第215話 ぱねえっす

「なんだ、空の大地に住みたいのか?」


 そこで突然カラスが突っ込んできた。


「あれ? 口に出てた?」

「おう。お前ならやれんことはないだろう?」

「いや、無理だろそんなん」

「まあいい。続けるぞ」

「おう」

「お前の言葉で言うと『超生物』だったか。お前も知っての通り超生物は世界に四体いる」


 うん、そうだったね。

 四体もいるんだったよね……はあ……二体だけでも怪獣大戦争で被害甚大なのに。

 

「神鳥グバア、神龍グウェイン、魔導王シーシアス、海王タコーン……」


 フレイが聞きたくもない名前を並び立てる。

 魔族の方が人間や獣人より世界の情報に詳しいことは、彼女と初めて会った時に分かった。

 ガーゴイルがある分、生身で冒険をしなくていいから世界の探索にも長けている。

 魔族の気質がフレイに近い者が多いのなら、未知の探求を積極的に行っているだろうし。

 

「痛っ」

「お前、あからさまに嫌そうな顔をしただろう」


 っち。見られてしまったか。

 カラスの奴、本当にこういうところには目ざといな。


「そらそうだろう。カラスも知っているだろ? モフ龍やグバアが笑うだけで地面がめくれる。大迷惑だ」

「あいつらにとっては世界がもろすぎるんだよ」

「待て待て。それで納得しろってのはおかしい」

「まあいいじゃねえか。深く考えず流せるところがお前のいいところだろ?」

「まあな」


 ハウジングアプリがどうしてできたのか、俺が何故ここへ召喚されてきたのとかいろいろ気になり始めたら夜も眠れなくなる。

 考えても仕方ないものは考えない。うん、それでこそ俺。

 

 腕を組みうむうむと納得しているところにカラスが言葉を続ける。

 

「で、超生物はな。マナが溜まって凝縮して誕生する」

「マナって、あれだろ? 魔力とかの元になる不思議エネルギーのことだよな」

「そんなところだ。このポテトチップスもお前が魔力を編んでできたものだろ。マナってのは世界に広く存在している」

「誰かがマナを集めて超生物を作ったとか?」

「違う。マナが集まってくるのは自然現象の一つだ。超生物が誕生するのは、極々稀に起こる事象だけどな。現に未だ四体しかいない」

「四体も……だろ」

「くああ」


 また威嚇してきやがった。ほんとに油断も隙もねえ。

 ええっとカラスの言ったことをまとめると、世界はマナに満ちていて、その中でもマナが少しだけ濃い部分ができ、極々稀に超生物が誕生することがある。

 う、ううむ。

 捉えづらいな。

 お、こう考えてはどうだろうか。

 宇宙空間は殆どが気薄で殆ど何も無いと言ってもいい空間が広がっている。たまたま塵やガスが濃い部分が出来ると他より重力が高くなる。

 水が上流から下流に流れるように少しでも重力が高くなった部分には、加速度的にガスや塵が集まってしまう。

 集まった塵やガスは凝縮し、自らの自重で星を形成する。

 マナも似たような感じで濃い部分があるとそこにマナが加速度的に溜まり、凝縮され固まった結果が超生物ってわけだ。


「何とか整理できた。グバアらはマナから生まれたってことでいいんだな」

「グバアはマナそのものから生まれたと踏んでいる。グウェインは元が猛き龍で、マナを集める体質かたまたまマナ溜まりに踏み込んで超生物に転じたと俺は見ている」

「ややこしいが……無からだろうが元は普通の生物からだろうが、超生物に転じるには膨大なマナが必要ってわけだよな」

「そんなところだ。ちゃんと理解できているじゃあねえか」

 

 くあくあとご機嫌そうに脚を振るカラス……おい待て、俺を蹴るんじゃない。

 一方、じっと押し黙って話を聞いていたフレイはフレイで、自分なりに理解している様子。俺と違って彼女はマナについて造詣が深いだろうしな。


「そんで、まあ、残りカスみたいなマナ……いや、超生物に至るほどのマナになる前に産まれたのが俺や俺に類する生物だ」

「準超生物みたいなもんじゃねえか。カラスも同類同類」


 ふざけてカラスを指差すとくああと威嚇された。指先を噛みつかれそうな勢いだったこともあり、冷や汗がたらりと。


「お前も似たようなもんだろ」


 出し抜けにカラスが心外なことをのたまいやがった。

 ノンノンと指先を振り、彼に言葉を返す。


「いやいやそんな。俺はカラスやハトとは違う」


 変なことを言うもんじゃあない。


「お、ハトが通常の生物と異なることに既に気がついていたか。ぼーっとしているだけだと思ったが、ちゃんと観察しているんだな」

「ん?」


 珍しくカラスに褒められたけど、自分が意図的にやったことじゃなく、カラスとセットのイメージがあってだな……たまたま名前を出しただけに過ぎない。

 なので、かなりモヤモヤする。

 ここで「ちゃうねん」とか言ったら話がややこしくなるので黙っておくことにしよう。


「ハトは不死性ということに限ればグバアをはじめとした超生物四体と並ぶ、いや、凌ぐ」

「え、えええ。あいつ、ゾンビか何かなの?」

「アレは一個にして群体。群体にして一個な存在なんだよ。個体の戦闘力は俺よりはマシだが、そこらの人間にも劣る」

「お、おう……」


 相槌を打ったが……。

 はい。全く何のことか分かりません!

 そんな哲学みたいな説明をされてもまるで想像がつかないぞ。

 全くもう。俺の理解力を舐めてもらっては困る。ははははは。


「ハトなる生物は、ガーゴイルみたいなものでしょうか」


 フレイが自らの考えを述べた。

 そういや、彼女はまだパネエッスに会ってなかったよな。見たら驚くぞ。余りのお馬鹿さん加減に。


「ガーゴイルか。くああ! なるほど、そいつは面白い捉え方だな。一定の記憶を持つガーゴイルが何体もいる、そんな感じだ」

「操り手というわけではないのですね」

「記憶を全て引く継ぐわけではないからな。操り手と言うには少し違う。ややこしい話だが、あいつ次第で記憶を引き継げる……こともあるみたいだ。どんな記憶があいつに残るのか、俺にはとんと分からんがな」

「完全に次のガーゴイルに記憶を引き継ぐわけではない。ですので、操り手とは異なるというわけですね」

「そんな感じだ」


 へー。ふーん。

 体も冷えてきたし、飲みすぎはよくないよな。缶ビールのおかわりはやめて、コーヒーでも淹れるか。


「痛っ」

「お前、全く聞いていないだろ」

「俺はコーヒーを飲むんだ」

「くああ」

「痛っ」

「半分以上はお前のために説明してんだろうが。ちゃんと聞いておけ」


 といってもだな。

 まるで分らんと言うてるのに。

 お、そうだ。

 

「カラス。ハトが死んだらどうなる?」

「新たなハトがすぐに生まれてくる」

「そんでそのハトは、カラスのことや俺のことを覚えていたりする?」

「お前のことは分からんが、俺のことは確実に覚えている」

「言い方を変えよう。新しく生まれてくるハトも『パネエッス』って喋るのか?」

「その通りだ」

「おっけー、分かった」


 ハトはやっぱり怖い存在だった。あいつの狂気を帯びた目は、怖気を誘うが、ゾンビなんて生易しい生き物じゃあなかったのか。

 生き物でいいんだよな? あいつ。

 

 ブルリと背筋が寒くなり、今度こそコーヒーを飲む俺であった。

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