第174話 お食事は火口で

 やってまいりました再び火口です。

 レジャーシートを広げ、みんなでお食事タイムとなった。

 マッコウクジラは何を餌にしているのだろう……なんてしょうもないことを考えながら、カルボナーラをもしゃもしゃと食べる俺。

 一方で、俺とハト以外はマッコウクジラに集中していて食事どころじゃあなかったみたいだけどね。

 その点、ハトはやはりブレない。一心不乱に餌を突き、時折「パネエッス」と囀る。

 うるさいったらありゃしねえ。


 食事を終えた俺たちは、山の麓まで戻ってきた。

 そこで、リーメイとロンの二人とお別れの時となる。


「何かあれば、川の手前まで来てくれ」

「おう!」


 ロンと固い握手を交わす。


「その時は、狼煙を上げればよいのでしょうか?」


 リーメイから最もな質問が投げかけられる。

 抜けてた。

 スマートフォンなんてものは無いから、連絡手段が無いな……。

 敷地内ならモニターでどこにいても見ることはできるけど、四六時中モニターを眺めているわけじゃないからなあ。


「ちょっと待ってくれ。やり方を考える」


 タブレットのメニューを上から順にスライドさせてチェックして行く。

 無線とか、他の家にアラートをあげる物とか、何か丁度いいモノがあればいいんだけど……。

 ん、んん。

 こいつは、使えるのかこれ?


『トランシーバー(軍用)

 糸電話

 トランシーバー(動物さんシリーズ)

 ……』


 下二つは論外として、試してみるか。

 トランシーバー(軍用)を二つ発注し、一つを俺が持ちもう一つを目を輝かせているロンに手渡す。

 ロンにトランシーバーを見せながら、ボタンを押し込む。

 

「えー、あー、マイクのテスト中」

「すげえ! 兄ちゃんの声がこの箱から聞こえるぞ!」

「お、俺も聞こえる。大丈夫そうだな。そいつを家の中に置いておくから」

「分かった!」


 興奮したロンが叫ぶものだから、耳元にトランシーバーを引っ付けていたため……耳がきーんとする。

 ……ともかく、ちゃんと通話はできるようだな。

 声を相手に届けたい時だけ押し込む仕様だから、待ち構える方は何もしなくていいからな。操作が簡単なのはありがたい。

 

 問題は通信可能距離が記載していないので、俺の自宅からリバーサイドの家の距離で使用できるか不明。

 使えなかったことを考慮し、リバーサイドの家には保存食やらを準備しておこう。

 それなら長期滞在もできるものな。


「使えない時は狼煙を上げて待っていてくれ」

「細々と竜人達と交流のある獣人がいます。彼らにも頼んでおきます」


 リュティエが助け舟を出してくれた。

 よし、こんなところでよいか。


 改めてロンとリーメイと別れの言葉を交わし、固い握手をする。


「メシア……いつでも私はこの身を捧げても構いません。あなた様のために少しでも役に立つのなら、これほど嬉しいことはありません!」


 最後の最後でまたしてもリーメイがそんなことをのたまう。


「あ、いや。もっと体を労ってくれ。自分のため、みんなのためにも」


 自ら進んで犠牲になろうとする気持ちが理解できん……。

 何があっても一番大切なのは自分の命だろうに。例外は自分を犠牲にすることで、命より大切な何かを守れる時だけだ。

 少なくとも、生贄が何かを救うわけじゃあない。俺の独りよがりな考えってのは分かっている。

 分かってはいるが、リーメイには考え方を変えて欲しいと願う。


「それは……え、はい……」


 目を逸らしポッと頰を染めるリーメイ。

 何かとんでもない勘違いをしている気がするんだけど……触れたら薮蛇かもしれねえ、と俺の第六感が訴えかけている。

 なので、この件には触れないことを決めた。


「リーメイ、ロン、達者でな! また近く遊びに来るよ」

「おう!」

「はい」


 そんなこんなで竜人二人へ手を振り、ひまわり号にまたがった。

 後ろにタイタニアを乗せ、リュティエはシロクマさんに騎乗する。

 ワギャンとハトは先行して空へと飛び立って行く。


「よかったね! フジィ」


 タイタニアが後部座席から体を乗り出し、俺の顔を覗き込む。


「上手くいってよかったよ。あ、タイタニア。あんまり前に乗り出すと危ない」

「大丈夫だよ、だってフジィだもん」

「お、おう……」

「やっぱり、フジィはすごいね! 一つ落ちてくるだけでも大変な火の玉を、たった数日で解決しちゃうんだもの」

「リーメイが場所を教えてくれたからだよ」

「えへへ」


 甘えるような声を出したタイタニアが、乗り出した体の位置を戻す。

 その後、ぎゅーと俺に抱きつく腕に力を込め、頰を俺の背に引っ付けスリスリしてきた。


「ふじちま殿ー!」

「お、先行してもらえるか?」


 おっと、話をしていたらひまわり号の速度が落ちていたようだ。

 後ろを走るシロクマさんがひまわり号に引っ付いてしまったら事だものな。

 道幅を考慮して、ひまわり号とシロクマさんは縦に並んで進んでいる。


「いえ」

「ん?」


 シロクマさんが速度を落とし、ついには止まってしまった。

 どこか怪我でもしたんだろうか?

 俺もバイクを停車させ、シロクマさんから降りてきたリュティエに向け片手をあげる。


「ふじちま殿、突然止まってしまい申し訳ありませぬ」


 深々と頭を下げるリュティエに、只事ではないのかもしれない……と戸惑う。


「動けないほどの怪我か病気なのか?」

「いえ、ふじちま殿が豊富な餌を与えてくださっております。シロクマは極めて健康と言えるでしょう」

「お、それは良かった」

「ここで停止したのは、私のわがままです。お許しを」

「いや、急ぐ旅路じゃないし、問題ないさ」


 トイレにでも行きたかったのかな。

 なら、せっかくだから簡易トイレを……。

 タブレットを出し、家具のカスタマイズメニューからトイレを探す。


「ふじちま殿!」

「もうちょっと……」

「此度は竜人達に尽力下さり感謝致します!」

「このトイレがよさ……ん?」


 ちょうどいいサイズのトイレを見つけたのだが、違うのか!


「一刻も早く、ふじちま殿へ伝えたく止まってしまいました」

「リュティエだけじゃなく、みんなの気持ちは、わざわざ改めて言わなくても充分俺に伝わっているよ」

「私の我がままから始まったことですので、この口でしかと伝えたかったのです。最後まで我を通し申し訳ありませぬ」

「いやいや。リュティエ……何でもない」


 「そこまで気遣いしなくても」と口を滑らせそうになり、慌てて口と閉じた。

 リュティエはリーメイとロンに配慮し、彼らのいる前で感謝の言葉を述べなかったんだ。

 火山噴火は竜人達の抱えたトラブルであり、彼らと俺の間に余計な水を差したくない……いや違うな。竜人の二人を立てたんだ。

 全くもう。

 でも、実直で人情味のある彼のことは好ましく思っている。

 

「どうされたのですか?」

「んー。リュティエはやっぱ肉が好きなのかなあって」

「そうですな! 野菜は余り食しません。虎型の獣人は元よりかなり肉食に寄っています故」

「そうなのか。じゃあ、アイシャは肉を食べないのかな?」

「食べられないわけではありません。しかし、自分から好んで食べるわけではありませぬな」

「そっかあ。食事を出す時は気をつけないとなあ」

「料理とは気持ちだと思っております。ふじちま殿が心を籠めて出された食事に対し、誰も悪い気など持つはずがありませぬぞ」


 ガハハハ。と豪快に笑い声をあげるリュティエ。

 よっし、今晩は「こんがり焼けましたー」な骨付き肉にしよう。おっきい奴な。

 グルグルと回転させて焼くんだ。

 

『クアアアア!』


 っつ。

 何だよ。人がいい気分で妄想して涎を垂らしそうな時に。

 頭の中に突然、迷惑な鳥の鳴き声が響く。

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