ。お互いに言葉が通じないってことは。
だけど、タイタニアやワギャンがやったように言葉を学ぶことはできる。そうしてこなかったのは怠慢ではないかと思ってしまう。嫌なやつだよ俺って……。
自分はハウジングアプリで絶対安全な位置から声をかけてるだけだものな。
「んー。よし、スタジアムの隣に作ろう」
「何かされるのですか?」
沈みそうになった自分の気持ちを打ち払うように大きな声で叫ぶ。
それを逃すフレイではなく、即座に質問を投げかけてくる。
「見てのお楽しみってやつだ」
「楽しみです」
俺とフレイは並んでスタジアムを後にした。
◇◇◇
場所はスタジアム横、獣人側にする。
ふふふ。ハウジングアプリのアップデートでカスタママイズメニューも増えているんだぜ。
花畑の床材だけじゃあない。
見せてやるぜ。ハウジングアプリの本気ってやつをなあ。
タブレットを出し、引けるだけカメラを引きカスタマイズを開始する。
ん、んん。さすがに画面の中に映り込ませるには限界があるな。
そういう時は、ダブル画面モードだ。
片方の画面で映りきらなかったら、もう一方で残りを映せばいい。使いどころがないと思っていたダブル画面モードだが、こういう時に使うのか。
大規模建築物を作る時は、回数を分けて作るか元からセットされているものを作っていたからなあ。
実体化させる前に全部作りこむのは始めてだ。
「見て驚くがいい。これが」
言葉を切り、決定をタップする。
すると、いつもの通り音も立てずに一瞬でタブレット内で準備した映像が実体化した。
「ザ・タワーだ!」
アーチ状の大理石の柱が幾重にも連なり天まで届く勢いでそそり立つ。
柱と柱の距離は五メートル。横五十メートル、縦五十メートル。そして、高さがなんと百五十メートル。
柱と柱の間は赤レンガとステンドグラスになっていて、採光もバッチリだ。
「……」
どうだとばかりにフレイの方へ顔を向けると言葉も出ない様子だった。
高さもちゃんと考えて作ったんだぞ。
地球だと古代から西暦1000年ごろまで最も高い人口建築物はクフ王のピラミッドだった。
それに迫る高さを持っていたのが、ピラミッドと同じ世界七不思議の一つであるアレクサンドリアの大灯台だ。ピラミッドが144メートル。
そして、西暦1000年頃にようやくピラミッドより高い人口建築物が完成した。その名はリンカーン大聖堂で、高さが160メートルもある。
この世界は中世風なファンタジー世界だから、その間をとって150メートルにしたってわけなのだよ。
「ん」
何やら、人の声が聞こえた気がする。フレイのものじゃあない。
彼女はまだ目を見開いたまま微動だにしないのだから。
それに、聞こえたのは男の人の声だし……。
声が聞こえたと思ったら、あれよあれよという間にどんどん人が集まってきた。公国側からも獣人側からも。
「導師様、万歳!」
「大魔術師殿、万歳!」
「サマルカンドに栄光あれ!」
う、うわあ。
なんということだ。万歳大合唱が始まってしまったぞ。
ちょっとやり過ぎたかもしれん……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます